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23 第一迷宮都市



 とうとう第一迷宮都市キンケイルへと辿り着いた。

 俺はここで探索を行う予定なので、師匠アルメリアさんやマリネ、ピールとはお別れだ。師匠は王都で開かれる学会の時に会う予定があるが、馬車の旅で仲良くなった二人とはもう会う事も無いかもしれないな。

 と、そんな感じで俺は少し感傷に浸っていたのだが、二人はあっけらかんとしたものである。


「魔導列車に関係する仕事だし、多分どっかで会うでしょ」

「そうそう、王都に来るんだからそんときに会うかもしんねえし、運よく会えたら飯でも行こうぜ」

「ああ、そうだな」


 そんな会話を交わして、二人は王都行きの馬車に乗り込んだ。

 次に俺は師匠と向かい合う。


「じゃあ、リョウ」

「はい」


 師匠とは……さっきも言った通り学会までのお別れだ。

 彼女ともこの旅の道中色んな事を話したので別れの寂しさはある。


「改めて言っておくけど、その本を読んでおくようにね。あとは学会の時にちゃんと王都に来る事。場所は学会の受付で私の名前を出せばいいよ。こっちも弟子が来ることは伝えておくから」


 と思っていたら現実に引き戻された。

 宿題は今俺の手の中にあるが、改めて言われてずっしりと重みを増したような気がするな。

 この本めっちゃ分厚いんだが探索の合間に読み切れるのかこれ。


「やっぱり嫌そうな顔だねえ。学生というのは皆そうなのか。もっと学術に興味を持ちたまえよ」


 師匠はそう言って苦笑を浮かべる。

 馬車の窓からは「お師匠さんとの別れを惜しんでやがるぜ」とか「いかないでせんせぃ~ん」とかふざけた野次が飛んできているが無視だ無視。


「まあ、頑張ります」

「ふふ、頑張りたまえ。では、また」

「はい」


 アルメリアさんはロングスカートの裾をひらりと翻し、タラップを踏んで馬車へと乗り込んだ。

 そして馬車は走り出し、俺とズーグがそこに残されたのだった。



 ======



「行きましたか」

「ああ、行ったな」


 遠ざかる馬車を見送っているとしばらくしてズーグが声を掛けてきた。

 分かってるさ。しょんぼりしても仕方ない。

 これから始まる戦いの日々は俺が望んだもので、旅の当初から予定されていたものなんだから。


「じゃあ、まずは宿を探すか。そのあと組合に行こう」

「了解です」


 名残惜しいが、俺達は歩き始める。


「それにしても旅の道中から思ってたが、お前あんまり俺達の会話に混ざってこなかったな。話すの嫌いなのか?」

「そういう訳ではないですが」

「まあマリネとピールに絡んだら面倒臭そうなのは分からなくもないが」

「旦那、お忘れでしょうが俺もいい歳です。若者の会話に混ざるのは少々辛い」


 フッ、という感じでズーグが笑う。

 まあ確かにズーグは六十手前だからな。

 俺が若者かどうかは微妙なラインだが、間違いなくマリネとピールは若者の範疇な訳だし。


 そんな風に雑談をしながら歩みを進め、俺達は首尾よく今日の宿を抑える。そして更に移動して、第一迷宮都市キンケイルの探索者組合へと辿り着いた。


 流石に第一の名は伊達ではないという事か。建物はマイトリスの倍くらいはあり、人の量も午後に差し掛かった時間とは思えないほどである。中に入ればホールの雰囲気は明るく、受付も多く、受付嬢は可愛い女の子がずらりと並ぶ。

