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36 逸話



「それで、まず反魂と蘇生の違いだが……」


 俺の質問を受けて師匠が話し始めた。


「反魂は肉体に魂を呼び戻す物、蘇生は肉体を含め魔法によって完全に作り直すものと言われているね。まあ簡単なところを例にすれば、ヒールとリジェネレーションの違いみたいなものだろう」

「つまり死にたて・・・・なら反魂が使えると? 肉体があればいいんでしょうか」


 ぱっと思いついた疑問を口にしたが、師匠は首を振る。

 どうやらその辺りはあまり詳しく検証されていないらしくハッキリ分からないらしい。


「復活系の魔法が使われた記録も最近じゃないようだし、これらの魔法を使える魔法使いが居るという話も正直聞かないからね。完全に文献の中でしか見られない魔法だよ。まあ、扱えるけど申告してないだけという線も無きにしも非ずだけれどね」


 魂魄魔法使いは偏屈な研究狂いばかりみたいなので、言う必要が無ければ言わないとか普通にありそうだ。

 人の生き死にに関わることだから単純に大っぴらにしたら碌な事にならなさそうというのもある。権力者とかに目を付けられる未来が容易に想像できるからな。俺がもし使えるようになったとしても公表はしないと思う。


 俺がそんな感じの事を話すと、師匠は苦笑を浮かべた。


「ははは、まあ君の意見ももっともだ。君はすでに一人で欠損治癒魔法を成功させたし、そうなったらどんどん秘密が増えていくね」

「笑い事じゃないですよ。目的の障害になるような事は極力避けたいんですが」

「君は世界記憶アカシックレコード型の魔法使いだし、覚えないという事ができないのが問題だね。私も正直興味はあるけど、使うタイミングがあるというのもあまり良い事じゃないし、もし覚えた時も内緒にしておくのがいいかもしれないね」

「そうする事にします……」


 何となくしか意識していなかったが、やはり生死を操作する呪文はとにかく色々と問題があるな。無闇に実験とかできないし。

 そう考えるとこの分野の情報があまり無いのは自明の事なんだろうな。

 もし物凄く研究が進んだ復活の呪文があったとしたら、検証が重ねられた、つまりそれだけ人が死んだという事で、背筋が寒くなったに違いない。


 俺がそう言うと師匠は「魔導の道は業が深いからねえ」と笑った。

 否定されないと余計怖いんだが。


 まあ復活の魔法に限らず、色々な犠牲のもとに魔法が発展してきたという事だろう。

 俺もその利益に浴している一人な訳だし、それは心に留めておく事にしよう。


「じゃ、次は神降ろしコールゴッドだね」


 気を取り直すように、カップに口を付けてお茶を一口。

 師匠が再び語り始めた。


「コールゴッドもまた、復活系の呪文と同様文献の中でのみ見られる魔法だ。しかしこちらは少し面白い逸話が残っている」

「どんな話ですか?」

「これは唯神教の聖典の中にある話……と言うかコールゴッドの記録はそこにしかないんだけど、過去の文明、つまり先史魔法文明を滅ぼした大悪魔はこの魔法で封印されたらしい。君は聞かなかったけど停滞ステイシスという物体の時を止める魔法もここでしか使われた記録が無い。……どうだい、何か色々と秘密がありそうな話だろう?」


 師匠はそう言って知的好奇心に溢れた笑みを浮かべた。


 確かに何か面白そうな話ではある。

 大悪魔と神降ろし、そして停滞の魔法。ぱっと聞くだけでも英雄譚的なイメージが想起される。

 歴史ロマン的な感じではあるが、興味はそそられるな。


 それにしても悪魔が居るのか。

 まあブルーデビル・・・とか名前の付いたやつも居たし、ありえない訳じゃないんだろうが。

 悪魔と言うとイメージするのは対する存在の天使、そして宗教的な色合いの強いものである。これらイメージは元の世界のキリスト教やらから来るものであるため、この世界の「悪魔」とはまた別のものになる。

