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59 帰宅後の風景



 

「はい、リョウさん」

「おう、ありがとう」


 食事を配膳してくれるシータに礼を言う。

 地下七階の探索を終えた俺達は、家に戻って入浴し、汚れを落として食事を待っているところであった。


 家内の仕事はその多くをレイアが受け持つが、手伝えるところは皆で積極的に手伝う事になっている。

 流石にこの生活を始めて一週間というところなのでまだ完全に決まった訳ではないが、一応役割分担も進んできていたりする。

 例えば風呂とトイレの掃除は野郎どもの仕事だ。

 食事の準備や配膳はシータが、洗濯の力仕事部分はカトレアが手伝っている。


 家主のシータや奴隷の主である俺は仕事が免除されがちだが、シータは家事(特に料理)を覚えたがっているし、俺も家での生活は共同体な感じにしたいので手伝いは怠らないつもりだ。

 今は新生活が始まったばかりであまり決まりを作っていないが、これから各々の作業量とかを調整してなるようになるだろう。


 俺がそんな事を考えているうちに、配膳が終わり夕食が始まった。


「うん、今日も美味いな」

「ホントですか? えへへ……今日のメインは私の担当なんです」


 俺に褒められてシータがはにかむ。

 今日のメニューは肉団子と芋の煮込みと野菜の酢漬けだが、煮込みの方はシータが担当したらしい。


「シータさんは素直なので教えがいがあります」

「レイアさんは優しくて、すっごい教え上手なんですよ」

「へえ、そうなのか」


 シータに料理を教えているレイアもにこにこと笑顔だ。


 料理を通じて彼女たち二人の仲が深まるのは非常に良い事である。

 俺達が探索している間、家に残るメンバーな訳だしな。

 地下七階以降の探索では何日も日をまたぐ事になるので、これで憂いなく探索に打ち込めるというものだろう。


「レイアは料理が得意みたいだし、迷宮じゃアタシが料理を受け持つって話だから、ちょっと教えてもらおうかねぇ」

「得意ってほどでは……私のは家庭料理程度ですよ」

「それで充分さ。ウチのご主人サマは庶民派だしね」

「そうなんですか?」

「ああ、ちょっと前まで迷宮区の安宿に泊まってたくらいだ。質より量で大変結構、って感じだな」


 俺がおどけたように言うとくすりと笑いがこぼれる。


「迷宮内じゃ粉モノとか干し麦とか、あとは干し肉とか使える材料に色々制限があるから、それでメニューを考えてくれると嬉しいんだが」

「分かりました。じゃあカトレアさん、後でその材料を教えてください」

「りょーかい、りょうかい」


 料理をほおばりながらカトレアは頷いた。


 静かな野郎どもに視線を移せば、ズーグもトビーも黙々と料理を平らげているようだ。

 トビーがお替わりと皿を差し出し、レイアが傍に置いた鍋から給仕をしている。


「それにしても」


 少し物憂げな調子でレイアが言った。


「奴隷になった時はこんな生活をする事になるなんて、思いもよりませんでした」


 しみじみと彼女が言うには、奴隷としての生活はもっと辛くて惨めなものだと思っていたらしい。


 それが蓋を開けてみれば、作業量は多くとも普通の主婦……は言い過ぎとしても、普通にメイドとして雇われたような待遇である。

 しかも懸念していた性奉仕は無いし、仕事は全員で手伝うわ食事は主人と同じものが食べられるわと、ヘタをすれば普通に働くより待遇が良い部分もある。


「本当にこんなで良いのかって、逆に少し心配になります」


 俺の奴隷となって一週間が経ち、望外の生活に彼女はそんな感想を抱いたようだった。


「まー、ウチのご主人は変わりモンっすからねえ」

「うっせぇこのヤロー」


 トビーのあっけらかんとした答えに言い返せば笑いが起きる。

 彼が軽口を言って俺が突っ込むという関係性は、最初新しい奴隷二人は困惑していたようだが、今はもう慣れたものだ。カトレアなんかは既に一緒になってイジってきたりするくらいである。


 そんな風に和やかな感じで食事が終われば、次は夜のお勉強タイムである。

 いや、なんかこう言うといかがわしく聞こえるが、食後のお茶を飲みながら魔法書を読んだりしているだけだ。

 ズーグは部屋に引っ込んで瞑想を。トビーも最近はズーグに倣って瞑想をしているようで、もしかすると魔法の習得を諦めていないのかもしれない。


 今は女性陣が仲良く並んで食器を洗い、俺はテーブルで本を読んでいる状況だ。

 非常にまったりした時間だが、俺にとっては並列思考で今日起こった事を整理する重要な時間でもある。

 並列思考での考え事は割と常時やっているが結構散逸的なんだよな。

 こうして席について思いついた事をメモに取れる落ち着いた時間ってのは貴重なのである。


 今日もひとまず現状の整理からしていく事にしよう。



【ステータス画面】

名前:サイトウ・リョウ

年齢:25

性別:男

職業:才能の器(69)

スキル:斥候(5)、片手武器(5)、理力魔法(5)、鑑定(5)、神聖魔法(8)、魂魄魔法(7)、看破(5)、体術(5)、並列思考(6)、射撃(5)、空間把握(5)、盾使い(4)、情報処理(4)(SP残0)


【ステータス画面】

名前:ズーグ・ガルトムート

年齢:58

性別:男

職業:戦士(26)

