15 武具店その三
明けて翌日。
朝のお祈り(神聖魔法の訓練とも言う)と身支度を済ませ、朝食を摂りに階下に降りる。
「おはようございます」
ズーグは先に起きていてテーブルに着いている。
食事代は宿泊費と一緒に払っており、好きなタイミングで食えるようにしてあるので既に食べ終えているようだ。
「おう、おはよう。早いな」
「ええ。奴隷として主人より早く活動を始めるのは当然でしょう」
同じ部屋に泊まっているのに何を今更。
まあその辺は彼にも譲れない線があるのだろう。
「活動っつったってやる事ないだろう。お屋敷で働いてる訳じゃあるまいし」
「まあ、確かにそうですが。自由に歩き回ったりできるのが新鮮だったので、食堂や中庭をうろうろしていました。これまでは必要時以外、特定の部屋や訓練所から出られませんでしたから」
子供みたいな反応に思えるが、二十年以上もそうだった事を思えば感動も一入なのかもしれないな。なので突っ込むのは止めておいてやろう。
「しないとは思うけど、あまり許可無く遠くに行くと奴隷契約違反で酷い目に遭うから注意しろよ」
「承知しています」
そんなやり取りをした後、俺はギールさんに頼んで食事を用意してもらった。
そしてそれを食べながら行儀悪くもステータス画面を開いてスキルの確認を行う。
【ステータス画面】
名前:サイトウ・リョウ
年齢:25
性別:男
職業:才能の器(32)
スキル:斥候(4)、片手武器(3)、理力魔法(5)、鑑定(5)、神聖魔法(4)、魂魄魔法(4)、看破(5)、体術(2)(SP残1)
【ステータス画面】
名前:ズーグ・ガルトムート
年齢:58
性別:男
職業:戦士(20)
スキル:両手武器(7)、竜魔法(2)、槍使い(8)、片手武器(3)(SP残1)
昨日は疲れて寝てしまったが、SPが新たに手に入ったんだよな。
次に俺が取るのは「並列思考」にして魔法戦闘の底上げをしよう。
それでズーグの方はどうするか……。
まあこういうのは本人に聞いてみるのが一番だな。
「ズーグ、お前、新しい技能を覚えられるとしたら何が良い?」
「技能……? ああ、旦那が言っていた不思議な窓に表れるとか言うやつですか」
「そうだ。お前も今ある技能の力量が上がってきて、次の技能を覚えられる状態になったみたいなんだが、何が良いのかと思ってな。なんか思いつくのは無いか?」
「うーむ、そう言われましても、そういった形で考えた事がありませんので……」
「まあ確かにそうだろうが……もっと簡単に、お前が戦士として次に何を学ぶべきかって感じで良いと思うぞ。どうせ覚えられないのは覚えられないし」
才能の器を持つ俺とは違い、ズーグのスキル欄には限られたスキルしか表示されていない。ほとんどが近接戦闘系だが、これが職業「戦士」によるものか、あるいは本来的にズーグが取得できるスキルがあるのかは不明だ。
この辺検証してみたい気もするが、才能の器もステータス画面も俺しか持ってないので検証しても意味無さそうなんだよな。……あんまりやる気出ないからやめておこう。
「可能なら旦那のように魔法技能を使えるようになりたいとは思いますが……」
考え込んでいたズーグから返答があった。
でも残念ながら、彼のスキル欄にある魔法技能は竜魔法のみだ。適性が無いらしい。
「悪い、魔法は竜化術以外ダメみたいだ……」
「ダメ、と言うのは要するに適性が無いという事でしょうか」
「そうなるな。俺は不思議な事に全技能を習得できるみたいだが……普通に考えたら適性の無い技能なんて無数にあるわな」
「それは当然でしょうね。俺が魔法技能を使うところを想像できません」
じゃあなんで言ったんだと聞きたくなるが、まあだからこそ習得できるなら習得したいと思ったんだろうな。その気持ちは分からなくもない。
「適性が無い事が分かると言う事は、逆に言えば適性があるものも分かると言う事でしょう。よろしければそれを教えていただけませんか?」
「そうだな、そこから選ぶのが良いだろう」
そういう訳で俺は彼の習得できる技能について教える事になった。
さっきも確認したが大体は近接戦闘系、基本の「片手/両手武器」に始まり「○○使い」が並んでいる。
実はこの○○使いと言うスキルも才能の器補正で俺の方がよっぽど多いのだが、それでも七割方被っているところをみるとズーグの才能もかなりのものがあると言えるな。激戦の北方領域で戦い抜いた男なのだから自明の理ではあるが。
