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才能の器 ~素敵なスキル横伸ばし生活~  作者: とんび
第一章

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118/122

118  叙勲式と覚醒

ご無沙汰しており申し訳ございません。エンディングに向けて、再び進み始めようと思います。


 覚醒アウェイクン、そして神気憑依ポゼッションの習得が、何故邪神の眷属に関する情報収集に必要なのか。フェリシアからそれについて説明を受けた後、その場はいったん解散となった。


 アトラさんには、その時が来たら改めて協力してもらうことになるだろう。

 

 一方の俺は、相も変わらず魔法習得を最優先でやっていくことになる。

 ただ、これまでとは少し状況が変わるかもしれないという予感はあった。

 なぜならこれらの魔法の習得がもたらすものについて、俺は初めて、いやようやく興味を抱いたからだ。


 もちろん師匠が懸念していたように、その変化が良いことばかりとは限らない。

 ただいずれにせよ、この時の話でやる気のスイッチが入ったのは確かだった。


 そして人間のやる気と言うものは、ひとつの物事があらゆることに波及していくものなのだろう。

 邪神との決戦のために。

 そう信じて邁進するだけだった他の色々なことにも、身が入り始めたという感じがあった。


 例えば叙勲式の礼式の習得は、不思議とこの国、この世界の文化を感じられて非常に有意義な時間と感じられるようになった。次期聖女クリスの修行として行っている迷宮探索も、浅い階層を少ない戦力で進むのは、初心を思い出せて逆に新鮮に感じられた。

 他にも細々としたことに興味が湧き、その心境の変化に自分で驚くばかりである。


 思えば、この世界に来た当初も同じような感じだった気がする。

 文化も、人も、才能の器も。俺は興味の赴くままに調べ、知り、考えて過ごしていたように思う。

 元の世界のことをさておいてよくぞという感じではあるが、まあ自然体だったということだろう。

 俺はその自然体に、アルメリアさんの想い遣りを引き金にして、少し戻れたような気がしたのだ。




  ======




 少し時が経って、俺が聖騎士に任じられる叙勲式の日がやってきた。


 聖騎士はあくまで俺を動き易くし、大義名分を与えるための身分である。そのため俺個人としては叙勲に特段の感動もない。しかし領地をまとめ、国を運営している貴族社会には中々の影響があったようだ。

 

 今俺は、この日のためにあつらえられた式典用のかっちりした礼服に身を包み、玉座の間で王の登場を待っている。

 この式典用の服と言うのは、俺のよく知るスーツの最上級バージョンみたいなやつだ。生地の高級感や肩の装飾、華美なボタンなどが着慣れない。ただ流石完全オーダーメイドということもあって、着心地は中々よろしい。

 

 元の世界でも、友人の結婚式に着ていくちょっとお洒落なスーツが最大値だった俺である。

 この着心地には完全に固定観念を破壊された。

 もっと堅苦しい感じだと思ってたからな。


「フェルナンド陛下の、御成りで御座います」


 声の良く通る玉座の間に、宰相の声が響く。

 玉座の脇の扉を侍従が開き、王がその姿を現した。

 王はゆっくりと歩みを進め、玉座へと腰を下ろす。


 ちなみに、列席者たちは玉座からまっすぐ伸びる赤い絨毯を挟むようにして、玉座を向く形で縦列に立ち並んでいる。

 俺の位置はそれの末席だ。


「まずは陛下からお言葉がございます」


 宰相からの説明に、列席者の何人かが居住まいを正すように身じろぎをする。


「まずは皆、急な呼び出しに応じてくれたこと、大儀である。此度の招集の理由には皆も困惑しているだろうが、それについては式次第を済ませたのち、説明させてもらう。まずは式を見届け、その証人になって欲しい」


