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才能の器 ~素敵なスキル横伸ばし生活~  作者: とんび
第一章

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120 精霊魔法



「さて」


 アトラさんたちとクリスの挨拶を見届けた俺は、本日の探索メンバーを見渡した。


 クリスたち三人の他には、彼女の護衛として同行する老戦士のジョゼットさん、最近訓練を手伝ってくれているカトレア、そして俺。合計六人での探索となる。


 カトレアはこれまで、自身の肉体をピークまで戻すために一人で鍛錬を積んできた。

 北方領域で戦闘訓練を行ってきた俺やトビーとは別行動までして、孤独で苛烈な肉体強化をしていたのである。

 そして最近、その肉体強化がおおよその目途が立ったらしい。

 現在の仕上がり具合は八割ほど。実践訓練をしながら、この高いコンディションを維持しつつ彼女的十割の仕上がり――つまり現役並みの肉体を目指していく、という予定らしい。


 ちなみにだが、彼女のスキルもこのコンディション調整により伸びを見せている。



【ステータス画面】

名前:カトレア・ハートランド

年齢:42

性別:女

職業:剣闘士(23)

スキル:農業(1)、片手武器(6)、剣使い(8)、盾使い(5)、体術(3)(SP残0)


 

 片手武器がレベル5から6へ、剣使いがレベル7から8へと成長した。


 正直な感想を言うと驚愕の一言である。

 はっきり言って理不尽な成長だ。

 なんで肉体強化で技能レベルが伸びるんだよ。

 ついでに肌ツヤも良くなって年齢が五歳くらい若返ってるようにも見えるし。


 この謎の成長について色々聞いてみると、どうやらカトレアは単純な体力錬成の他、王国軍の訓練場にかなりお世話になったらしい。

 もともとの彼女の剣は闘技場で叩き上げた自己流のものだ。

 それが王国軍の正式剣術による手ほどきを受けて、才能が開花したようである。


 ……いや、だとしても流石に成長し過ぎだとは思うが。


 まあ、仲間が強くなるのは別に悪いことじゃない。

 それにカトレアが言うには「今のアタシの技量を発揮できるのは、体が今のコンディションの時だけだよ」とのことだ。

 確かに、彼女は年齢的に肉体のピークはすでに過ぎている。

 この決戦に向けた鍛錬ありきの能力であるらしい。


 それでも、こうして王国軍を見渡してもトップ層と遜色ないレベルまで持ってきたのは素晴らしいことだ。

 有言実行、彼女の凄いところである。


「今日は俺とカトレアが揃ってるし、さっくり地下六階までは行こうか。アトラさんたちの強さを確かめるにしても、敵が弱くちゃ意味がないしな」

「そうだね、アタシも良いと思う。クリスは地下五階以降が初めてだけど、大丈夫そうかい?」

「が、頑張りますっ!」


 カトレアがクリスの返答にうんうんと満足そうに頷く。

 まあ敵も強くなるから戦いの時はビックリはするかもしれないが、ビックリ耐性をつけることも重要だしな。


「よし、じゃあ今日の訓練を始めよう。アトラさんたちは先行して各自の判断で戦ってください。俺とカトレアでフォローするので」

「承知いたしました」


 アトラさんたちにも方針を伝え、迷宮探索を開始した。



 ======




 探索を進めて、地下五階。

 ここまでの戦闘ではホランドさんが無双していたという印象が強い。

 

 看破してみると弓術レベル9の他にも片手武器レベル7とかあるからな、この人。

 先手の精密射撃で急所を射抜くのが強力なのはもちろん、敵に寄られても相当にやれるみたいだ。

 しかもレベルには表れていないが、種族特性として射撃に風属性を付与することもできるらしい。弓射の貫通力、衝撃力を増せば、これから相手をすることになる上位の魔物とも余裕で渡り合えるだろう。


 一方で、アトラさんは今のところほぼ出番はない。

 どうやら彼女の精霊魔法は小回りが利くものではないらしく、一度試しに使ってもらったが、確かに戦場となった小部屋丸ごと魔法で薙ぎ払える威力があった。


「ベアアッ!」

「こっちは抑えたよ!」

「承知しました! 請願するコール、一番目におわす火の精霊ファーストエレメント! 灼火躍らせ、最たる閃光、爆ぜて広まれ、フレイム・アヘッド・フラッシュオーバー!」

 

 地下五階で会敵したブルーデビル三体。

 俺とカトレアが前線でやつらを抑えたところに、被せるようにしてアトラさんの精霊魔法が炸裂する。

 

 視界が白く塗りつぶされるほどの閃光、熱、そしてそれらが通り過ぎた後に追いかけるようにして爆音が響いた。


「うへぇ、こりゃ不思議な感覚だねぇ」

「確かにめちゃくちゃ違和感があるな、これ」


 その魔法は、魔法耐性の高いブルーデビルですら黒焦げになるほどの威力があった。

 しかしその威力の真っ只中にいた俺たちに、一切の影響はない。

 これは精霊魔法の特徴の一つ「敵味方の識別」によるものなのである。


 実際のところ、光も熱も感じはするんだが、フィルター越しみたいな感じなんだよな。

 窓の外の暴風雨を眺めている時の感覚に近いというか。

 カトレアも言っているが、かなり不思議な感覚なのである。


「それにしても……流石精霊に直接発動してもらっているだけあって、強力な魔法ですね」

「ええ、精霊様による事象への干渉力は、わたくし達とは比べ物になりませんから。ただ、お願いして発動している関係上、連発はあまり……それに敵味方の識別はわたくしの認識に依存するので、対象の数が多すぎる場合、上手く識別できるかは微妙なところなのですよ」