 いや、決してマルティナさんが悪いと言う訳ではない。

 マルティナさんは(ぱっと見)美人だし(喋らなければ)気品溢れるお姉さんだ。

 断じて彼女の毒によって組合の雰囲気が暗くなっているとかそういう事を言っている訳ではない。断じてない。


 脳裏をよぎった内容をマルティナさんに知られたら大変な事になる、という想像で背筋が寒くなったが、とにかく俺は受付へと向かった。

 まずは登録と、狩場占有問題の確認だな。


「こんにちは」

「いらっしゃいませ。どのようなご用件ですか?」

「探索者として……あー、フリーの探索者として登録をお願いします。それと王立資源探索隊が組織されたって聞きましたけど、狩場って空いてるんですかね?」


 桃色ショートボブのかわいいお姉さんは、最初はニコニコしていたが、フリーと聞いて一段階、狩場が空いてるかと聞いて二段階愛想の良さが下がってしまった。

 今はギリギリ笑顔といった感じである。


「フリーですか。王立探索隊への入隊を推奨していますが……」

「いえ、あくまでフリーでお願いしたいんです」


 そして笑顔が消えてしまった。

 物凄く申し訳ない気持ちになるし、これからの探索にも暗雲が立ち込めるが、譲れないラインを譲る訳にはいかない。

 その後も保障が云々と色々勧誘されたが、全部断ったので最後にはお姉さんの好感度・機嫌共にどん底となった。


「そうですか」

「それで、狩場の方は……?」


 だがマルティナさんに鍛えられた俺にはその程度の冷徹な視線はなんともないのだ。鉄面皮を保持しつつ聞くと、受付嬢さんは諦めたように溜息を吐いて俺の質問に答えてくれた。


「王立資源探索隊は組織されましたが、狩場は先行者優先で取り合いはしない。そのルールに変わりはありません」

「占有は行われていないと?」

「ええ、ですが探索隊の方々は普通の探索者とはモチベーションが違いますので、早朝から向かわれる方が多いですよ」


 こめかみをひくひくさせながら、受付嬢はそう言った。

 色々と迂遠な言い回しをしているが、つまりはルールが変わってないだけで事実としては占有が行われているのだ。

 これまでは先行者優先としても他を探せば問題無かったが、恐らくキンケイル迷宮では他を探してもそこにもまた先行者が居る、と言う状況なのだろう。


 実際のところ何階から何階が探索隊の主戦場になっているのか。

 何時から何時が活動時間なのか。

 続いてその辺を詳しく聞きたかったが、反応がかなりぞんざいになってきているのでこれ以上は無理そうだった。


 ひとまず引き上げて迷宮に行ってみるか。

 あるいは適当な探索者を捕まえて聞いてみるか。


 組合のホールで考え込んでいると桃色受付嬢がギロりと睨みつけてきたので、とりあえず俺達は探索者組合から退散する事にした。



 ======



 組合を出て、舗装された石畳の道を歩く。

 風景はマイトリスに似ている第一迷宮都市だが、やはり状況は違っているようだ。

 予想はしていたとは言え、探索に集中できないのは出足に躓いたようであまり気分は良くない。


 さて、どうするか。


「どうするのです? 俺は迷宮に行ってみるのが良いと思いましたが」

「その心は?」

「ココロ? ああいや、旦那はその……不思議な窓で地図が見れるんですよね? ならば、空いている狩場を探すのも簡単ではないかと。本当に全く無ければまた別の方法を考えるべきですが……」


 なるほど確かに。

 斥候の技能は有用だが、探知範囲は魔法より広いとは言っても意識を集中する一方向に偏りがある。

 魔法による探知とステータス画面を併用する俺の場合は、斥候スキルとの合わせ技でかなり詳細かつ広範囲に気配を探る事ができる。

 それを活用しようと言う訳だ。


 魔物と人を区別して探るのは少し技術がいるが、まあそれも訓練と思う事にしよう。

 マイトリスみたいに探索者の密度が薄い方が異常なんだろうしな。


「よし、じゃあひとまずは突撃してみるか」

「ええ、それが良いでしょう」


 一応そのつもりはあったので荷物は探索に合わせてきている。

 俺達はその足でキンケイル迷宮へと向かうのであった。





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