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69 深淵への入り口



 俺のレベルアップによって俄かにテンションが上がったとは言え、探索が地道なものである事に変わりはない。


 索敵、魔物の討伐、事後処理とマッピング、そして再び索敵……。

 新魔法の試し撃ちや実戦投入を時々挟みながら俺達は奥へと進む。


「次、ドラゴンキン三体」


 トビーが次の小部屋の索敵から戻ってきて言った。


 ドラゴンキンとはこの第八階層に大量にいる小型の竜で、恐らく門番である白竜の眷属だと思われる。

 白い鱗による高い魔法耐性と翼を用いた飛行能力、そしてブレスという飛び道具を持つ厄介な相手だ。


「分かった。初手ブリザードからのライトニングバインドでいく。その後二人は突撃してそれぞれ一体ずつ押さえてくれ。俺は残った一体を魔法で処理する」

「了解っす」

「了解」


 ざっくりとした戦術を伝えながら補助を掛ける。


「水はいるかい?」

「じゃあ一口もらおうかな」


 相手は竜の眷属だけあって強力な魔物だが、流石に一か月以上戦っていれば慣れも生まれるというものだ。

 戦いを前にしても俺達は特に気負うでもなく、速やかに準備が完了する。


「よし、行くぞ。……吹雪ブリザードッ!」


 発声に伴って氷雪の嵐が巻いた。


 効果範囲は小部屋の入り口から撃たなければ確実に自身を巻き込んでしまうほど。

 雪による低温と氷の礫による物理ダメージの二段構えで威力も十分……のはずだが、ドラゴンキン達の耐性の前には目くらまし程度にしかなっていないようだ。


 三体のドラゴンキンは平然と火球を吐き出してくる。


「はあっ!」

「よっせい!」


 火球はズーグが槍で、トビーが盾でいなしてしっかりとガードしてくれた。

 カトレアにも盾を持って俺の前に立ってもらっているが、今のところ彼女を働かせるほどの事態に陥った事は無い。


 俺はこの隙に補助魔法を展開する。


精神撃ショック雷拘束ライトニングバインド


 ショックが着弾。先行放電ストリーマーが地面から立ち上り、直後一気に広がった雷の拘束が、魔法抵抗を減じられたドラゴンキン達に襲い掛かった。


「グギャアアアア!」


 苦悶の声は拘束が成功した証だろう。

 麻痺系統の効果を含むライトニングバインドの拘束力は、これまでの使用感からも非常に高い事が実証されている。

 まあショックのデバフ込みなので普通の魔法使いにとってどうかは知らないが。


 俺がそんな事を考えているうちに、ズーグとトビーは近接の間合いに入ったようだ。

 俺も脳裏で拘束の秒数を数えながら、次の魔法の選択を行う。


 飛翔に対するエアハンマーはひとまず準備しておこう。

 後は俺の担当するドラゴンキンを処理するために、更なる拘束の呪文が必要だな。


氷棺アイスコフィン!」

 

 アイスコフィンは視界にある空間の一点を指定し、そこを中心に氷塊を生み出して相手を氷漬けにする魔法である。

 氷が生成される時間の関係でライトニングバインドほどの即効性は無いが、質量があるおかげで拘束力についてはこちらが上なのである。


 そして稼いだ時間に俺が発動した魔法は、師匠に教えられた必殺の火系魔法であった。


完全熱量変換パーフェクトコンバージョン!」


 この魔法は画期的な術式により一躍有名になったが、俺はそれ以上に、その単純なる威力こそがこの魔法の特徴だと考えている。

 自力習得ゆえか発動には少し溜めが必要になるが、バフとの相性も良く必殺技と言って差し支えない性能なのだ。


 魔法が過たず発動し俺の目の前に半径十センチほどの光球が生成される。

 そしてそれが射出され、


「ギギャアアァァァアァ!」


 着弾と同時、恐らく断末魔のものと思われる大声が響き渡った。

 ドラゴンキンの白い鱗が更に白く発光し、周囲を覆っていたアイスコフィンの氷は瞬時に蒸気と化して既に跡形もない。

 ブリザードによって冷やされた空気もそこを中心に瞬く間に暖められていく。

 

