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54 三回目の奴隷購入その三



 奴隷の面接は続く。


 もうとっくに昼は過ぎており、だんだん腹が減ってきた。

 なんでこんなに労力を掛けてるのか正直自分でも分からなくなっているが、こだわり始めたらやり通したくなる性質なので仕方がない。


 これからは性奴隷にも範囲を広げて探していく事になる。

 年齢は三十過ぎ、家事ができる者。この二点をひとまずの条件とし、幾人か希望を出してハンスさんに呼び出してもらう。


 一人目。

 やってきたのは胸元の開いた服を着た妖艶なお姉さまだ。

 挨拶でお辞儀をすれば谷間まる見えだわ揺れるわで大変眼福な感じだったが、残念ながらこの人は却下である。


 こんな人が家に居たら絶対手を出すし、そうなったら完全にシータの教育に悪いからな。トビーだってお預けなのは辛いだろうし。

 ちなみに、ズーグは種族が違うので全く問題無いとお墨付きをいただいている。


 とにかく俺は自宅のハウスキーパーにこういうのを求めていない。

 もしそういうのがどうしても必要になったら、トビーと連れ立って娼館にでも行くのがいいだろう(トビーを連れていくのはバレた時に道連れにするためである)。

 そうした事に関しては、俺自身の事情もあって普通に相手を探すのは難しいだろうしな。


 そういう訳で、残念ながら一人目の彼女は見送りとなった。

 

 二人目。

 二十代半ばの人が来た。若いし、性奴隷として登録されているだけあり見た目も中々よろしい感じだ。

 ただ一人目を見送った後に追加で「性的対象になりにくい人が良い」とハンスさんに言ったので、この人は即座に帰されていた。まあ、どうしてもそうなっちゃうからな。

 と言うか俺もなんで彼女を呼んでもらったのか、これが分からない。

 疲労のため、という事にしておく事にしよう。

 とにかくわざわざ来てもらって申し訳無いが彼女も見送りである。


 三人目。

 一目見ておっ、となった。

 年齢は三十代半ば、地味な見た目で決して不細工ではないが美人でもない。

 聞けば行商人の妻で、商売の半ばで夫が魔物に襲われて死に、負債だけが残ったため身売りをする羽目になったのだとか。未亡人というわけだな。

 そして半端に借金奴隷などになるより性奴隷の終身奴隷として登録してお金に余裕を作り、神殿へ寄付と共に一人息子を預ける事で、息子の将来もなんとか担保するという選択肢を取ったようだ。