近接系以外のスキルは「体術」「斥候」の様な補助的なものや「投擲」「射撃」と言った遠距離攻撃のもの、そして「指揮」のような指導者的立場のスキルだった。
斥候は俺のスキルと魔法で賄えているのでいいとして、体術は良いかもしれない。遠距離攻撃は使い勝手が分からないが、ズーグの判断はどうだろうか。
「俺は投擲が良いのではないかと思います」
「へえ、その理由は?」
「体術と言うのは身のこなし、と言ったイメージですが、武器を使う上での身のこなしについては十分できていると思います。片手武器についてはまだ不十分ですが、槍についてはかなり扱えていた自負はありますので」
なるほど、槍使いレベル8が言うと説得力あるな。
恐らく体術スキルは武器に関与しない部分の技能、つまり不安定な場所での行動など総括的な動作に関する技能と言う事なのだろう。
もしかすると技能同士で関与する能力に被っている部分があるのかもしれない。
「ですので、投擲を習得するのが良いと思いました。先制攻撃は旦那の戦闘行動の強みですからね」
そう結んだズーグの言は正しい。
当初考えた通り、斥候スキルで先制を取り、魔法で遠距離攻撃を加えるのが俺のメインとなる戦い方だ。
真正面からの戦闘はズーグが加入したからこそ選択肢に挙がっているだけで、基本行動はこれからも変わらないと思う。それを考慮すれば、遠距離攻撃の方法を一つでも持っている方が戦闘に貢献できると考えるのももっともである。
後は射撃(スリングとか弓)か投擲(投げナイフ、手斧)の二択だが、彼の得意な近接戦闘に影響しない投擲がベストと考えたのだろう。投げてしまえば身軽になるのでこれも妥当な判断だと言える。
「じゃあ、午前中は投擲用の武器を買いに行って、浅い階層で練習だな。午後は昨日と同じく六階に挑戦しよう」
「了解しました」
そういう訳で、今日の予定が決まった。
とりあえず俺はメシを食べないとな。さっきからギールさんが睨んでくるし。
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「おいーっす」
「おや、若人じゃないか」
「今日はアルメリアさんが店番ですか」
いつものエルメイル武具店にやってきた。
今日はあのちょび髭親父の日ではないようだ。
「私もそう暇な人間ではないんだけどね。どういう訳か最近ウチのクソ親父に引っ張りだされる事が多くなったんだ」
それ半分くらい俺のせいですすみません。
この間来た時に、アルメリアさん目当て、みたいな事言ってたからなあ。否定したけど信じたかどうかは怪しいところだ。
「それで、今日は何用だい? 先日も来たらしいけど……ってああ、分かったぞ」
今日もアルメリアさんの楽しい推理劇場が始まったようだ。
ズーグには店内に適当なものが無いか探すよう言いつけ、俺は劇場を観覧する事にしよう。
「つい数日前に立ち寄った武具店に再度訪れる理由……それはその時に買えなかったものがやはり必要になったと言う事だろう。つまり防具だ。そして同時に、探索で新たに必要なものが発生したと見るべきだな。その二点が揃った事で、ここに足を運ぶ理由ができたと言う事だろう。では新たに必要になったものは何か? そう、確か君は魔法を使えると聞いた。そうなると戦術的には魔法による先制攻撃が有効な手段の一つとして挙がるだろう。連れの竜人は見るからに肉弾一辺倒だが、彼にも遠距離攻撃をさせたいと君は思った。魔法を扱えない者にとっての遠距離攻撃……それは投擲武器か弓などの射撃武器だ。近接戦闘の邪魔にならない事を考えれば投擲武器が妥当だろう。……ふふふ、これは彼が今斧を見繕っているのを見てしまったので、推理とは言えないがね。どうだい、こんなところだろう?」
本日はノンカットでお送りしました。
いや、真面目に聞くと割とちゃんと考えられている。
合っているかどうかは別として。
ただ防具を買うのも確かにありだな。そうなると完全に言い当てられた感じになってちょっと悔しいが。
とにかく金属防具じゃなくても、体幹や下腹部を守る感じのレザーメイルがあればそれがいい。
何もいきなり完全防備にする必要はないのだ。
「まあ、合ってますね」
「そうだろうとも」
「あいつの持ってくる斧と体幹から下腹部を守る防具、併せて五千ゴルドじゃ無理ですかね?」
