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40 検証の日々その二



 迷宮では一定以上の深さまで潜ると、各階層に特徴的な強い魔物が現れてくる。

 

 例えばマイトリス迷宮六階のブルーデビルのようなやつだ。


 キンケイル迷宮の七階では尻から熱線を放ってくるアローホーネット、八階では巨体のグリーンベアなどと戦ってきた。

 そして九階でも、俺達は新たな強敵と対峙している。


「グオオォォォォッ!」


 咆哮を上げこちらを威嚇するのは、アームドレイクという魔物である。

 体長は三~四メートル。ワイバーンの翼を腕に変えたような感じで、ぶっちゃけるとモン〇ンのティガ〇ックスみたいな見た目をしている。

 特徴的なのは身長に比して長い両腕で、筋肉の盛り上がる見た目通り高い膂力を持っているらしい。

 そしてその剛腕による引っ掻きや打撃、あるいは壁を掴んでの三次元的な動きが厄介な魔物だ。


 また、竜の眷属らしいドレイクの名の通り、ブレスの類も標準装備している。

 こいつは火球のような形で使ってくるようで、手足を使った縦横無尽の動きを止めず、火球をばら撒くのが最も脅威となる攻撃方法らしい。


「うおおおおおぉ!」


 ズーグが前面に出て、威嚇に抗するように大声を張り上げた。

 アームドレイク達の注意はその身に纏う神息ブレスの光と相まって、十分引き付ける事ができているようだ。

 ズーグの後ろにいる俺とトビーには目もくれず、二体のドレイクはゆっくりとズーグとの間合いを測っている。


 この二体は当面ズーグに担当してもらう事になる。

 彼が時間を稼いでいる間に取り巻きのグライドピジョンを狩るのが、この戦闘での大筋プランとなる。


「旦那」

「なんだ?」


 前に立ったズーグがこちらを向かないまま言った。


「こいつら、倒してしまっても良いんでしょう?」


 時間稼ぎでなく、という事か。

 もちろん構いはしないが、その言い方は有名な死亡フラグなのでやめていただきたい。

 まあブレスを受けて相当に能力が向上している今なら、死亡フラグと言うよりは勝利フラグと考える方が自然ではあるが。


「今日の目的は試運転だ。どこまで行けるか目一杯やってみろ。フォローが必要ならこっちでする」

「ありがとうございます」


 とりあえず加減無しの指示を出しておいた。

 その頃にはドレイク達とズーグの距離はかなり近寄っており、そろそろ互いが攻撃を仕掛ける気配がある。


 であればその瞬間に取り巻きのヘイトを取れるように、俺も準備をしなくてはなるまい。


「トビー、ズーグが動いたらグライドピジョンどもを誘引する。やつらがこっちに来たらお前は近い方からだ。いいな?」

「了解っす。プラン通り行きます」


 俺達がそう言葉を交わした瞬間に、前衛の交錯が始まったようだ。


「ゴォアアアアァァッ!」


 壁を、天井を蹴り、あるいは掴んで三次元的な挙動をするアームドレイク。

 すれ違い様に爪や噛み付きでズーグに攻撃が加えられるが、彼はほれぼれする身のこなしでそれを回避し、同時に槍を振るっている。


 傍から見て、ズーグの槍は攻撃している、と言うようには見えない。

 回避のために体を反転させたり、しゃがんだり仰け反ったり、その過程でバランスを取るために振られているように見える。

 しかしあくまで自然に振るわれる槍は、交錯の瞬間に間違いなくダメージを蓄積させているようだ。


 数合の後、仕切り直すためか一人と二体は互いに大きく間合いを取った。