 中々見上げた根性というか、子供のために身を捧げる母親の鑑といった感じだな。

 この「母親感」は俺としては非常にポイントが高い。

 なるべく性的対象になりにくい人を求めている訳だからな。

 世間には母親もその対象になる特殊な性癖の人も居るらしいが、俺は違うので問題は無い。


 トビーはどうか、と横を見てみれば……、


「てめー目瞑ってんじゃねえよ」

「うげっ、だってご主人がチラチラ見るから見ちゃいけねぇのかと……」


 思わず頭を叩いたらそんな返答が返ってきた。


「いやお前の性欲の話なんだからちゃんと見てくれ。お前は彼女を性的対象として見れるのか?」


 母親的奴隷(仮称)の前であけっぴろげにそう聞けば「何の羞恥プレイっすか」とぼやきながらも問題無いとの回答があった。

 と言うか俺だって羞恥プレイなんだから我慢しろ。


「そういう訳で、いやどういう訳かあんまり分からないと思うけど、とにかく俺は貴方に性奴隷としての仕事は望んでいないんだ」


 俺が話を強引に変えるようにしてそう言うと、彼女は怪訝そうな顔で小首を傾げる。


「では、私は何を」

「家事、まあハウスキーパーというやつだな。家事はできるって聞いてるけど?」


 念のため確認を取れば首肯が返ってくる。

 ならばよし。彼女を購入で良いだろう。


 俺がハンスさんにそう伝えると、彼は奴隷を呼ぶついでに持ってこさせていた書類のひな型に、何かを書き込み始めた。

 一方奴隷の彼女……レイアというらしいが、レイアは不思議そうな顔のままである。


 まあそれも無理は無い。

 自分でも大分説明を端折っているのは自覚している。

 疲れているからというのもあるが、奴隷契約後のほうがいちいち隠し事について言葉を濁さなくて済むし、面倒がなくて良いから仕方ないのだ。


 ともあれ、性的対象になりにくい見た目、年齢、雰囲気、事情その他もろもろは問題無し。家事もできるならという事で、俺はこのレイアという奴隷を買うに至ったのである。



 =======



 こんな感じで疲労困憊になりながらも俺は奴隷を購入した訳だ。

 購入した二人とその前後しか回想してないが、それ以外は重たくなるのでもう思い出したくもない。

 戦力拡充が必要になればまた奴隷を買う事になるだろうが、何とか避けられないかと考えてしまうくらいには、しんどい作業であった。


 まあ、この件についてはもういいだろう。

 流石にしばらくは奴隷を購入する事も無いだろうしな。


 とにかくこれで、奴隷館で済ませるべきタスクは終了だ。


 契約を済ませ俺が帰る事を伝えると、そこでハンスさんから一つ提案があった。


「こちらで欠損治癒術を行っていってはいかがですか? 主もそろそろ戻ってくる時間ですし、見てみたいと申しておりましたので」


 なるほど。何気にこれは嬉しい申し出である。

 欠損治癒術は一度傷口が開く関係で場が汚れるから、新居でやるのは気が引けていたのだ。


 であればという事で、ハンスさんに欠損治癒の際に起こるあれこれを伝え、準備を始めてもらう。

 準備は全部やってくれるようなので、俺達は引き続き応接室にて待機となった。


「それにしても、ウチのご主人サマは気が早い方みたいだね。今さっき買った奴隷の治癒を今からやるってんだから」


 契約が完了しているためこの場にはすでに俺の所持する奴隷が四人勢ぞろいしているのだが、俺が新たに加入した二人に席を勧め、腰を落ち着けた後にカトレアがそう言った。


「何事もタイミングってもんがあるからな。それにこの後も色々やる事が残ってるってのもあるし」


 話を振られたレイアが困り顔だったので俺が代わりにそう答える。


「よく分かんないけど大変なんだね。ま、アタシにしてみりゃ足が生えるんだから早いに越したことはないんだけど」

「そりゃそうだ。それよりちょっと覚悟しといた方がいいぞ、欠損治癒の苦痛は結構なもんらしいからな」


 馴染むのが早いカトレアとそんな気さくな会話をしつつ、ズーグに視線を向ける。

 俺の欠損治癒を受けた唯一の存在だし、なんか意見があったら聞いてみたいところだ。


「そうですね。アレは体の芯に棒を突っ込まれて掻き回されるような感覚、肉が引っ張られて引きちぎられるような感覚、あとは心臓を鷲掴みにされて無理やり血液を流し込まれるような感覚が同時に襲い掛かってきます。できれば二度はやりたくないですね」


 うへえ、そんな事になってたのか。

 感想とか別に詳しく聞いてなかったんだが予想以上のようである。

 ズーグの感想で言えば、前者二つがリジェネレーション、後者一つがソウルヒーリングの効果という事だろうか。


 歴戦の戦士である彼でも呻き声を上げるほど、という認識は俺にもあったが、こうして改めて感想を聞けば俺自身もちょっとこの術が恐ろしく思えてくる。

 カトレアや、当事者ではないトビーやレイアも同じように思ったのか一様に顔色が悪い。


「ちょ、ちょっとご主人サマ、大丈夫なのかい?」

「う、うーん、一応改善策は用意してるけど、ズーグの話を聞いたらなんか不安になってきたなあ」


 カトレアからの問いについ頼りない返事をしてしまい、場に良くない沈黙が下りる。

 しかしズーグは、当事者故か何なのか特に気にした風もない声色で、


「そこは問題ないでしょう。ブレスを使えば良いのです」


 とあっさりと言いのけた。

 

