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33 成果



「……ぅ……っ」


 真っ白に塗りつぶされた意識が浮上する。

 微睡みを挟まない急激な覚醒にびくりと体が震える。


「……ここは」

「リョウ様、お目覚めになったんですね!」


 白いシーツの敷かれたベッドが幾つか置かれた部屋。

 そのベッドの内の一つに俺は体を横たえていた。


 声を上げたのはシータで、駆け寄ってきて俺の顔をまじまじと見てくる。


「もう大丈夫……なんですね?」


 顔色から判断したのか彼女はほっと息を吐いた。

 

 俺は体を起こし、自分の状態についてここでようやく確認を行う。

 そしてすぐに以前との違いに気付いた。


「何も……感じない?」


 超越存在からの圧力は綺麗さっぱりと消え失せていた。

 それどころか超越存在を以前より強く感じるにもかかわらず、平然としていられる。

 自身の存在の「厚み」が増したと言うか何と言うか、不思議な感じだった。


 夢……と言うか香によって得られた人為的な譫妄状態の中で、俺が経験(?)した事が少しずつ蘇ってくる。


 俺は自分の魂の輪郭を知った。

 その傍に佇む与えられた力、ウィスパーさんを模した「才能の器」と出会った。

 そして己の魂を客観的に眺め、周囲を満たす超越存在を感じ取った。


 超越存在は俺を脅かすようなものではなかった。

 神聖魔法を初めて使った時に感じた通り、あれは俺の理解できるような意志など持っていないし、こちらに視線を向けたりもしない。


 もしかしたら何らかの意思を持っているのかもしれないが、少なくとも俺に対して圧力をかけるような事は無いはずだ。超越存在は、俺がその中を「泳いで」みせたように、こちらに影響を及ぼす力を持っていないのだと思う。


 あれほどの力を持ちながら、俺達の居る次元(便宜上こう呼ぶ事にした)に干渉できない。

 神聖魔法のみが俺達と超越存在の仲立ちとなる。

 あれはそういう存在なのだ。


 そしてそれ故に「神聖」魔法なのだと、俺は理解した。

 邪に対する聖ではない。

 異なる位相に存在する二者の、唯一の交流の方法。何よりも尊いコミュニケーションのすべという意味での神聖なのだ。


 客観的な事実など知る由も無いが、俺は自分のこの考えが真実であると確信があった。

 誰に否定されたとしてもそれを真だと信ずる事ができる。

 魂の位階が上がり、信仰が強まり、より強い神聖魔法を扱えるという事の意味を納得できた。


「あの……?」


 自分の掌を見つめながら自分の成長を噛みしめていた俺を、シータが不安そうにのぞき込んでくる。

 起き上がって思いつめた様にじっと手を見ていたらそりゃあ心配もするか。


「ああ、ごめん。もう調子は問題無い。前よりも良いくらいだよ。……それで、あの後どうなったんだ?」

「はい。あの時、私とズーグさんは十分ほどで丸薬を噛み、行を終了したんです。でもその後どれだけ経ってもリョウ様が戻ってこなくて……。ヘックス先生もかなり不思議がってらっしゃいました」