 熱によって白く発光しているという事はプラズマ現象なのだろうか。

 正直俺も物理が専門という訳ではないので詳しくは分からないが、恐ろしい威力である事に違いはないだろう。

 ドラゴンキンの体は発光が収まると炎に包まれ、そして最後には真っ黒な炭へと変じた。


 ……よし。これで一体。

 

 他の二人は……と思って視線を移すと、あちらももう終わりそうな感じである。

 トビーの方が若干とどめを刺し損ねているくらいだろうか。


 まあこの結果は、ライトニングバインドの足止め中に全力攻撃を叩き込めるのだから、当然と言えば当然だろう。


 ズーグなら竜徹槍にマキシマイズエンチャントを乗せれば十分な威力が出せるしな。

 トビーの方はやや火力不足のようだが、これはズーグとの腕力・技能差や武器(片手剣)の性質を考えれば仕方がない。むしろ眷属とは言え竜の防御を突破できているのだから優秀だと言えるだろう。


 そんな事を考えながら、トビーの戦いをズーグと共に見守った。

 そして、


「おっりゃああああ!」


 気合一閃。

 大上段からの振り下ろしでトビーがドラゴンキンにとどめを刺した。


「よし! おつかれトビー、いい一撃だったな!」

「最後のいなし・・・は良かったんじゃないか?」

「へへ、まあ会心ってやつっすね」


 俺とズーグに労われながら、トビーが誇らしげに鼻をこする。


 その後、魔石を拾ったり水分や栄養補給を行ったりと、俺達は事後処理を行った。


「このフロアも粗方探索し終えましたし、次はいよいよ下へ向かう階段の方っすね」

「ああ、そうだな」


 水筒から水を飲みながら言ったトビーの言葉に、俺は頷きを返した。

 

 マイトリス迷宮地下八階は、現在までの探索の結果で下へ下へと向かっていく構造になっている事が分かっている。

 今居る場所は地下八階到達直後の地点から数えて三つ目のフロアに当たる。

 このフロアでも俺達は下へ向かう階段を発見しているが、地下七階の時と同じく他を埋め終わるまで先に進まないようにしていたのだ。

 