 竜人と竜の眷属、その二者の姿は対照的で、ズーグが無傷であるのに対しドレイク達は槍で切り裂かれた傷で血だらけになっている。

 先の交錯における巧者がどちらであったかは明白であった。


 ……と、ここまでの顛末を確認したのは俺の並列思考(の三番目くらい)である。


 俺は俺で、時を同じくして取り巻きのグライドピジョンとの戦いを繰り広げていた。


魔法誘導ホーミングマジック風矢ウインドボルト!」


 命中を上げるホーミングマジックを乗せて、牽制射をばら撒いていく。

 威力の低い風魔法を使っているのはノックバック目的だが、飛行している相手には特に効力が高いためだ。

 倒す事が目的ではなく、ボルトで体勢を崩させ、エアハンマーで叩き落とし、とどめを刺すという流れを考えていた。


 この風魔法を初撃にクリーンヒットさせたお陰で、飛行する奴らは俺の事を脅威と認識してくれたのだろう。

 その後は執拗に俺を狙うようになっている。


 俺はこちらに向かってくるグライドピジョンに対し、予定通り牽制射からの風槌に繋げ、トビーと協力して確実にグライドピジョンの数を減らした。


「残り四だ! 近接戦行くぞ!」

「了解ッ!」


 数が一定数を割れば、今度は剣を抜いての戦闘に移る。

 これは魔力の温存もあるが、魔法でハメ殺すよりもずっと早くに戦闘を終わらせられるという利点がある。

 もちろんそれを成せる技量があればの話ではあるが、普段ズーグと模擬戦をやっている俺達にとって、ちょっと飛行の挙動が変な鳥程度なにするものぞという感じだ。


 急降下しての蹴爪攻撃に対し、盾を構えて受けの姿勢を取る。

 グライドピジョンは衝突の瞬間ひらりと横に滑空グライドし、盾を躱して俺の延髄に蹴爪を振るったが、それは読んでいる。

 俺は振り向きざまに剣を振るい、足を切り飛ばしてグライドピジョンの体勢が崩れたところに、剣を突き込んだ。


「ピイィィィ!」


 甲高い断末魔の悲鳴を上げ、バサリと鳥の魔物が地に落ちる。

 同様にトビーが最後の一羽を落とし、取り巻きとの戦闘は終了した。



 ======



 魔法ブレスによって白色の燐光に包まれた視界の中、二体のドレイクが縦横に動き回る。


 ズーグは当初、この光で視界が見えづらくなり戦闘に支障が出るのではと考えていた。

 しかしそれは全くの杞憂だった。燐光は視覚に影響せず、上昇した身体能力のお陰か、視界のすべての情報を余さず捉え戦闘にフィードバックする事ができている。


 彼はほぼ全方位から降り注ぐ火球を避け、あるいは弾き返しながら、有り余る力を制御し徐々に動きのギアを上げていく。

 まったくもって恐ろしい事に、このブレスという強化の影響下にある時、ズーグには自身の本気がどこにあるのか全く把握できていなかった。


 普段より遥かに強くなっている事は理解できるが、全力を出す前に敵が死ぬのである。

 そして今回も、これまでよりは力を出せたとは思うが同様の結果になりそうであった。


「はああっ!」


 ズーグはアームドレイクの斜め下から飛び上がり、槍を振り抜く。

 単純な突撃チャージと斬撃ではあったが、すれ違いざまに容易く片腕を断ち切る事ができた。

 

 空中で彼が視線を周囲に向ければ、すでにリョウ達の方の戦闘は終わっているようだ。

 片腕を刎ねられ地面に落下したアームドレイクにリョウが魔法で追撃を加えようとし、踏みとどまる光景が見える。

 ズーグの、と言うよりブレスの性能を確認するために、優勢を確認して観察する事に決めたようである。


(……ありがたい。俺もまだまだ物足りないところだ)


