表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/117

30 王都と再会



「……そういうわけだ。すまんなせつめいに時間がかかって」


 落ち着いた後、シータに淹れてもらったお茶を飲みながら、俺は事情の説明を行った。

 状況は別に改善していないので整理して話すのにやたら苦労させられたが、今の俺のたどたどしい説明では聞く方も理解するのに難儀した事だろう。


「いえ、旦那の言う話が事実なら仕方ない事かと。それにしても、神聖魔法に思わぬ落とし穴があったものですね」

「まあ、わるいことばかりじゃないさ」

「と言うと?」

「ちからを借り過ぎた、というのはいいかえれば超越存在への……えーっと、なんだ、かんしょう……干渉力があがった証拠だろう」

「であれば実際に……変化があったという事でしょうか」


 語彙の選択に難儀しながら語った俺の推測に、ズーグは言い淀むような様子でそう聞いてきた。

 ここにはシータが居るので話せないが、恐らくステータス画面の事を聞きたいのだろう。


「ああ、それは確認している。ただ、いま魔法は少しむずかしいな。探索はむりだろうし、生活にも影響がありそうだ」

「なるほど」


 ズーグは俺の言を聞き、頷いて黙り込んだ。

 同じテーブルで話を聞いているトビーとシータの兄妹が沈んだ様子なのは、つい先日シータの呪いを祓った俺の異常事態に何もできない事を憂いているからだろうか。


「すまねえ、ご主人。オレ、ご主人がやべえ状態なのに何にも……できそうにねぇ……」


 案の定、思いつめた様子でそんな事を言ってくる。

 まあ俺も最初はやっちまったと思ったけど、実際のところ、現状はそこまで悲観するほどの状態ではないと思っていたりする。


「いや、俺はおまえがいてくれて良かったよ」

「え?」

「ズーグだけの時にこんなんなってたらもっとヤバかっただろうし。それより学会の金はたまったんだろ?」

「は、はあ。貯めろっつって言われた額は貯まりやしたが……」

「ならよてい通り学会にいこう。師匠に会えば何か打開さくが分かるかもしれない」

「な、なるほどっすね」


 そういう訳で俺達は簡単に準備を済ませ(実際にはほとんどやってもらって)、翌日には王都行きの馬車へと乗り込んだ。


 王都へはシータも同行する事になっている。

 これはもともと予定していた事で、これまで呪いのせいで殆ど引きこもり状態だった分、色々連れだしてやろうとトビーと以前から話していたのである。

 しかし状況が変わり見聞のためではなく、俺の行動の補助……微妙に注意力が落ちている俺の補助をしてもらうための同行になってしまったのは、申し訳ないところである。ただ彼女としては俺に恩を返せるチャンスだと言って、快く引き受けてくれた。


 トビーもそうだがこの兄妹は二人ともひねくれた所があまりなく非常に人柄が良い。こんな話をするのはやらしいかもしれないが、良い買い物だったと言えるだろう。


 さて。

 そんなこんなで皆に護送されるようにして二日。

 俺は王都へと辿り着いた。


 王都入りは、本当なら景観やら何やらに新鮮な驚きを得られていたんだろう。

 だが俺がこんな状態なので特に感動も無く、学会の受付である魔術師組合にすぐさま赴いて、師匠に繋ぎを取ってもらう事になった。


「リョウ様ですね。エルメイル教授より言付かっております」

「本人かどうかかくにんはされないんですか?」

「体格の良い片腕片目の竜人を連れていると聞いていますので」


 学会の受付では特に疑われる事も無く事が運んだが、どうやら師匠はズーグを目印にしたらしい。片腕片目の竜人であれば確かに珍しいし、目立つのは確かだな。

 まあそもそも俺に成りすます利点もあんまりないんだが。


「では学園の東棟三〇六号室にいらっしゃいますのでご案内します」


 流石に教授の弟子扱いという事か、受付の人は別の人に受付を任せ、俺達を師匠の臨時居室に案内してくれた。俺達の中の誰一人としてこういうアカデミックな場所に縁がないので、大変助かる。ギリギリ俺が元の世界で大学を卒業してはいるが、流石に知らない建物の構造や部屋割りが分かる訳ないからな。