 王はそう言って、宰相に手を上げて合図を送る。

 宰相はそれに頷いて、叙勲式の始まりの言葉を告げた。


 長い前口上が述べられていく。

 騎士階級が復活するというくだりで多少のざわめきが起こるが、混乱というほどでもない。

 このあたりは根回しの具合を推し量れるところだろう。

 

 一方俺というただの探索者が、唯神教にも認められた聖騎士に叙勲されるというくだり。

 ここでは最初よりは大きなざわめきが起こったが、ちょっとわざとらしさが感じられた。

 列席者が気を使ったのか根回しかは知らないが、演出というか、いわゆるサクラ的な感じである。


「それではリョウ・サイトウ。前へ」

「はい」


 返事をし、赤い絨毯へと歩き出て玉座の前へとまっすぐ進んでいく。

 列席者はこちらを振り返ったりはしないが、進むにつれ背中に視線が集まっていくのを感じる。


 俺が王の前まで行き、片膝をつくと応じるように王が立ち上がる。


「貴殿、名をリョウ・サイトウと申すものに間違いないか」

「いかにも、御意に存じます」

「その功績、白竜の討伐は玉座にも聞こえるほど。その身に宿す才、神殿の聖女にも讃えられるほど。ゆえにそなたを我が国においてまことに遇すべき者として、聖騎士へと叙勲する」


 俺がこうべを垂れるその上で、宰相から王へと叙勲を証明する御具である、剣と指輪が手渡される。


「いましばらく、近くへ」

「御意に」


 王の言葉に応じて、膝立ちのまま一歩、二歩と距離を詰める。

 頭を垂れたままのその首の後ろ、脊髄の骨の上に剣の腹が当てられる。


「まずはその武威を、剣を以って祝祷する。誓って国に誠を捧げるならば、頭を上げ、指輪を受け取り、その聖なる力への賛辞を受け入れよ」

「承知いたしました」


 ゆっくりと、背骨から後頭部に剣身を添わせるように頭を持ち上げる。

 それに応じるように王が剣身をすっと立ち上げて俺の頭から離し、胸の前で垂直に捧げ持つ。俺もそれに合わせて立ち上がり、捧げ持たれた剣を慎重な動作で受け取った。

 その後受け取った鞘に剣をしまい、左手の中指に精緻な細工と宝石が散りばめられた指輪が嵌められた。


 俺が回れ右をし二歩左へ。王が「これにて聖騎士叙勲は成った。諸君らに承認の意志あれば拍手を」と言って、その場が拍手に包まれる。


 そしてその音が去り、静寂が戻ったのを確認したのち、王は俺の横を過ぎ、少し前へと進み出た。


「それでは、何故聖騎士の叙勲が今まさに行われ、更には騎士階級の復活を決断するに至ったか。それを話していくことにしようか」


 王が建前と真実を織り交ぜた説明を述べていく。


 まず騎士階級を復活させたのは、平和な時代となり、より名誉が重んじられるようになったからだという説明。

 これは建前の方である。実際には御前会議であったように、俺に聖騎士と言う地位を与えるための副産物のようなものだ。とはいえ誰が損するわけでもない制度であるため、列席者たちの反応は静観というところである。


 一方で俺を聖騎士に叙勲した理由。

 これは俺自身の能力や功績に報いるためというのが第一ではあるが、もうひとつ重要な理由が語られた。

 それは正に俺の、そして王家の最終目標でもある「迷宮の踏破」である。

 言葉尻としては単に迷宮の最奥を目指す、というように聞こえただろう。

 だがその意味するところは迷宮最奥に封印された邪神への逆撃、それに他ならない。


 列席者たちの中には真実を知る者も居る。俺は誰がそうなのか教えられてはいたが、顔と名前までは一致しておらず、この時の反応を見て初めてそうだと知ることができた。

 まあ、根回しは完全に王にオマカセしていたからな。相手にとっても俺に対する反応は初見のそれに他ならない。が、ともあれ今の時代は平和と呼んで差し支えないものである。そこに新たに生まれた目標に、真実を知らぬ貴族の意気もにわかに活気づくのを感じた。