 なるほど、深く行に入り込み過ぎて簡単に戻ってこられなくなったのか。

 まあ魂の位階も上がったっぽいし、簡易な修行でそれをやったんだから普通以上の事になってしまうのはしかたない。


「とにかくあまりに長いのでエルメイル先生に医務室のベッドを一つ空けてもらうよう手配してもらって、それから三日間、リョウ様は眠っていたのです」

「は? 三日間?」


 丸一日くらいを想定して話を聞いていた俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。


 だって三日だぞ。

 人為的な譫妄から立ち直らないまま寝入って翌日、とか言うレベルじゃない。

 もはや重篤患者じゃねぇか。


 と、突然の時間経過に驚いて多少混乱していると、目の前のシータはふわりと笑顔を浮かべた。


「とにかく、無事で良かったです。エルメイル先生もかなり心配されていたので、お体が良ければ顔を見せに行きましょう」

「……そうだな。すぐ行って安心させてあげよう」


 俺はベッドから足を下ろし、揃えて置かれていた靴を履いて立ち上がった。


「それにしても師匠が心配してくれるなんてねぇ」

「ふふふ、イメージと合わないくらい取り乱していましたよ? ヘックス先生にもかなりキツく当たっていましたし」


 その様子を思い出したのか、面白そうにシータが笑い声を上げる。


 俺は師匠が心配してくれたのが意外なほど嬉しくてこそばゆかった。

 多分それはこの世界で初めて、自分の奴隷でない誰かに親身にされたからだろう。

 もしかしたら何か別の理由があるという可能性もあるが、シータのさっきの様子ではそんな感じじゃなさそうだし。


 うん。

 シータもさっき起きた時心配してくれてたし、この関わりは大事にしよう。

 隠し事のため今は奴隷しか信用できない俺だけど、いつかは彼女らにも本当の事を言える日が来るよう、頑張らないとな。


 俺とシータは連れ立って医務室を出て、この三日間の事を話しながら、師匠の居室へと向かうのであった。




 ===============




「どうぞ」


 ノックをすると返事があり、俺達は師匠の部屋に入った。

 三日も寝ていた俺が顔を見せたらどんなリアクションをするのか、俺は一瞬を見逃さないよう師匠を視界に捉えると注視する。


「……おはようございます」

「あっ! リョウ!」


 机で何か書き物をしていた師匠は、挨拶をした俺を認め、大きく口を開けて声を上げた。 


 余程驚いたのだろう。

 その様子は堅そうな感じの普段と違い過ぎて、ちょっと面白かった。


 それを見てつい含み笑いを浮かべてしまったが、ばっちりと見咎められて師匠は怒ったようにまなじりを吊り上げる。


「何笑ってるんだい! もう、心配かけさせて!」


 立ち上がって、つかつかと机を避けながら俺の方に歩み寄ってきた。

 そして身長差から見下ろす俺の顎をクイと上げさせ、左右に動かして顔色を確認している。


「ふうん、まあ調子は良さそうか。ヘックス先生を呼んでこないとね。あとは……身体調査フィジカルリサーチ


 ブツブツ言いながら、師匠は恐らく探査系の理力魔法を唱え、俺の体を調べ始めた。


 これは遮ると碌な事にならなそうな感じだな。

 俺はなすがままにされ、師匠の魔法を受け入れる事にする。


 そしてすぐに解放され椅子に座るよう命じられた。


「そこを動くんじゃないよ? すぐにあの神聖魔法バカを連れてくるから」


 小さな子供に言い含めるようにそう言って、師匠は部屋から出ていった。


 香の行をやる前と比べて異様にヘックス教授の評価が下がっている気がするが、まあ大体俺のせいなので知らない振りをする事にしよう。

 師匠の癇癪に巻き込まれたら堪ったものではないしな。


 シータもズーグ達を呼びに行くと言って出ていったので(彼らは俺のために薬になりそうなものを探しに行っているらしい)、俺は師匠の居室にぽつねんと一人きりである。


 ただ待っているだけというのも暇なので、俺はステータス画面を開き、後回しにしていたスキルレベルの上昇を確認する事にした。



【ステータス画面】

名前:サイトウ・リョウ

年齢:25

性別:男

職業:才能の器(54)

スキル:斥候(5)、片手武器(4)、理力魔法(5)、鑑定(5)、神聖魔法(8)、魂魄魔法(7)、看破(5)、体術(4)、並列思考(5)、射撃(3)、空間把握(3)(SP残1)



