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66 理力魔法の指導その二



 師匠から見た俺の魔法技能に関する現状認識とは。

 

 まず前提条件の話にはなるが、俺が世界記憶アカシックレコード型の魔法使いという事だろう。


 実際のところは、才能の器による魔法の習得とアカシックレコード型の習得が同じものであるか、確証はない。

 しかし過去の例と類似性はあるし、過去のアカシックレコード型魔法使いが才能の器と同系統の能力を持っていた可能性もある。過去の例と俺を直接比較できない以上否定する事も難しいはずだ。

 そのためひとまずは、俺をアカシックレコード型魔法使いとして検証を進める事で差支えは無いはずだ。事実については、いつか折を見て師匠に明かす事にしよう。


 次に扱える魔法の種類について。

 俺の魔法を紙に並べて書いた時、師匠は一見して「古い魔法だな」と思ったらしい。

 新魔法文明初期には「アカシックレコード型による魔法習得は古代魔法文明の魔法のみ」という仮説があったが、近代における例がほとんど無く検証もされていないため現在では疑問視されている。しかしながら俺の魔法の確認を行っていくと、古代魔法文明の魔法のみを習得していた事が判明したそうだ。

 この事に師匠は、過去の仮説を裏付けるデータが取れたと言ってちょっと興奮していた。


 またこの確認の時に併せて、習得した魔法の難易度についても仕分けを行った。

 習得した順番を新たな情報として付け加え確認を行うと、どうやら俺は第五位階までの魔法を低い位階から順に覚えている事が分かった。


 魔法の位階は術式難度によって分類されるもので、術式難度は行使難易度・消費魔力・必要出力の三要素によって決定される。これはまあ難しく考えず、字面の通り魔法の位階レベルと覚えておけばいいだろう。


 先に述べた通り、俺はこの位階の順に魔法を習得しているが、それはすなわち技能レベルと魔法の位階が一致しているという事だ。

 これを当然と言うべきか不思議と言うべきかは正直よく分からない。

 ただ偶然とは思えない一致に驚きを隠せなかった。


 師匠の方も技能レベルの事は分からないまでも驚きの声を上げていた。

 学会によって定められた分類方法が世界記憶アカシックレコードと一致する、つまり人知が世界の法則の一部を解明したのだと分かったのだから、然もありなんと言ったところだろう。


 と、ここまでの話を語った師匠は、板書の手を止めてこちらに向き直った。


「さて、ここまでの理解は大丈夫かい?」

「はい」


 俺の返事に頷くと師匠はカップに口をつけて喉を潤す。

 俺もそれに倣って冷めた茶を一口飲んだ。


「じゃあ次に、これらをどのように検証していくか、その方法について話してみよう」


 再び師匠の解説が始まった。


 理力魔法の検証点として挙げられたのは二つ。

 古代魔法のみ、そして低位階から順に習得するのは何故かという点。

 そしてこのセオリーを任意に飛び越えられるのかという点である。


 前者については、世界記憶アカシックレコードという概念に対する考え方も関わってくるので、師匠の方で調べを進めてくれるらしい。俺の方でやるべきは今後自動習得する魔法を記録していくくらいだろう。


 後者の方は今回わざわざ時間を作ったメインの話になる。

 と言うかこれまでの話はすべてここに至るための前置きだったりする。


 魔法を飛び級で習得するとは、俺で言えば第五位階の次に第六位階を習得するのではなく、第七や第八といった高位の魔法を習得するという事だ。

 これは一般的な魔法使いとしても不可能な事ではない。もちろん低位階から順を追って覚える方が習得は楽らしいが、魔法と術者との相性によって例外的に高い位階の魔法を扱う者も存在するので、世間的に見てもままある事例なのである。


 この飛び級習得を行う事で、あるいは行えるかどうかを確認する事で、アカシックレコード型の魔法使いの特性が明らかになるだろう。俺としても飛び級にチャレンジする事で、才能の器の技能レベルが上がるのではという期待を持っていたりする。


 まあ客観的に見れば、現時点では「面白そうだからまずこれを試してみよう」といった範囲を出ない程度の話ではあるんだけどな。

 これは師匠が探索業を主にする俺に配慮した結果だと、勝手に推測している。

 検証が無駄になったとしても、高位の魔法を教授の指導の下で習得できる訳だし。


 それから一応、神聖・魂魄魔法の検証も行う事になっている。

 ただこれにはまず俺が、これら魔法の術式を文字として記述できるようにならないと、進める事は不可能だ。基本的に神聖・魂魄魔法の術式はそのほとんどが秘匿されているため、師匠と共に検証するにはまず、元となる術式を自力で獲得する必要があるのである。


「何となく使ってる魔法の術式を記述ってのは、いまいち想像できないんですけどね。しばらく時間がかかりそうです」

「はははは。まあ今まで何の下積みも無いのに、一朝一夕で魔力の流れから術式を逆算できるとは思っていないよ。錬金術師だって見習いじゃできないやつが沢山いるような技術だからね」

「錬金術師ですか?」


 聞きながら脳内の予備知識・・・・を検索してみると、錬金術は魔道具生成に関わるものらしい。


「うん。錬金術師は魔道具に記述した術式にきちんと魔力が流れているか、チェックをしないといけないからね。そういう技術が必要になるのさ。後はライバルの術式を盗むとかだね」


