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57 探索の再開



 家と新しい奴隷の購入、学園への入学を経て、俺達は探索業を再開した。


 家を購入してから三日ほどは生活環境の整備に時間を使ったが、その後は長期探索に備えた準備も併せて行動開始している。

 例えば物資の購入とか、後はカトレアの装備を整えたりリハビリをスタートしたりとかだ。


 もちろん俺には学園での学業もある。

 しかし俺は途中入学だし、国の定めた全カリキュラムを修める訳ではないのだ。

 俺のような生徒(通称:特科生)が受けられる講義は毎日開講される訳ではないので、普通とは違う学園生活を送る事となる訳だな。


 俺が受ける講義は、一週間の総まとめとして行われる「開放講義」になる。

 この講義は通常の生徒(通称:定科生)も受ける事ができるので、学園でシータと顔を合わせるのは基本的にこのタイミングになるだろう。

 シータは一緒に講義を受ける機会があまり無い事を残念がっていたが、俺には探索業があるので仕方がない。

と言うかむしろ、彼女には学園で自分の交友関係を広げてほしい。俺としてはなるべく学園では接触しないようにしようと思っていたので、これは渡りに船だった。


 とにかく、勉強の方はすぐに本格開始という訳じゃないって事だ。

 拠点もレイアが頑張ってくれたおかげで快適に過ごせる環境が整ったし、憂いなく探索に向かえるようになったのは俺としても嬉しい。

 俺にとってはすでに、探索をしてないと物足りないくらいの位置づけになってるしな。キンケイルからマイトリスへの旅で二週間探索をしていないので、早く手を付けたい気持ちで一杯だったのだ。


 ところで生活環境を整えてくれたレイアだが、彼女の夫は成り上がりの商人だったらしい。それで彼女自身も夫の商会の隆盛に伴って、色々な立場……要するに自分と家族の世話をする普通の主婦から、下男・下女を使って風呂付きの中規模邸宅の管理を差配する奥様に至るまでを経験してきたらしい。


 その経験を生かして数日のうちにちゃんと寝起き・食事ができる環境を整えてくれたって事だな。レイアは「手が足りません」とぼやいていたが、まあそこは俺達が手伝えば良い話である。

 別に俺はふんぞり返ってご主人様をやるつもりは無いし。どうしても無理そうなら新しく奴隷を買っても良いかもしれないが、ひとまず今のままで頑張ってもらう事にしよう。


「よーし、じゃあ行ってきます」

「いってらっしゃいませ、旦那様」


 レイアに見送られ、俺は家を出た。

 今日の予定も昨日と同じく探索である。


 家を購入して今日で一週間経った訳だが、クロウさんからは貴族の欠損治癒術の日取りについて特に連絡は来ていない。

 別に俺はいくら遅れても構わないが、何か起こってるなら知りたいところだ。

 三日後のシータの受験の日にでも、彼女を学園に送るついでに奴隷商館に寄るのもいいかもしれない。


「ご主人サマ、今日はどこまで行くんだい?」


 探索者組合へ向かう最中、カトレアからそんな質問があった。


「ん? 今日は七階の予定だ。俺らも初めてだからちょっと気合い入れとけよ?」


 カトレアの足の調子は俺のヒールの効果もあってか、この一週間でかなり戻ってきている。先に進むのは少し早いかとも思うが、恐らく大丈夫なはずだ。


 俺もいい加減広大化する迷宮の広さを実感したいと思っていたしな。

 ズーグやトビーもそこは同じだろう。


「七階か、ようやくだねえ。ってまだ一週間しか経ってないけど。この意味の無い荷物を背負うのはウンザリしてたんだ」


 カトレアがポンポンと背負ったマジックバッグを叩く。


 保存食やら何やらかんやらが詰め込まれて膨れ上がっているが、確かに六階までの探索しかしていないので、その荷物を使う機会は全く無かった。一応煮炊きとか寝る時の装備なんかは試しに広げたりはしたが、それを「使った」と言い張るのは少し無理があるだろう。

 彼女的にも、役に立っている訳でもない荷物運びは嫌だったらしい。

 ちなみにマジックバッグはぱっと見デカくてかなり重そうに見えるが、実際は掛けられた魔法の効果でそこまでの重さは無かったりする。


「残念だけど今日は様子見だ。泊りにはならないから今日もカトレアは無意味な荷物持ちだな」

「ええ、そんな殺生な。意外とウチのご主人サマは意地悪だねえ」


 口をへの字にして文句を言うカトレアだが、彼女も現状準備段階であるのは理解の上での発言なので、まあ要するにじゃれあいである。

 彼女が馴染むスピードは異様に早く、購入した翌日にはトビーに「姉御」とか呼ばれていた。ズーグとは互いに戦士として尊重し合ってる風だし、シータやレイアにも姉のように慕われているようだ。