「レザー系の廉価なので良ければ融通しよう。彼の持ってくる斧にもよるが。多分丈夫なのを選ぶんじゃないかな? そうなると防具は無理そうだが」
果たしてズーグの持ってきた斧はそれだけで五千ゴルドくらいになった。
柄の部分まで金属のしっかりしたやつである。
「投げる時のバランスを考えると総金属が良いと思いましたので」
そう言っていたが、防具はいいのかこいつ。
今は防具無しなので彼の防御は自分の肉体とその身体強化、それに俺の「防護」「鎧強化」を加えたものだ。アーマープロテクションは布の服に付与しているので防御力上昇は些少なものだろうし、見てる限り結構不安なんだけどな。
「投擲など、破れかぶれでもやった事はないので少し楽しみですね」
話している事がバトルジャンキーじみているのも不安を煽る。
ズーグの経験は信用しているが、本当に大丈夫なんだろうな。
まあいいか。必要になったら言ってくるだろ。
とりあえず買い物は済んだし、迷宮に向かう事にしよう。
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さて。
迷宮の深い階に進みながら、新たに得た魔法を改めて確認しておくか。
地下六階まで進んだ事で魔法スキルのレベルがそれぞれ1ずつ上がった訳だしな。
まず魂魄魔法レベル4では「明晰」「魔導封鎖」「魔法爆雷」を覚えた。
クリアマインドは精神魔法への回復だけでなく、単純に動揺や恐怖を覚えた時にも使える魔法だ。マジックシールは敵の魔法能力を弱体化させるものである。アーケインマインは置き魔法で、威力はそこそこ高いが正直当てるのは大変だ。魔物は余程単純なやつでもない限り、敵意を感じ取ったりするしな。イノシシ型の魔物とか突進してくる相手に使うくらいだろうか。
次に神聖魔法レベル4で覚えた魔法は「祓魔」「整復」である。前者はアンデッドへの特効、後者は骨折の回復に使うものだ。
最後に理力魔法だが、「魔導槍」「電撃」「火葬」「凍結槍」「風刃」「石壁」を習得した。
やっぱり理力は数が多いな。
今回単体攻撃魔法を色々覚えたが、まずエナジャベは属性が無い代わりに他より命中・威力に優れている。ライボルは痺れ、フリージングランスは凍結が補助効果として現れ、どちらも相手の行動を阻害できる魔法だ。クリメイションは炎弾を投擲しないと駄目で当てづらいが、威力に振り切っている感じでこれまで当てた相手は全て焼け死んでいる。ストーンウォールは相手の魔法に対するカウンター、そしてウインドカッターは風の斬撃を飛ばす魔法でいつもの風魔法らしく威力が低い。
いや最後のは半分冗談だが、斬撃ダメージは間に合ってるからなあ。斬撃を飛ばせると言う所に活路を見出すしかないが、見出したところでと言う魔法であった。
総括としてはやはり理力魔法に役立つものが多い。特に今回非常に火力の高い魔法を得られたので、迷宮探索をよりスムーズにしてくれるだろう。
あの魔法学園卒業生チームはこの魔法群を三人中二人が使えると言うのだから、改めて考えると恐ろしいパーティである。近接に強い奴が一人加入するだけで地下六階とか簡単に突破するんじゃないかあいつら。
地下六階には魔法耐性高い敵も出るのであいつら三人でやっていくつもりなら何か方策を考えないといけないとは思うが。
「次の曲がり角の先に敵影三だな」
「了解です」
色々考えている間に、気付いたら三階だ。
今の俺なら出合い頭の魔法連発で片付けられそうだが、ズーグの投擲の練習もあるし手加減をすべきだろう。
投擲は一回の戦闘につき一回ずつしか使えない(斧が一本しかない)ので、成長は遅そうだ。一応ステータス画面で「投擲(0)」は確認したが、レベル1になるまで果たしてどれだけ掛かる事か。
まあ地下六階を突破するのは今の俺達じゃそう簡単にいかないだろうし、腰を据えてレベル上げをする事にしよう。
六階への進出で一気に魔法のレベルが上がったところを見ると、やはり敵の強さもレベル上昇に関わってきてそうだしな。順当に行けば全部のスキルをレベル5にできるだろう。
「旦那、終わりました」
「よし、サクサク行こうか」
俺達は地下六階へと進みながら、狩りを続けるのであった。
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