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41 討伐依頼



 依頼を受けたのは、単純な興味によるものが大きい。


 迷宮に潜っている俺達が外ではどうなのか。

 もちろん大っぴらにできない事も多く、全てを試みる事はできないと思うが、非常に気になる情報だろう。


 また他に目的もある。


 まだ誰にも話してはいないが、実は俺は最終的に自身の能力を公開するつもりでいる。

 と言うよりは、探索が進むにつれ他の探索者の中に埋もれたままではいられなくなり、隠し通す事は不可能になるという考えである。


 もちろん、これはいずれそうなる可能性があるという話だ。

 自ら喧伝する訳では決してない。

 それに公開と言っても才能の器それ自身は説明しづらいため、話す内容は分かりやすい多技能、つまり魔法に関するものに絞られるだろう。


 しかし実力といくらかの実績を得て自己防衛をできそうならば、俺は自身の能力を隠す必要は無いと考えていた。


 今回の件は、依頼の達成により実績のひとつとなるはずだ。

 そして外の世界で討伐をする……つまり戦う能力を持つ者がどの程度の強さなのかを知る良い機会でもある。

 迷宮探索は俺の目標ではあるが、それが終わった後も人生は続いていく。

 その時のために布石を残しておく。

 今回依頼を受けたのにはそういう意味合いもあった。


「まあ、結局は興味本位の部分が大きいのは事実だけどな」


 俺はズーグ達への説明をそう結んだ。


 あまり他の探索者と関わりを作ってこなかった俺が、突然この依頼を受けて不思議に思ったのだろう。

 家に帰った後二人に問い詰められたのである。


「なるほど、そういう事でしたか」

「いやあ、ご主人も色々考えてるんっすね」

「そりゃまあ、一応これでもウチのチームのリーダーやってる訳だからな。特に俺自身ちょっと特殊な事情を抱えてる訳だし、考えもするさ」

「……それで旦那、結局魔法の事は今回隠すのですか?」


 うむ。

 ズーグ君良い質問だ。


 先に述べたように今後のために迷宮外の戦士達と関わりを持つ事になるが、最終的な公開は既定路線としても、今すぐに全部をつまびらかにする訳にはいかない。


 これまで俺の魔法について教えてきた人達(奴隷商クロウさん、師匠、神聖魔法の研究家ヘックス教授)の反応を見ても、魔法三技能持ちというのは非常に稀少価値と有用性が高い。

 公開すれば国家側から何らかのアクションは必ずあると考えられるが、今の段階でそれをしたとして、突っぱねられる自信は俺にはない。向こうも希少性が高いとは言え木っ端の探索者にさほど配慮してくれるとは思えないしな。


 という訳で、今回の依頼では「多少技能を隠す」という感じで行こうと考えている。

 こいつら結構迷宮の奥まで進んでる探索者だけどそういう理由があったのか、と周囲が納得できる程度の情報を公開したい。


「そういう訳で、今回は理力魔法縛りだ。幸い最近覚えたクリエイトウェポンとテレキネシスの組み合わせは両方とも理力魔法だしな。各種バフはほとんど使えないけど、いつも全部使っている訳じゃないしいけるだろ?」