 この世界の悪魔には、この世界特有の位置付けがあるはずだ。元の世界の知識に引っ張られて先入観を持ってしまわないように注意が必要だな。


「ちなみに当時コールゴッドを行った聖人は反動で命を落としたらしい。君がこれから修行を積んだらもしかすると使えるようになる可能性もあるけど、使わない方が身のためだろうね」

「何と言うかそれは……物凄い欠陥魔法ですね。術者が死ぬとか……」

「こんな感じで逸話でしか記録が無いくらいだから、当時の聖人しか使えなかった未完成の魔法なんだろうね。神降ろしという名前が付いていて効果が封印だけというのも変だし、本来は別の効果を求めた魔法なのかもしれない」


 なるほど確かにもっともな推理である。

 

 ……それにしても、ここまで話を聞いてきた訳だが、結局俺が覚えられる魂魄・神聖魔法の最上位の魔法達はまともに使えないものばかり、という事になってしまったな。

 名前から予想できていたとは言え、探索の進捗に関わるような凄い魔法が無くて少し残念である。


「君自身、唐突な事ではあるだろうけどそのレベルまで達したという事だ。それは自覚したまえよ」


 そう締め括った師匠の言葉は、言外に「だから理力魔法を学びなさい」という意味が含まれているように感じる。

 確かにそれは理にかなっていて、理力魔法は人間が実用のために開発してきた実用的な魔法が名を連ねている。習得できる呪文の数も多く、必要な力を探し出し習得すると言うならこれ以上に適した魔法は無いだろう。


 あるのか無いのか、できるのかできないのかあやふやな魔法ではなく、確固たる情報の蓄積がある理力魔法を学ぶべきか。

 当初の話からズレる事なく、結論としてはそういう事になった。


 その後他に質問も無く、師匠もこれで授業は終わりと言うので、俺達は挨拶をして師匠の居室を辞する事にした。


 明日はとうとう学会の本会が開催される日である。

 かなりもったいぶっていたし、師匠の研究成果がどんな凄い魔法か、楽しみにさせてもらう事にしよう。



 ======



 翌日。

 俺は朝から学会の本会会場にて観覧者用の席についていた。


 学会は魔術組合への登録が必要なので今日は一人での行動である。

 他の皆は暇だろうがここは我慢してもらうしかない。


 シータには師匠から宿題としてもらった魔法学概論の本を貸したので、やる気があればそれを読んでいるだろう。無ければトビーと連れ立って王都をぶらぶらしているかもしれない。


 ズーグは傭兵ギルドに行ってみたようだが、そう都合のいい仕事が転がっている訳もなく、暇を潰せず残念がっていた。リハビリでもしていますと言っていたので、彼は今頃宿で筋トレでもしているか、場所があれば新品の腕で剣を振り回している事だろう。


 魔法の底上げのために勧められるがまま王都にやってきたわけだが、どうにも時間が上手く使えていない感じはある。

 神威事件で予定を前倒しにして王都に来た事と、俺が神威にやられてアレな感じだったせいで、あんまりやる事を吟味しないまま来てしまったからな。仕方ないと言えば仕方ない事なのだが。


 まあ全部を効率的にやらないといけない訳じゃないし、悲観する事でもないか。

 あまり気にし過ぎても精神的にしんどいだけだしな。


 そう考えつつも迷宮都市に帰った後のプランをしこしこ考えていた俺だったが、その考えがまとまらないうちに学会の本会が開会したようだ。


「これより第六十二回、オーフェリア王国魔術学会を開催いたします!」


 そんな掛け声と共に、司会挨拶、式次第と進んでいく。

 師匠はトリから二番目なのでしばらくあるが、それまでの演者の発表も分からないなりに聞いて楽しむ事にしよう。


 最初の発表者が壇上に上がり、学会がスタートしたのであった。




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