「ありがとうございました」

「いえ、何かあればお申し付けください」


 教室などがある中央棟から少し歩き、教員用宿舎も兼ねる東棟の一室へと辿り着く。

 受付の人と別れノックをして中に入ると、そこには応接用の低いテーブルと椅子。そしてその奥で書類に埋もれている大きな机で何か書き物をしているのは、


「おや、若人じゃないか」


 紫の髪を後ろで結い上げ、初めて出会った頃のような風貌の眼鏡の女性。

 師匠との再会であった。



 ======



「いやあ、久しいねえ。ん? そこまで久しくはないか……別れてから二週間くらいかな?」


 師匠は俺達を応接用の椅子へと促し、一度奥に引っ込んでお茶を淹れて戻ってきた。

 どうやら奥にはトイレと簡易な炊事場、そして彼女の寝床があるらしい。

 師匠にやらせるのは悪いと言ったらベッドを見られるのは恥ずかしいとか言っていたので、もしかしたら着替えとかが散乱しているのかもしれない。


 まあそれはともかく。


「ししょう、おひさしぶりです。いきなりで悪いんですが、少しきょうりょくしていただきたいことがあります。聞いていただけますか?」


 師匠は俺の言葉がややたどたどしい事に疑問を抱いたようだが、すぐには質問せず手で続きを促してくれた。

 俺はお言葉(?)に甘えて近況報告と、そして今日の宿も決めないままここに直行してきた理由、つまり神聖魔法の事故について語った。


「ふうむ……神聖魔法か……」

「なにか、かいけつ策はないでしょうか」

「うむ。実のところを言うと、私には解決策は思い浮かばないな。私の専門は理力魔法だからね」

「そうですか……」


 俺が落胆したのが分かったのか、師匠が苦笑を浮かべる。

 

「そう落ち込むんじゃないよ」

「すいません」

「大丈夫。私は専門じゃないが、幸いにして今は学会が行われる時期だ。知り合いの神聖魔法の研究家も王都に来ているだろう。彼に聞けば何か分かるかもしれない」


 一転しての朗報に、俺だけじゃなくズーグ達も明るい声を上げた。

 その変わり様を見て師匠も穏やかな笑みを浮かべる。


「ははは。新しいメンバーも加わったみたいだが、仲良くやっているようだね。その小さな女の子も奴隷なのかい?」

「いえ、この子はトビー……こいつの妹です。奴隷ってわけじゃないんですけど、俺がこんな状態なんでついてきてもらったんですよ」

「なるほど、色々と大変そうだ。まあ君も、こんな可愛い子ちゃんに介助されれば満更悪い気もしないんだろうね」


 師匠の軽口にシータが恥ずかしがって俯く。

 初心な少女をからかうなんて酷い大人だと思いつつも、可愛らしい反応なので特にフォローはしないでおいた。トビーは渋い顔をしていたが、まあ恩人の恩人となる(予定の)師匠に強く出れないのか、梅干しみたいな渋面のまま黙っている。


「いやー、やっぱりリョウの所は面白いね。奴隷でチームを作っている割に、まるで仲の良いチームのようだ。君達みたいなのはそうは居ないんじゃないか?」


 師匠の言う通り、探索はあくまで生業であるため、チーム内でもドライな付き合いをしている探索者は多い。一緒に戦った戦友の絆はあるが、それと金銭の話はまた別という事だろう。

 もちろん一蓮托生の、家族や兄弟のようなチームもあるが、どちらかと言うとドライな人達の方が多いようである。


「さて、とりあえず神聖魔法の研究者には私が当たりを着けておこう。君には事情もあるし、紹介状を書くよりここに呼んで私が立ち会った方が良いだろうね」


 眼鏡をくいと直しながら師匠が言った。

 できる人特有と言うか、放っておいてもどんどん話が進んでいく辺り流石である。

 迷推理を披露している時とは大違いの印象だ。


 と言うか俺としては、師匠とはもっと軽妙にやり取りをしたいんだが。

 彼女の発言のペースが今の俺には速過ぎて、頭の中で色々考えてはいても言葉を選んでいる間に次に進んで、中々話せないという状況なのである。


 これがヤ〇チャ視点というやつなのだろうか。いや違うか。


 とにかく、師匠のお陰で解決の糸口は掴めそうだ。

 勝手な想像にはなるが、研究者である師匠のスキルレベルが8だった事を考えれば、その神聖魔法の研究者もそれくらいの技能は持っていると考えられる。であれば恐らく今の俺の状態……つまり超越存在への干渉力が上がり過ぎ、向こうからの凄まじい圧力の視線に耐える状態を過ぎているだろう。それを脱した方法を聞ければ、俺と多少状況が違ったとしても解決策になる事は間違いないはずだ。


 神聖魔法の研究者との面会については今日いきなりは無理なので日を改める事になった。

 俺達はそのまま少し彼女と雑談をした後、王都を巡り宿を二部屋押さえ、夜を明かしたのであった。





よろしければ評価・感想・ブクマをお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