「ええ、オレは問題ありません」

「トビーは?」

「……コカトリスは、やべえ魔物ですぜ?」


 ズーグが自信ありげなのに対し、トビーは不安そうな感じである。


「知ってるのか?」

「はい、鳥の体と蛇の尻尾を持つヤツで、爪と嘴、それに尻尾の蛇の牙に毒がありやす。視線を合わせ続けると石化するとかいう話もありますし、正直対峙したくはないですね」


 そんなんが都市近郊に現れるとかこの世界はどうなってんだ。

 そんな感想が浮かんだが、それよりコカトリスの話だ。


「心配しなくても、お前らが死にそうになったら魔法は惜しまず使うぞ?」

「いえ、オレが心配なのはご主人ですよ。あんたが毒を受けたらどうにもなんねえ。だから準備と、前には絶対出ないって約束してください」


 なるほど。彼が心配しているのは俺の事か。

 確かに討伐隊に毒に対する準備があるのか今の時点じゃ分からないしな。トビーの反応からするとこういうのは自己責任な部分があるのかもしれないし。


「旦那、それは俺からもお願いします。魔法の盾の有効性は知っていますが、全力を出せない状態で危険を冒すのは良くない」


 ズーグからも諫言があったので、おとなしく従う事にしよう。

 少なくとも、魔法多技能に支えられた戦闘以外を知っている二人の言葉は信頼に足るはずだ。

 と言うかその点において俺の感覚を信用する根拠が無い。


「じゃあ、明日説明があるって言ってたし、それを聞いて時間があれば準備をしよう。迷宮内でそれ用の戦術も試してみるべきだな」


 理力魔法縛りの戦術を検討する事は「使う必要が無かったから使ってなかった」だけの戦い方を新たに発掘できる可能性もあるしな。


 話はまとまったので、俺達は部屋(俺とズーグが寝起きしている所)から出た。


 リビングではチームの話だからと仲間外れにされたシータがふくれっ面になっていたので、その後しばらく皆でその機嫌を取る事になった。




 ===============




 翌日。

 俺達はエイト・タンバーと探索者組合で落ち合い、彼の案内で説明を受ける傭兵組合へと向かった。


「しっかし、まさか受けてくれるとは思わなかったぜ」


 連れ立って歩いているエイトが、そんな疑問を口にした。


「そんなに意外だったか?」

「まあな。前に勧誘した時はもっとつれない態度だったじゃねえか」

「あの時は話の内容が興味なかったからな」

「今回は違うってのか?」

「俺だって社会的な貢献しないでずっと過ごせるとは思ってないからな。王立資源探索隊の協力はしないつもりだが、なんか機会があったらとは思ってたんだよ」


 ふーん、とエイトは胡乱げな声を上げる。

 まあ今述べたのはお題目……建前みたいなもんだし彼の感覚もあながち間違いじゃない。

 しかしそれ以上は俺の能力から来る立場や考え方なり、話が複雑になってくるので話す気はなかった。


 その後特に会話も無く少し歩き、幾つかの筋を抜けて俺達は傭兵組合に辿り着いた。


 中に入ると、探索者組合と似たような作りである。

 しかしどことなく異臭、具体的には汗とか酒とかそういう臭いが漂っていた。

 これがマリネの言っていた「あそこは臭い」の正体かと納得しながら、俺達はエイトに連れられて会議室へと移動する。

 そこにはすでに十数人ほどが着席しており、大きなテーブルの席の内、俺達は最も入口近くにある場所に腰を下ろした。


「おし、揃ったみてえだから説明するぜ」


 会議室の最も奥、掲示板のような板が横に置いてある場所に居る眼帯の男がそう宣言した。


「今回集まってもらったのは聞いてる通りコカトリスの討伐だ。場所はキンケイル北西の森。現在まで二回の討伐隊が出されてるがイマイチ消息がつかめねえってんで、増援としてお前さんらには出てもらう事になる」


 眼帯の男は風貌の無骨さに似合わず、すらすらと説明を口にする。


「探索者組合の方からも援軍出してもらったし、そろそろ打ち止めにしなきゃなんねえ。荒事こなせねえ傭兵なんざライネ一粒食う資格はねえんだ。そこんとこ肝に銘じろよ」


 ライネというのは麦っぽい穀物だ。パンにもするが麦粥みたいに食べる事もあるので、眼帯の男の言い回しは無駄飯食らいという意味になるだろう。

 

 それよりどうやら、前二回の討伐隊は魔物の行方を捜し切れていないらしい。

 傭兵組合と言えば護衛依頼や、軍が動かないような細かい討伐依頼をこなす組織である。プロ集団と言って過言でないはずだが、それでも見つけられないという事もあるようだ。


「探索者の人も来てるからこんな事言いたくねえんだが、正直組合の外に助けを求めなきゃなんねえ段階でウチのメンツは丸つぶれなんだ。これで依頼失敗とかで軍が出てきてみろ。依頼に関わったやつは降格かクビ、それが無くても俺がぶっ殺してやるから覚悟しろよ」


 この通り傭兵組合も結構切羽詰まった感じのようだ。

 傭兵たちに発破をかけるつもりか、厳しい言葉を投げかけている。


 俺達もエイトも探索者だからあまり気にしなくて良いかもしれないが、そこのところはどうなのだろうか。


「エイト、これって俺らも責任重大な感じか?」

「微妙なとこだな。もし見つけても手柄を譲った方が良い可能性はある」


 それだと思ってたのと違うんだが。

 一定の戦力があるという実績を立てるつもりで受けた依頼だが、世知辛い事情により、単なるお手伝いになりそうだ。

 できたとしても探索者以外の戦う者がどのくらいの能力を持ってるか、それを調べる事くらいだろう。傭兵たちに実力を見せつけて噂にしてもらったとして、それを実績というのはちょっと無理があるだろうしな。


 その後、俺達は出発の日取りやコカトリスの注意点、準備推奨の装備などの話を聞き、傭兵組合を後にした。

 

 そして装備の調達、言っていた理力魔法オンリーの戦術訓練を終え、二日後。

 俺達は第一迷宮都市キンケイルを旅立つのであった。





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