スキル:両手武器(7)、竜魔法(3)、槍使い(8)、片手武器(5)、投擲(3)(SP残0)


【ステータス画面】

名前:トビー・ステイン

年齢:24

性別:男

職業:戦士(26)

スキル:片手武器(5)、斥候(5)、盾使い(5)、剣使い(6)、体術(5)(SP残0)


【ステータス画面】

名前:カトレア・ハートランド

年齢:42

性別:女

職業:剣闘士(18)

スキル:農業(1)、片手武器(5)、剣使い(7)、盾使い(5)(SP残0)



 まず俺だが、伸びているのは情報処理のみだ。

 盾使いのスキルは使用頻度がそれなりなので、才能の器込みでも成長は緩やかである。

 他のスキル群も微動だにしていないが、スキルの崖に到達しているものも多いし、気にせずやっていけば良いだろう。


 次にズーグだが、彼の技能は据え置きだ。

 元々かなり完成されたスキル構成だったのもあるが、やはり年齢的なものもあるのかもしれない。

 まあ、現状彼の戦闘能力に不足がある訳でもないしな。

 鍛錬を続けて一つでもレベルが上がれば御の字くらいで考えておく事にしよう。

 近接技能のレベルを上げて魔装術習得を目指す、という方向性も気になるところではあるが。


 トビーは体術スキルのレベルがひとつ上昇している。

 あまり変わっていないようにも思えるが、習得した魔力による身体強化術の制御に四苦八苦しているようなので、その扱いに習熟してくればレベルの上昇が無くても戦力の強化は見込めそうである。

 もちろん、短期間にスキルの崖を突破したように成長のピークが来ている可能性もあるので、ズーグにはこれからもどんどん彼をしごいてほしいところだ。


 最後にカトレアだ。

 彼女のスキルレベルは流石に元花形剣闘士だけあって立派なものだ。

 ただやはり年齢による肉体の衰えはあるようで、全盛期ほどには動けないと言っていた。

 まあ別に戦力に含めるつもりは無いので問題は無い……と言うか荷役としては十分すぎる戦闘力だと言えるだろう。

 改めてスキル構成を見れば、農業スキルが邪魔をして新しいスキルの習得が難しそうなのが少し残念なくらいである。



 各人の成長に関してはこんなところか。

 俺がさっさとスキルの崖を突破すれば門番への挑戦も早まるというものだが、こればかりは焦っても仕方がない。


 現状の戦力で門番である白竜と戦えるのかどうかは、今度時間を作って師範に聞きに行く事にしよう。その時俺の魔法三技能について開示する事になるだろうから、そこでマルティナさん防壁(国側との折衝を委任する)の交渉も行えば無駄が無い。


 それから今日の結果は……、


「あの、旦那様」

「え?」


 思考の最中にレイアに話し掛けられ、俺は魔法書のページをめくる手を止めた。

 並列思考は便利だが、深い思考を同時並行で行うと集中しすぎて周りが見えなくなるのが玉に瑕だな。


「すみません考え事の最中に……。お茶を淹れましたのでこちらに置いておきます」

「ああ、ありがとう。というかごめん、没頭するとどうもな」

「いえいえ」


 洗い物が終わったらお茶を淹れるようお願いしたのは俺なので、申し訳ない気持ちになるな。


 レイアはそのまま俺の向かいの席に腰を下ろし、帳面を開いて何かを書き込み始める。

 彼女には今まで割と適当に管理してきた収支のチェックをお願いしているので、今日の分の確認を始めたのだろう。


 その後シータも俺の隣で試験勉強を始め、俺も自身の思考を再開する事にしたのであった。




 ===========




 翌日。


「レイア、悪いけど今日クロウさんの所に行って、欠損治癒の予定がいつ決まるか聞いてきてくれないか?」


 朝食の席で俺はレイアにそう伝えた。

 昨日はシータの試験の日についでに聞きに行こうと考えていたが、自分の授業の予定を加味して考え直したのである。


「了解しました。旦那様の本日のご予定は?」 

「今日は迷宮で一泊してみようと思ってる。午前中に準備を再確認して、明日の昼くらいに帰ってくる予定だ」


 迷宮内で夜を明かす経験は早めに積んでおきたいと思っていたが、欠損治癒の予定が決まっていない事や俺の授業の関係で調整が難しいんだよな。シータの試験の日も近いし、翌日昼に戻ってくる変則パターンの探索は苦肉の策である。


「じゃあ、今日はあの荷物が無駄にならないんだね」


 カトレアは自分の出番がある事に嬉しそうだ。

 俺としてはそれより迷宮内で一泊する事を心配してほしいんだが。

 他の二人も割と平然としているので、不安に思ってるのってもしかして俺だけなのだろうか。


「オレは野営の経験あるっすからね」

「俺も軍で経験があります」


 俺が不安を口にするとそんな返事が返ってくる。


「アタシはむしろ楽しみだね。ずっと剣闘しかやってこなかったから」


 カトレア姐さんは単純に心臓ハートが強いようである。

 ちょっと疎外感を覚えるが、まあいいだろう。こんな事を言うこいつらだって実際にやればどうなるか分らんしな。


「それじゃ、レイアは後の事を頼む。他のメンツはメシ食ったら玄関集合な」


 俺がそう宣言し、本日の活動が開始された。





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