130 ズーグとの再会
筆が重たかったので、申し訳ないですがちょっと短いです。
転移を繰り返して、かなり南東の方に来た。
海に面する港湾都市デンタールとは、マイトリスを中心にして真逆の方向だ。
そこには湿地が広がっており、更に南東にある湖から流れる河川の支流と支流の間に、その村はあった。
村の内外は胸ほどの低木を柵代わりにして隔てられているようだ。
その柵の切れ目――要するに村の入り口に近づいて中を覗いてみると、ズーグによく似た風貌の竜人がちらほら見える。
俺が勝手に入っていいのか迷っていると、深い青色の鱗の竜人がこちらに気付いて近づいてきてくれた。
「なんだあんた、旅人か? 人間なんてここいらじゃ珍しいな」
「まあそんなようなもんだ。この村に知り合いがいるはずなんだが、中に入っても良いか?」
「ああ、好きに探しすといい。余所者はジロジロ見られるかもしれないがな。……ちなみに、知り合いってのは?」
「ズーグって言うんだ。最近ここに帰って来たはずなんだが」
そう言うと、青鱗の竜人の眉がピクリと動いた。
「なるほど! ズーグさんの知り合いか! とするともしかして、今のズーグさんの主人ってのはあんたのことか?」
「……えーっと、そうなるな」
同族を奴隷とする人間族の主人、というのが俺の立場なわけだが。
それを表明しても彼からは嫌悪の感情は感じられなくて少々ほっとする。
その辺り、あまり悪感情があるわけではないようだ。
「それじゃせっかくだ。案内してやるよ」
そんな朗らかな申し出に甘えて、俺はズーグの所までその青鱗の竜人に案内してもらった。
歩いていくうちに目に入る家々は、木の骨組みに藁のような乾いた植物を厚く敷いて屋根にしたものだ。家のそばには大抵物干し竿のようなものがあり、いくつも大きな魚が吊るされている。
何軒かの家の前を通り過ぎ、一つ曲がるとちょうど真っ直ぐ先に一回り大きな家が見える。
「あそこだ」と青鱗の竜人が指をさしたので、あの家がズーグの住処のようだ。
やはり戦闘奴隷となった金で村を救ったズーグは厚遇されているのだろうか。
そんなことを考えているうちに家の前に辿り着く。
「じゃ、俺はここで」
「ありがとう、助かったよ」
青鱗の竜人に別れを告げ、家の木戸をノックする。
中から聞き知った声で「どうぞ」と聞こえたので、俺は扉を開けて家の中へ入った。
その家の中は円形で、一歩程歩くと膝の高さくらいのステージのように土が盛り固められている。湿地地帯は洪水も良く起きると聞くから、恐らく高床になっているのだろう。
その上に腰を下ろして丁寧に槍を磨いているのが、黄鱗の竜人――すなわちズーグだった。
「よう、久しぶりだな、ズーグ」
俺がさっくりと声を掛けると、彼は目を見開いて驚きを露わにする。
迎えに来る段取りとか一切相談しないままだったからな。
さもありなんと言ったところだろう。
あの時はズーグにも何か思うところがあったみたいだし、性急に旅立っていったから仕方ないと言えば仕方ないが。
「旦那……? どうしてここへ……。もしや決戦が近しいのですか」
「いや、うん。そうと言えばそうだけど、決戦に呼び寄せるために来たわけじゃない。まあ今までの経緯もあるし、少し話そう」
俺の言葉に、ズーグは頷いて高床の上に座布団を敷いて促してくれた。
茶も出せずすみませんと言うズーグを制し、俺はそこに腰を下ろしてこれまでのこと、そして現況を語ることにした。
======
ズーグが旅立ったあの後から数か月……いや半年くらいは経過しているのだろうか。
思い返せば、結構色んなことが起こっている。
まずは陛下との面会で、王国が国を挙げて邪神に対抗してくれること、それを王家の言い伝えとして受け継いできたことを知ることができた。
王国を味方につけないと、と意気込んで行って、実は元から味方でしたって分かった時にどれだけホっとしたことか。戦力増強にしても、世間への情報開示にしても、今に至るまでどれほど助けてもらっているか分からない。
その次にあったのは……カステリオンの討伐だな。
悍ましい敵だったし、「欠落」の魔法の異質さは今でも覚えている。
ただそれ以上にカステリオンを倒したことで、俺たちは「覚醒」と言う、魂魄魔法最大の強化魔法の呪文を手に入れられたのだ。これが後々――習得の困難さを含めて、俺の行動に大きく影響してくるとは正直あの時は思わなかった。
その後フェリシアと王、そして王国のお歴々の顔合わせ、つまり御前会議が行われた。
そこで精鋭部隊の選抜と鍛錬、新規魔法の研究、聖騎士叙勲が決まったんだよな。
この時に決まった方針が、各所で微調整されながらも今に至るまで続いている訳だ。
そして、新魔法。
この習得の顛末はちょっと気恥ずかしい部分もあるので、ズーグに語る時はかなり割愛した。
ただ覚悟の中身については、ズーグには聞いておいて欲しいことでもある。
最悪の事態に際しては俺と共に命を懸けて欲しいと伝えると、ズーグからは一も二も無く了承の返事が返って来た。
「当然ではないですか。俺は旦那の隣で戦士として立つべく故郷に戻ったのですから」
「そう言ってもらえると助かる」
奴隷の主人は、奴隷に命令を強制させることができる。
彼の言葉はそんな関係性がまるで無いかのように力強く、なんだか少し嬉しい気持ちになった。
「それで、その新魔法習得に際して敵手の情報が得られたんでしたか」
「ああ、それも話さないとな。ズーグにはその情報をもとに鍛錬を続けてもらうことになる。まだ情報収集は途中だけど、ここに転移できるようにもなったし、ちょくちょく顔を出して伝えに来るよ」
四大悪魔の件は、大悪魔ネザーブラッド以外は目下アトラさんが調査中だ。
詳細が判明次第それを元に戦術が検討されて、それに目途がつけばいよいよ決戦は目前ということになる。
「悪魔どもを想定した訓練もしないといけないから、どっかでズーグに戻ってきてもらうことになるだろうな」
「転移でですか」
「ああ、ズーグがここに戻ってくるつもりならな」
転移酔いのことを思い出したのだろう。
ズーグは少し眉根を寄せて嫌そうにしている。
「そういや訓練なんだが、ここでちょっと魔法の練習をさせてもらいたいんだよ」
「わざわざここで、ですか」
「まあ……ちょっと内緒のな。それに威力も威力だから、フルパワーでドカンと試し撃ちするにしても開けた場所が必要なんだよ」
「なるほど、承知しました。……それより、訓練と言うことであれば私からもひとつ」
俺の大魔法行使の練習を承諾した後、ズーグが言った。
急に表情が険しくなって、何事かと思ったら、
「旦那、一度俺と、戦ってくれませんか」
それは故郷で鍛錬を積んだ、戦士の申し出だった。
強い自負と、一抹の不安を感じさせる声色に、口元がニヤけるのが分かる。
俺も気にはなっていたんだ。
竜魔法を習得すると言って故郷に旅立ったズーグが、今どれほどの強さになっているのか。
「よし、やろう」
今度は俺が一も二も無く、そう返す番だった。
ズーグとの再会っつっても1年未満のことですからね(なお彼が旅立った94部分は2020/2/11掲載……
嗚呼、刻が見える……(すみませんホントに))
よろしければ、ブクマ・評価をお願いいたします。