「うおっ」


 驚きの結果に思わず声を上げてしまう。

 神聖魔法がレベル8、魂魄魔法がレベル7になっている。

 成長はしているだろうな、とは思っていたが予想を遥かに上回る上昇であった。


 確かに何か「掴んだ」感じはあったが、これほどの結果になるとは。

 神威にやられていた時のスキルレベルは神聖魔法6、魂魄魔法5であったので、それと比べても大きく上昇している。


 今回の成長で得られた魔法だが、魂魄魔法は「超加速ヘイスト」「魂回復ソウルヒーリング」「吸収ドレイン」である。

 ヘイストは字の如く速さを上げる魔法だが、単純な筋力強化系の速度上昇とは異なり、クロックアップと言うか動作・思考全てが速くなる魔法である。身体強化を施さないと自身のダメージが凄い魔法だが、俺はそっちの補助も豊富に揃っているので問題は無いだろう。

 ソウルヒーリングは魂の損傷を回復させるもので、アンデッドやガイストなど一部の魔物と戦う時の備えである。

 ドレインは魂魄魔法レベル5で覚えた「衰弱プロストレイション」の上位互換で、衰弱のデバフ+魔力奪取という超性能だ。しかし同時に接触魔法である欠点も同じなので、俺の近接技能が上がらない限りは死に魔法となる。


 神聖魔法は「再生リジェネレーション」「神息ブレス」「完全回復オリジナルコンディション」「超過回復オーバーヒール」を覚えた。

 リジェネはこれこそが欠損治癒の根幹で、恐らくソウルヒーリングとの組み合わせで十全な欠損治癒を熟せると思われる。

 ブレスは神聖魔法における全ての身体強化・精神強化・防護系魔法を合わせた効果を、更に上回る効果を持つ強力なバフである。どうやら尋常でない魔力を消費するようだが、逆に言えば決戦仕様で両腕状態で万全のズーグにこれを掛けたらいったいどうなるのか、今から非常に楽しみになってきた。

 オリコンはソード・〇ールドの「レスト〇ーション」に近く、身体状態の完全治癒(状態異常含む)に加えてバフ・デバフも全部剥がしてしまうらしい。起死回生の一手としては使えるがバフを載せまくる俺としては使用に注意が必要だろう。

 オーバーヒールは使われた魔力が回復に対して余剰であった場合、その魔力が攻撃を肩代わりする防護膜として機能する魔法らしい。この防護膜の持続時間や、消費魔力との費用対効果、後は防護膜自身の性能について検証が必要だが、その結果如何では相当強力な手札になると考えられる。


 こうして再確認すると、やはり高レベルだけあって強力な効果を持つ魔法が多い。

 しかし癖のある魔法、検証や使い勝手を調整すべき魔法も多く、やりがいと同時に面倒臭さも少し覚えるな。

 もっとこう、「もうこれだけで良いんじゃないかな?」みたいな魔法があって無双できたら良いんだが。


 まあ現実はそう甘くないという事だろう。

 嫌がらずに、これまで通り地道に使い方を探っていく事にしよう。


 そうして得た魔法を知り、今後の展望に思索を巡らせていると、師匠が戻ってきた。

 やっとつかまえただの言っていたので、かなり歩き回ったようだ。

 シータも遅れて帰ってきて、後ろにズーグ達を伴っている。

 

 俺の奴隷二人組は、元気な俺の姿を見てかなり安心したようで、肩の荷を下ろしたような深い溜息を吐いていた。


「全員揃ったみたいだね。じゃあ……前回の続きでも始めるかい?」

「まあ結果報告と、その他諸々終わった後でなら」


 三日前と同じメンバーが集まって居る事に気付いた師匠がおどけたように言い、俺はそれに笑い返す。


 ひとまずは結果報告。

 後は前回にやり残した事に手を付けていく事にしよう。

 前回の続き……多分師匠が言いたいのは香の行の第二陣(師匠たち三人)の事だろうが、それはその後にしてもらう事にする。


 そして俺は「何をやり残したんだったか」と三日前を思い出しながら、香の行の成果を全員に報告するのであった。





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