「旦那、恐らくあの階段の先には白竜が居ます。ご注意を」

「分かってる」


 俺達が発見した階段は、階層移動の時に目にしたもの、あるいはフロア移動の時に目にしたもの以上に「文明的」な見た目をしていたのである。

 そこに何かの意図を感じないほど俺も鈍感ではない。


 ゴツゴツした岩肌をした壁面、凸凹の激しい地面、天井や地面から生える鍾乳石のような突起。

 階層移動時の階段も階段状に見えるだけで実質その延長線上にある。

 その中にいきなりつるりとした壁面で囲まれた階段が姿を現わせば、誰だって何かあると気付くだろう。


 すなわちそれは白竜の待ち受ける部屋に違いないはずだ。


「聞いた限りじゃ近付くだけで襲ってくる事は無さそうだし、様子見だけはしていこう」


 俺の言葉に各人異論は無いようだった。

 そして俺達は移動を再開し、ほどなくして目的の階段の入り口へと辿り着いた。


「よしいくぞ。トビーが先頭な」

「ご主人が前行ってくださいよ。オレは魔法使えないんで」


 軽い調子で階段を下りていくが、表面上のやり取りとは裏腹にメンバーの緊張感は高まっている。

 探知の魔法も一応発動し、ステータス画面を見ながら階段に足を踏み入れた。


「……」


 コツコツと、地面が平面であるがゆえ、靴底が地面を打つ音が響く。

 階段の途中はヒカリゴケが薄くかなり暗くなっている。

 くだりで足を取られないように進んでいくと、その先にぼんやりと浮かび上がる何かが見えた。


「何か、いつもと様子が違うねえ」

「みたいだな」


 ヒカリゴケが生えている量の違いにより、通常は通路や階段よりも部屋の中の方が明るいものである。

 そのため通路から小部屋の方を見ると入り口がぽっかりと明るく見えるものだが、この階段の先にはそれが見えない。


「光ってるのが二つ見えるっすね。部屋への入口って感じじゃなさそうに見えやすが……」

「旦那、どうします?」


 ズーグが聞いてくるが進まない事にはどうにもならないだろう。

 いやまあ、彼が聞いているのは準備、つまり補助を掛けて不測の事態に備えるかという事なんだろうけど。


「そのままいく」


 警戒は強めつつも俺達はそのまま階段を下りていった。


 階段下まで行くと、そこは広間のようになっていた。

 二つ見えた光源は、地面に埋め込まれた水晶の発光によるもののようである。

 それは二つのみに留まらず、道を作るかのように二列で整然と並び、階段から一直線に伸びている。


 そしてその到達点にあったのは……、


「……扉?」


 明らかに人の手が入ったような、平らな壁や地面で構成された階段。

 その先にあった広間も同様で、光源は魔法の産物にも見える水晶だった。


 しかしそれを置いても更に異質に思える、精緻な装飾が施された扉がそこにあった。

 

「ふむ、扉か……」

「となると、この先にいんのが白竜ってことだな」

「だろうねえ。と言うかこの扉もすんごいよ。王城の城門にだってありゃしない」

「カトレア姐さん王城とか行ったことあんのか?」

「ああ、闘技大会で優勝した時にちょっとね」


 ズーグ達が扉を前にそんな会話をしている。

 カトレアの何気に凄い経歴が明らかにされてるが、今はそれはいいだろう。


「……旦那? どうかされたのですか」


 その会話に混ざらず扉を見上げている俺を不思議に思ったのか、ズーグがそう尋ねてきた。


「この装飾がちょっとな。もしかしたら術式が混じっているかもしれない」


 俺だってこれでも魔法使いの端くれだ。

 直感的なものではあるし、すぐに何の術式かは分からないが、それが魔法的な意味を持っている事くらいは理解できる。


「なんと、そうなのですか?」

「確証は無いけどな。……カトレア、地図描き用の筆記具を貸してくれ。一応書き留めておく事にする」 

「あいよ」


 俺はカトレアから下敷きの板と紙、そしてペンを受け取って書き取りを行った。


「うーむ……」


 書き終えてみても、やはり術理は分からない。

 理力魔法っぽい感じはするが、全く理解できないところを見ると全然違うものの可能性もある。


 俺の知識ではどうにもなりそうにないので、これはひとまず師匠に見せる事にするか。自分で解析しても良いが時間が掛かりすぎるだろうし餅は餅屋だ。専門家に任せるのが良いだろう。


「さて、扉は……ひらかない方が良い気がするな」

「こうしてわざわざ空間を区切っているのを見ると、確かにそんな気はしますね」


 若干警戒し過ぎている感じはあるが、他のメンバーからも反対意見は無かったのでここで撤収とする事にした。

 白竜のツラは拝めなかったが、それはバーランド師範に詳しく話を聞いてからでも良いだろうし、次回のお楽しみにするとしよう。


 そういう訳で、魔力ポーションの摂取と休憩を挟み、俺は自宅へのテレポートを行った。

 予備知識で転移酔いとか魔力消費とか弊害がある事も分かっていたが、補助魔法も積んだし四人同時が不可能でないならやらない手は無いからな。


 そして転移後、何故かトビーとカトレアがゲーゲー吐いてレイアが若干キレるという一幕はあったが、こうしてこの収穫の多い長期探索は終わりを告げたのであった。 



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― 新着の感想 ―
[一言] うわっ、俺の呪文 カッコよすぎ・・・
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