 苦笑を浮かべながらアトラさんはそう言った。

 なんだかそれで失敗した事例がありそうな、そんなリアクションである。


 確かにこの威力で敵味方の識別に失敗したらまぁ、大惨事ではあるか。

 拘束系の魔法もあるみたいなので、それを使って最大識別数を割り出しておく必要はありそうだ。


「まぁ、とはいえ強力な手札であることは間違いないですね」


 不利状況にぶっ放して態勢を立て直すもよし。

 有利状況で相手が抵抗の一手を打とうとしたところにぶつけて圧し潰すもよし。

 使い道はかなりありそうだ。


「それじゃ、少し休憩を取るか。クリスがちょっとヘバり始めてるみたいだし」


 戦闘後の魔晶石拾いを終え、そう宣言する。

 これまで行軍の訓練を積んできたとは言え、流石にそこは少し前まで箱入りの少女である。

 加えて戦闘も激化して、戦いに参加していないとはいえ精神的な疲労もあるだろうしな。


「み、みなさんいつもこんな戦いをしてらっしゃるんですね……」

「まだまだこんなの序の口だよ。そのうちクリスにも支援魔法を使ってもらうことになるから、その辺も心づもりしておいてくれ」

「承知しています」


 基本的に、クリスの運用は戦闘前の支援役だ。

 要するに「神息ブレス」の使い手としての役割である。

 

 彼女は流石に次期聖女だけあって、魔力量は他の神官と比べてもかなり多い。

 しかし一方で、戦闘への適性としては不安がかなり残る。いや残るというか、不安しかない。

 それゆえ戦闘初期にブレスを使用して後方待機してもらい、後方に下がって来た味方に適宜バフを掛け直すのが良いと、そういう結論になっていた。


 もちろん回復もこなしてもらえるなら、その方が嬉しいんだけどな。

 ただ回復をするとなれば支援より戦闘圏に入らなければならない可能性は高いだろう。

 いくらなんでも、それは最近戦闘に参加するための訓練を始めた少女に課す任務ではない。


 と、そんな風に思っていたのだが、


「あの、回復も……私、やってみたいです。できるようになれるのであれば、なんでもやれないと……」


 彼女からはやる気に満ちた言葉が返ってきた。

 先に話した時に感じた通り、彼女の決戦への覚悟はかなりのものがある。

 とはいえあまり無茶をさせるのも良いものなのか……。


「リョウ様、いかがでしょう。クリス様とわたくしとホランドをひと括りで運用してみては」


 俺が悩んでいると、アトラさんからそんな提案があった。


「先ほどお見せした通り、わたくしの魔法は連射も効かず、使う状況を選びます。であれば護衛を付けて後方待機することが多くなりましょう。護衛にホランドを選んでいただけるのであれば、クリス様の護衛も兼ねることができますし、万が一の時にわたくしの精霊魔法で対処することも可能です」


 アトラさんの言葉を受けて、自分の中でもその運用について考えてみる。

 ホランドさんの実力で後方待機の護衛をするならば、複数人を守る余裕もあるだろう。

 ではクリスが回復のために戦闘圏に侵入するとして、対処できるのか。


「うーん、そうですね……。では考え方を逆にするのはどうでしょうか」

「逆、というと?」

「つまり……クリスが回復魔法を使う時の護衛と支援にホランドさん、アトラさんを配置するのではなく、アトラさんに不利状況打開の魔法を使ってもらう時の回復要員として、クリスを配置するんです」


 クリスの要望があったからアトラさんの提案があったわけだが、なにもわざわざクリス主体の運用を考える必要も無いからな。

 クリスは支援メインで後方待機。アトラさんも不利状況打開&有利状況推進のため後方待機。その前提で、アトラさんが不利状況打開で動く時(すなわちそれは味方が傷ついている時)に、回復要員としてクリスを加えるという運用方法だ。


「もちろんその時はクリス単独じゃなくて他にも神官の人に動いてもらうことになりますし、彼女への負荷も少ないでしょう」

「なるほど、良い案だと思います」


 アトラさんは賛同するように頷いた。


「それじゃあクリス、それでいいな?」

「え? えっと……つまり?」

「クリスにも回復魔法を使ってもらう場面があるってことだよ。走って味方のところまで行って、回復魔法を唱える。それだけだけど、戦いの中に入っていくから、それもこれから訓練だな」

「りょ、了解です」


 俺の言葉を受けて、クリスは両手で杖をぐっと握りしめた。


 その意気やよし。

 いやまあ彼女の場合、意気は最初からあるか。


 ともあれ新たに一つ方針が定まったところで、俺たちは休憩を終え迷宮の先へと進むことにした。


 地下六階……その後地下七階までは進みたいところだ。

 そこまで行った上でバフを制限すれば、今のメンバーでも不利状況になることがあるだろうしな。


 って感じで、自分から不利状況を作る話をしたら、アトラさんにはちょっと引かれてしまった。

 カトレアは「望むところだよ!」と笑っていたし、クリスは青ざめていたが、まあ各々頑張ってもらうとしよう。


 決戦まであとどれだけの時間が残されているのか。

 分からないながら、俺たちは先に進んでいくしかないのだ。

 

MAP兵器の敵味方識別はデメリット(スパロボ脳)

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