 俺に対してもフランクなようでいて一定の敬意を払っている感じで、元剣闘士とは思えない対人能力である。

 元スター剣闘士らしい愛嬌は面接時に確認しているが、予想外の能力にちょっと得した気分だ。


 俺がそんな事を考えているうちに探索者組合へと辿り着いた。


「おはようございます、リョウさん」

「おはようございます」


 中へ入り、依頼票掲示板確認のために受付に近付けば、今日もマルティナさんはむっつりとご機嫌斜めのご様子だ。

 帰ってきて最初にここに訪れた時はまあえらい皮肉を言われたもんだが、それとは別に、最近は平時いらいらしているらしい。

 これはどうやら第一、第二迷宮で王立資源探索隊の動きが活発化し、二次募集が開始された影響でマイトリスの探索者が再び減った事が原因のようである。


 王立探索隊の活発化は、エイトが言う話を鵜呑みにすれば俺の行動が遠因になっている。

 要するに俺の掃除人活動を真似た昇格試験の早期化により、迷宮の浅階層を探索する人員に空きができ、新たな探索者を受け入れる余地が生まれたという事だな。

 となればマイトリス探索者組合に閑古鳥が鳴いているのも、マルティナさんの機嫌が悪いのも俺が原因という事になるのだが……。


 まあそんな事は気にしても仕方がないか。

 風が吹いて桶屋が儲かるじゃないが、俺が意図した結果という訳でもないし。


 とにかくマルティナさんの不機嫌に中てられない様にさっさとクエストを確認し、俺達は次に迷宮へと足を進めた。


「旦那、今日の行程はいつも通りで?」


 迷宮に入るに当たり、ズーグからカトレアと似たような質問を受けた。

 ただこちらは意味合いが少し異なる。

 彼が聞いているのは地下七階まで行くとして、どういう方法で向かうかである。


 俺は浅階層の探索もなんとなくこなすのではなく、日々テーマを設けてこれに当たっている。例えばバフ一種類縛りとか、新規フォーメーションの開拓とかである。

 今日も俺は、同じように少し違う試みを考えていた。


「いや、今日は新しい呪文を試してみようと思ってる。クリポンの時と一緒で俺からだ」

「って事は才能の器で覚えた呪文じゃないって事っすね。流石学生になっただけあって早いっすねえ」

「学生はあんま関係ないけどな。準備してたやつの理解を師匠に確認できたから試してみる事にしたんだ」


 使う予定の新しい呪文はそこまで難しい呪文でもないのだが、独学でやっていたためか不発が多かったのだ。

 師匠に誤っている理解を正してもらい、発動が安定したので実戦投入に至ったのである。


 ちなみに自然に才能の器の話をしているが、当然カトレアにもこの話はしている。

 彼女も突拍子もない話に驚いてはいたが、トビーの時と同様、事前に魔法を見せていたおかげかすんなりと受け入れてくれたようだ。


「じゃ、最初は四階からだ。行くぞ」


 俺はそう宣言し、迷宮の中へと足を踏み入れたのであった。




 =======



 

 マイトリス迷宮の地下六階。

 ブルーデビルとの再戦である。


 キンケイルへの旅を始める前にも完勝しているが、自身の成長の証とするためにもやはりこいつには挑まなくてはいけないだろう。

 そう考え、わざわざ探し回って相対した訳だが……。


跳躍リープッ」


 突進するブルーデビルを見やり、俺は新呪文「跳躍リープ」を行使する。


 この呪文は移動呪文の一種なのだが、脚力を上げるマイティレッグでの移動とは異なり踏み込みは必要としない。

 呪文名称から惑わされるが歴とした移動呪文、すなわち身体をエーテル的に動かす呪文なのである。


 性能的には飛行フライの呪文の下位互換的な位置づけとなる。

 発動初速が速いため魔法使いの緊急回避として使われる事もあり、俺もその用途で習得した。後は今使った通り近接戦闘での使用だな。


「ヴェァッ」


 突如横に弾かれるように移動した俺を、ブルーデビルはすぐに方向転換して追いかける。

 マイティレッグで飛びのいた距離であればここで格闘戦になってしまうが、流石移動呪文だけあって距離は十分。であればリープを込みにしても、俺が複数魔法を行使する時間は稼げているという事だ。


精神撃ショック電撃ライトニングボルト氷槍アイスランス


 そして俺は、魔法耐性の高いブルーデビルでも十分に殺し切れる構成で呪文を唱え、一息に投射キャストした。


「ベアァァ……」


 脳天を貫かれて崩れ落ちるブルーデビル。


 このくらいの呪文構成は以前にも行使できていたが、今の戦闘ではエクステンドマジック無しで複数化し五体に命中させている。

 回避に魔法を使った上での事もあるし、スキルだけじゃなく俺もちゃんと成長しているのだ。


「よしっ」

「ヒュー、流石っすねえ」

「今のは中々の魔法でしたね」


 戦闘が終了し、バフ無しで各二体のブルーデビルを引き付けていたズーグとトビーが魔石を回収してこちらに集まってきた。


「魔法ってのはやっぱり凄いねえ!」


 荷物を背負ったカトレアも寄ってきて称賛を口にする。


「ま、キンケイルまで修行に行ったんだからこれくらいはな」

「リープの使用感はどうでしたか」

「呪文で押していく戦い方にはかなり合いそうだ。剣の間合いだとちょっと遅いし、進行方向を見破られたらマズイから使えないけど、流石にそんな使い方はする事ないだろ。こいつは逃げるための呪文だ」


 リープの発動中は方向転換が一切利かず、体も全くとは言わないが動かし辛いという難点がある。

 それはつまり、魔法で「跳ぶ」方向に向かって攻撃をされると、回避する術がほとんど無いという事だ。

 移動距離は十分なため、先の戦闘でもあった通り基本的に距離を取る方向で使うのが無難だろう。


「次はマキシマイズエンチャントっすね」

「そうだな、それもブルーデビルで試そう」


 新呪文として準備していた二つ目はトビーの言った通り「最大化魔法付与マキシマイズエンチャント」という呪文である。

 これは師匠謹製の呪文で、彼女が教授となる切っ掛けを作った呪文でもある。

 従来の魔法の威力を高めた術式は古くから多く開発されてきたが、最大化と名の付くものは非常に少ない。

 我らが師匠がその一つを開発したというのだから、流石と言うしかないだろう。


「じゃあトビー次も頼むぞ」

「了解です」


 俺はトビーに次のブルーデビルの捜索を促し、ほどなくして見つかったヤツらと、俺達は再び戦闘を開始するのであった。




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