 ズーグは内心で主人のその判断に礼を言い、着地と同時に再突撃して片腕のドレイクの首を刎ねた。


 アームドレイクは本来ならここまで容易く致命打を与えられる相手ではない。

 ドレイクと名がついている事はつまり竜の眷属である事を意味し、鱗を始め、その体は人間と比べると信じられないほどの強度を持っているはずなのである。


 しかしながら、ブレスの効果はどうだ。


「まるで伝え聞く英雄にでもなったと錯覚してしまうな」


 戦闘中にもかかわらず、ズーグは珍しくそんな無駄口を叩いた。

 そうできるほどに、この戦闘は余裕であったのだ。


 残り一体となったドレイクは、ズーグによるブレスの性能実験に付き合わされたお陰で、その後しばらく生き延びる事になった。

 しかし最後は予定調和のように、縦に振りぬかれた槍によって体を真っ二つに両断され、命を落とすのであった。




 ===============




 アームドレイク討伐とブレスの性能確認を終えた後も、俺達はしばらく地下九階の探索を続けた。


 流石にここぐらいの階になってくると到達できている王立探索隊の人数が少ないためか、狩り漏らしも減り戦いやすい相手が増えている。

 そのおかげかブレス無しでも十分探索を行うことができていた。


 アームドレイクも、ドレイク四体構成といったデスエンカじみた相手を除けば、基本的にブレスを使わずとも討伐できたしな。

 非常に良い結果といえるだろう。


「うん、順調だな」

「ええ、予想以上ですね」


 再び斥候を担当し一人先に進んでいくトビーの背中を見ながら呟くと、ズーグもそれに同意した。


「マナポーションはちょっと惜しかったけど、まあどっかで回復量調べないとだし仕方ないよな」

「地下九階で得られる魔石量を考えれば十分プラスでしょう。必要経費ですよ」


 俺はアームドレイクとの戦闘の後、かなり低くなった魔力を回復させるためお高い(二千ゴルドくらいする)マナポーションを使用してみたのだ。


 これは以前に保険として購入したは良いが、使う場面が無く鞄の肥やしになっていたやつである。この世界に来た当初購入したヒールポーションと同じ目に遭っていたが、ブレスの高消費のお陰で今回ようやく日の目を見る事になったのである。


 そして気になるマナポーションの回復量だが、俺の魔力の大体一~二割と言ったところであった。

 ブレス使用後の全回復には程遠いが、その後普通に魔法を使用するのに支障無いくらいには回復する。最近は「魂の位階」を上げたからか、時間経過による回復量も体感で結構上がっているみたいだし、ブレス一回に対して一本使えば問題は無いだろう。


 まあブレスが必要な戦いを連続して行うなら話は別だけどな。

 ただそうなった時点で探索深度が合っていない(力量以上の階である)事になるので、無理せず進んでいれば基本的には起こらない事である。


「ご主人、居やしたぜ」

「おし」


 トビーが戻ったので、案内を受けて俺達は次の場所へと移動を開始した。


 そうしてその後も探索を続け、最終的に幾多の検証による経験と多大な稼ぎを得て、俺達はキンケイルへと戻ったのである。


 今回の探索で、主要な事項の検証は大よそ終了した。後は細かい連携や魔法の仕様についての確認が残っているが、それについてはその他の鍛錬を行いながらボチボチやっていく事で問題ないだろう。


 例えば神聖・魂魄魔法は高レベルになって完全に頭打ち。

 近接戦闘は探索時と訓練所で地道な鍛錬中。

 理力魔法はクリエイトウェポン以降、あまり目ぼしいものが見つからない……というか勉強半ばでキンケイルに戻ったので術式を覚えるのが遅く、呪文を相当選り好みしている状況だ。


 ズーグとトビーの成長には、俺とは違い十分な時間が必要だろう。

 地下九階で得たお金は荷役ポーターの奴隷と戦力の追加としての奴隷のために確保したいし。


 そういった現状なのだが、次に俺達は何をするべきだろうか。

 新たに取り組むべき事は無いのだろうか。


 そんな事を考えていると、いやそんな事を考えていたからか、俺は探索者組合で王立資源探索隊のエイト・タンバーにとある依頼を持ちかけられた。


 キンケイル周辺の森に出没するコカトリスの討伐。

 

 やってきたその依頼は、俺が迷宮の外で訓練以外で戦闘を行う、初めての機会となるのであった。



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