 そう言って師匠はいたずらっ気のある笑みを浮かべた。ちょっと可愛い。


 と言うか、この話は何気に重要かもしれない。

 錬金術師にそんな技能があるのなら、才能の器にある「錬金術」のスキルを取ればいいのではないか。戦闘に直接影響が無いうえ、魔道具生成にまで手を出せないと無視してきたスキルである。

 残念な事に直近で得たSPは剣使いスキルに使ってしまったが、次のスキルとしては検討しておこう。

 まあ今の総合レベルが74で次のSPが80で得られるとしても、剣使いスキルがレベル5になったとして総合76なので、理力魔法がレベル9にならないと駄目な訳だが。他の技能のレベル上昇を見込むとしてもそこそこ先の話になりそうである。


「そういえば、神聖魔法とかの術式を書き起こすのって問題にならないですかね? 秘匿してきた人たちから恨みを買いそうなもんですが」

「まあ、それは十分注意しないといけないだろうね。どっちも敵対すると厄介な奴らだから」


 やはりそうなるのか。

 となると、しばらくは公にせずここだけで検証や情報の蓄積をする事になるな。


「最終的には学会に発表したいけど……色々根回しが必要だろうし、簡単にはいかないだろうね」

「神殿がらみなら、別件で公爵に後ろ盾になってもらう約束があるんです。そちらに話を通しておきましょう。神殿の政治的影響力を削ぎたい狙いがあるようなので、協力してくれると思いますよ」

「君はそんな事をしていたのか……ああなるほど、欠損治癒かい?」


 師匠は怪訝そうな顔になった後、すぐに洞察力を発揮して理由を言い当ててきた。

 やっぱり魔法の事に関しては正答するのだろう。あの推理を最近聞けてなくてちょっと寂しいくらいである。


「君が欠損治癒をするなら今まで必要だった手間がほとんどゼロになる訳だし、引く手は数多だろうね」

「そうですね。神殿に睨まれるのは厄介ですけど、資金調達には必要な事です」

「なるほどなあ……それにしても政治的影響力とかそういう話になってくるのか」

「この研究が進んで神聖魔法の術式が公開されるとなれば、もっと大事になるんじゃないですか? 下手をすれば神殿じゃなくても神聖魔法を覚えられるなんて事になり兼ねませんよ」


 俺の言葉に、師匠は物凄く嫌そうな顔になった。


「板挟みだねえ……。興味はある、知ったなら公開したい。でもそうすると恐ろしく面倒事に巻き込まれるという訳だ。けど……」

「けど?」


 眉根を寄せた表情が言葉と共に変化していく。

 難しそうな表情でありながら、不思議と面白がっているような。


「ここで引いたら研究者じゃないだろう。秘密にするなら魂魄魔法使いの野郎どもとおんなじだ。覚悟を決めよう。ひとまず一人で抱え込まずに済みそうだしね」


 強い視線を向けられ、俺も意志を込めて視線をぶつけ返した。


「ありがとうございます」

「こちらこそだね。君と知り合ったのは武器屋の店番をしていた時だったが、それがこんな大事になるなんて思いもしなかったよ」

「俺もそう思いますよ。まあ、これで師匠も俺と一蓮托生です。何かあれば協力してやっていきましょう。色々な懸念はありますが、もし相手が実力行使に出てくるなら、その時は俺が責任をもって守りますので安心してください。師匠は大事な人ですから」


 神殿は社会的信用があるからどちらかと言えば圧力を掛けてくる感じになると予想している。一方の魂魄魔法使いはキチガイ揃いらしいので破滅的な思考で来られると色々危なそうだ。

 どちらにせよ師匠は俺が魔法の技能を培い、横槍を躱しながら迷宮探索に邁進するために必要な人物だ。そんな大事な人に傷一つ付けさせるわけにはいかないだろう。


「……」


 と、俺はそんな事を考えていたのだが、師匠の方からは急に反応が無くなった。

 見ると口を半開きにしてちょっと顔が赤いがどうしたことだろうか。


 いや待て。

 直前の俺の発言を思い返せば……。

 

 もしかしてなんか、口説いたみたいになってた? 


「ご、護衛をやらせてもらいますので研究が進んできたらまた相談しましょう」

「そ、そうだな、魂魄魔法使いは噂通りなら危ないかもしれないし。私も兆候が無いかツテを使って注意しておくことにしよう」


 慌てて俺が言い直すと、師匠も再起動を果たしたようだ。

 と言うかかなり真面目な話をしていたのに失礼過ぎるだろ。女性相手に言葉をちゃんと選ぶべきだった。

 師匠の覚悟に感動して、しかも何気ない出会いの話とかされて、ちょっと感情的になってしまったようである。


「じゃ、じゃあ話を進めようか。さっき言ってた高位の理力魔法の習得だね」


 あまり気にせずに師匠が流してくれたのは本当に良かった。

 この程度で気分を害する人でない事は理解しているが、申し訳ない気持ちに変わりはないし。

 この借りは別のところでちゃんと返す事にしよう。なんか良いのがあっただろうか。


「さて、私も色々習得する魔法を吟味してはみたんだが、せっかくだから完全熱量転換パーフェクトコンバージョンを習得してみないかい」


 俺が先ほどの失態に対し心の中で言い訳じみた事を考えているうちに、師匠は引き出しから資料を取り出してきて机の上にドサリと置いた。


「それって確か……」

「ああ、先の魔法学会で私が発表した、最新の魔法だよ」


 師匠はにっこりと笑い、さらりと高難易度の魔法(むちゃ振り)を口にした。

 

 それを見て俺はやっぱり怒らせたかもしれないと少し後悔するのであった。




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