68 新魔法習得
明日も投稿します。
結論から言うと、パーフェクトコンバージョンの習得には丸二ヵ月を要した。
師匠によればこの習得スピードは平均くらい、飛び級である事と探索を挟みながらである事を考慮すればやや早いと言ったところらしい。
俺の主観では凄く時間が掛かった印象だ。
なにせ一つの技能の鍛錬にここまで打ち込んだのは初めてだからな。
魔法習得までの経緯だが、まず術式描写に合格点が出るまで三日。
それを安定して描けるようになるまでに一週間。この辺りから魔法の発動訓練のために想起法を交えた修練がスタートし、合計で二週間師匠のもとに通い続けた。
そこからは家では書き取り、迷宮では想起法による発動訓練を空き時間に行った。
迷宮から帰れば授業の後か休養日に師匠のもとへと赴き、術式認識にブレが無いか、発動時の術式想起のコツを聞くなど、細かい指導を受けた。
そうして一か月半の反復訓練を経て、俺はようやく完全熱量変換を発動するに至ったのである。
初めてこの魔法を発動させたその日、俺は「なんか今日イケそう」というよく分からない確信に従って、魔法の発動訓練を実戦に組み込んでいた。
地下八階への長期探索も六回目となって、魔物との戦いにも慣れが出てきた事も理由の一つに挙げられる。またそろそろマップが埋まって白竜と出会いそうな段階に来ていたので、事前準備という意味で魔法の習得を早めたい意図があったのである。
そしてその結果、俺は見事戦闘中にパーフェクトコンバージョンの発動に成功した。
戦闘時の集中が良い方に作用したのだろうか。
上手くいった理由は正直分からない。
とにかく俺が呪文を唱えた瞬間に魔法が発動し、恐ろしいほどの熱を滾らせた魔力球が射出され、それが着弾した魔物は一瞬で消し炭となったのである。
「うおっ……発動した!」
「おお! やりましたね旦那!」
「すっげぇ! マンティコアを一撃っすか!」
倒した相手がマイトリス迷宮地下八階の大物「マンティコア」であった事もあり、俺を含めたメンバーの驚きは大きかった。
まあ発動した事自体に驚いていたのは俺だけかもしれないが。
魔法の発動後には、覚えのある感覚……つまり自然と呪文が浮かんでくる感覚がある。
ずいぶんと久しぶりになるが魔法技能のレベルが上がったという事だろう。
俺はすぐにステータス画面を呼び出して確認を始めた。
【ステータス画面】
名前:サイトウ・リョウ
年齢:25
性別:男
職業:才能の器(79)
スキル:斥候(5)、片手武器(5)、理力魔法(8)、鑑定(5)、神聖魔法(8)、魂魄魔法(7)、看破(5)、体術(5)、並列思考(6)、射撃(5)、空間把握(5)、盾使い(5)、情報処理(5)、剣使い(5)(SP残0)
確認の結果だが……理力魔法のレベルが8となっていた。
第八位階の完全熱量転換を扱えるようになったとは言え、一つの魔法を習得しただけで才能の器の技能レベルも上昇するのは当然と言っていいのだろうか。
その辺りは検証待ちになるが、とにかくこれで自動習得の魔法も一気に習得できたのだから、やはり才能の器という能力は恐ろしい。
苦労を重ねて魔法習得の難しさを実感した俺にとっては余計にそう感じられる。
理力魔法レベル8までで自動習得した魔法については、これまでと比較するとさほど多くはない。
ただレベルが三つも上がったのだから全体としてはかなりの数に上る。
対抗魔法、雷拘束、魔導壁、転移、爆炎、火竜の息吹、吹雪、氷棺、竜巻、岩石落下、岩石衝、地揺れ、地割れ。
これらが新たに習得した魔法だ。
これにパーフェクトコンバージョンを加えたものが、俺の新たな戦力という訳である。
ちなみに数は多いが、攻撃魔法は規模が大きいものが多く実用的なのは少数だったりする。
ウインドストームやブリザードは効果範囲の限定が非常に難しいと考えられるので、戦場となる場所の広さにもよるが迷宮での使用は限定されると考えられる。使えたとしても部屋の外(あるいは端)から初っ端にぶっ放すくらいだろうか。
エクスプロージョンもファイアボールの上位互換にはなるが、使い道は同じようなものだろう。威力は頼みにできるかもしれないが、それについてはパーフェクトコンバージョンの方が使いやすそうだし、あまり使う事は無いと考えられる。
アースクエイクやクラックは地面に影響を及ぼす魔法で、迷宮壁が非常に高い魔法耐性を持っているためそもそも発動するかが怪しいところだ。