「ブレスか……なるほど、それもアリだな」


 確かにズーグの意見は非常にもっともである。

 不思議と俺には思いつく事ができなかった案だ。


 これは恐らく、俺の中で神息ブレスという魔法が「切り札」的な位置づけになっていたからだろう。

 消費魔力もさる事ながら絶大な効果を持っている魔法である。これが無ければ死ぬ(ないしは成し遂げられない事がある)という状況でなければならないと、自ずから使い道を狭めてしまっていたのである。


 実際のところ俺も自身に使ってみた事はあるが、ズーグの言う通り、己の限界が見えないという異質な感覚には驚いたものだ。

 ブレスが強化する対象は、簡単に言えば「全て」。

 筋力や俊敏性のような身体強化を始め、魔法的な強化も得られ行使する魔法の威力が軒並み上昇する。更に思考も強化され、高速処理も並列処理も普段より数段上のクオリティで行う事ができるのだ。


 ブレス込みで魔法を扱った時の感覚を想起して欠損治癒の苦痛軽減を予想すれば、恐らくかなりの軽減、ともすれば苦痛の完全遮断すら可能ではと、すぐにそう考え至る事ができる。

 それほどの全能感(ズーグは英雄になった気分と言っていた)があるのである。

 魔力量的な使用回数制限もあるし、みだりに使用するものではないと俺が考えるのもそうおかしい事ではないはずだ。


「じゃあ、ブレスありでやる事にしようか。クロウさんへのパフォーマンスにもなるし良さそうだ」


 最終的にそう判断を下し、俺は宣言した。

 カトレアやレイアはあんまり分かってなさそうだが、多分見たら驚くと思う。

 実行する俺も驚く結果になりそうだ。


「……しっかし、遅いな。俺腹減ってきたんだけど」

「オレもハラペコっす。そろそろ日が傾いてきたんじゃないですか?」

「いやそこまではいってないだろ」


 ブレスの使用を決めた後はそんな感じで雑談タイムである。

 カトレアとレイアを含め、お互いの簡単な自己紹介と、ついでに簡単な今後のスケジュールを伝えておく。


 そうして時間を潰しながらしばらく待っていると、ようやく扉がノックされハンスさんが戻ってきた。


「大変申し訳ございません、主はまだもう少し掛かるようです」


 入るなりそう言ったハンスさんは深々と頭を下げる。

 さすがに毎回そう都合良く仕事を抜ける事はできなかったようだ。


「主から是非にと言付かっておりますので、もうしばらくお待ちいただく事は可能でしょうか。もしお待ちいただけるのであれば、昼食はこちらでご用意させていただきます」


 ハンスさんからの申し出に、俺へと視線が集まる。

 いつもなら皆の意見を聞く俺だが、これはまあ、わざわざ聞くこともないだろう。

 さっきもハラペコの話をしたし、答えは分かり切ってるからな。


「では、待たせていただきます」

「承知しました。すぐにご用意させていただきます」


 きっぱりと言い切った俺の言外の意図(ハラ減った)が伝わったのか、ハンスさんは苦笑しながらもう一度綺麗なお辞儀をするのであった。




そう言えば活動報告にも書きましたが、

先日1000ポイントを超えました。


これまでの自作では到達できなかったところという事で非常に嬉しいです。

最近不定期になりかけてますが、頑張って週二更新を維持していきたいと思います。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] う〜ん。ここまでリアルというか生々しさがある話で性に興味がない主人公、戦闘に明け暮れてるのに性を極端に避ける描写だと違和感が凄い。 話自体は濃いのに主人公は半透明みたいな
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