普通に使えるのはロックフォール、ストーンスパイク辺りであろうか。どちらも岩石を作成する魔法だな。
ドラゴンブレスは指向性の程度にもよると思うので、実際に使ってみて確認する事にしよう。
それから補助系の魔法についてだが、フォースシールド、カウンターマジック、ライトニングバインド、テレポートの四種を習得した。
フォースシールドはエーテル的なシールドを展開する魔法で、シールドの形は球形をしているようだ。防御性能はエーテル・エレメントどちらに優れるという事は無く中庸だが、逆に言えば特化していないとも言えるので過信は禁物だろう。
俺の場合はスペルエンハンスを始めとした魔法強化魔法があるので、堅さは補えるとは思うが。
カンタマは相手の魔法にぶつけるものなので使いどころはあるだろう。
ただ俺の一手分を使うほどかというと微妙なところでもある。敵の魔法とタイミングを合わせないといけないし、これも発動速度を始めとした使用感を検証する必要があるな。
バインドはまあ、デバフ系列なので戦術オプションとしては良しだろう。
パラライズなどの拘束系は敵が強くなる程効果が薄くなるので、高位魔法であるこいつの威力には期待したいところだ。
最後にテレポートだが、これはもう言わずもがなという感じで有用である。
予備知識によると迷宮内部への転移は不可能だが、中から外への転移はできるらしい。
つまりテレポートは迷宮において、リ〇ミトとして使える訳だ。
魔力さえあれば帰りが一瞬で済むならかなり探索は捗るだろう。もちろん迷宮外では普通に転移できるし、他のどの魔法を差し置いても最も影響力のある魔法だと言えるはずだ。
「……旦那、どうですか?」
ちょうど習得した魔法の確認を終えた頃、ズーグから声が掛かった。
彼も俺がステータス画面を見ていた事は分かったのだろう。この質問はレベル上昇の結果について問うているのだ。
「理力魔法が崖を越えて、レベル8になった。魔法も結構覚えたから、後で説明するよ。とりあえずはここを片付けよう」
俺達は魔石を拾ったりなどの戦後処理を行い、その後部屋の隅に移動して腰を下ろした。
そして説明を行えば、メンバーの顔には再び驚愕が浮かび上がる。
「魔法めっちゃ覚えましたね……神威を克服した時より多いんじゃないっすか?」
「アタシはご主人サマの凄さを再確認したところだよ」
トビーとカトレアからはこんな感想が返ってきた。
ズーグはむっつりと黙っているが、多分この顔は「やはり英雄……」とか考えているに違いない。
「三つもレベルが上がればこんなもんだろう。理力魔法はそもそも数が多いわけだし」
「そういうモンっすかね」
「多分な」
正直俺だってその辺はよく分からない。
なので適当な返事をしたら、伝わったのかトビーは微妙な顔で肩をすくめた。
「それよりここからは検証を含めてやってくぞ。最終目標の変更は無しだ」
「帰還しなくてよいのですか? 師匠殿に報告が必要でしょう」
師匠への報告は確かに重要である。
もの凄くお世話になったし、迷宮を出たらすぐにでも報告に行きたいくらいだ。
「お師匠さんに報告なら、ついでに宴会もやらないとね!」
「あーまあ、それもだな」
カトレアが勢い込んで言う宴会もやる事にしよう。この二ヵ月の鍛錬の間に、一度師匠を招いて接待という名の飲み会を開いたのだが、これが中々楽しかったのだ。
いやもちろん師匠へのお礼としての食事会なので、俺達が楽しむのは二の次とはしていた。
ただなんやかんやと盛り上がり楽しかったのは事実である。
ちゃんと師匠も楽しんでくれたみたいだし、目的は果たせたはずだから別に良いだろう。
ちなみにその時師匠のテンションが上がり過ぎてお酒に呑まれ、へべれけになって治癒による解毒が必要になるという一幕もあったりした。あの人はどうもお酒を飲みなれていないらしい。
まあ、それはともかくとして。
「色々やりたい事はあるが、探索は継続だ。まだ予定日数は残ってるだろ? 早く白竜への挑戦をするためにも、魔法の検証と白竜の居場所の発見はしておきたい。さっさとやる事やって、師匠に早く報告しにいかないとだな」
まずは新魔法の試し撃ちからだ。
各々気合を入れ直し、活動再開となった。
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