「では、続いてその他の対象者について、叙勲を進めて参りましょう」


 興奮冷めやらぬ場をよそに、宰相が冷静に式を進めていく。

 俺は末席に戻って式の続きを見守った。


 呼ばれたのはバーランド師範を始めとした過去に門番を討伐したメンバーである。要は俺が白竜討伐によって叙勲されたのだから、彼らも同様に功績を讃えられるべきである、という理屈だ。

 王は最後にしっかりと「今後も同様に功績に応じて叙勲を行う」と宣言した。列席者たちはきっとその「功績」を立てる方法として、俺の迷宮踏破への協力を連想してくれただろう。ちらちらと俺に向けられる視線が、それを示していたと思う。


 叙勲が終わると、その後別室に通されて懇親会のような集まりに参加することになった。


 夜会と呼ばれたそこでは、俺と色んな人の面通しが行われる予定である。が、俺にとっては正直ハードルの高いイベントなんだよな。

 最近ではもっぱら俺の秘書役をしてくれているイリスさんから出席者リストももらっているのだが、その人数にめまいがしたほどだ。


 覚えられる自信がないと正直に伝えたら「当日はどなたかがエスコートして下さるでしょう。最初に話しかけてくる方がエスコート役なので、その方に任せれば大丈夫ですよ」とのこと。王家はホスト役の位置づけなので、俺を放ったらかしにすることはないらしい。


 おそらくホストは公爵か……あとは王子殿下辺りがしてくれるんだろうな、たぶん。

 そんな風に考えながら、俺は夜会へと臨んだ訳である。


 が、しかし。

 夜会の会場に足を踏み入れた直後、最初に話しかけてきたのは華やかな赤いドレスに身を包んだ、ブロンド髪の、見覚えのあるような無いような少女であった。


「ご無沙汰しております、リョウさま。ご機嫌麗しゅう」


 優雅なカーテシーに面喰らい、「ああ、この世界にもこういう仕草はあるんだなぁ」と若干の現実逃避を間に挟みつつ、その少女にぎこちない挨拶を返す。


「こ、こちらこそご機嫌麗しゅう……ええっと?」

「あら、もしかしてお気づきなられておりませんの? わたくしです、レイチェルです。あなたに治癒を施していただいた」


 そう言いながら、彼女はカーテシーよりももう少しスカートの裾を引き上げ、ほっそりとした綺麗な足首を俺に見せてきた。


「も、申し訳ない。あまりにも麗しいご令嬢で気づきませんでした……。それよりレイチェル嬢、はしたないのであまりそういった真似は……」


 足首や素足を見せるというのは、紳士淑女の世界では割と扇情的な行為として認識されている。

 現代日本人の感覚でも、この世界でも平民の文化的にもそう問題のある行動ではないとはいえ、ここは社交の場である。TPOというやつだな。


「はしたないなんてこと、ありませんわ。リョウ様に癒していただいた足ですもの。誰にはばかるものでもありません」


 そんな風に彼女は言うが、彼女がスカートを引き上げた瞬間に小さなどよめきが起きたのも事実である。

 もちろん俺が癒した、つまり欠損治癒を施した物的証拠という意味でのざわめきも幾分かは含まれているとは思うが。


「それにしても、エスコート役が居るとは聞いておりましたが、もしやレイチェル嬢が?」

「ええ、リョウ様に知遇のある人間としてお父様より大役を仰せつかりまして、本日は微力ながらエスコートをさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」


 恭しくお辞儀をする彼女は、治療をした時の様子とはまるで違うものだった。

 先ほど彼女にTPOの指摘をしておいてなんだが、俺の付け焼刃とは違う、まさしく貴族の立ち振る舞いだった。


 ともかく、多少の困惑は残っているものの、知り合いの、しかも年下の少女の案内であれば夜会の息苦しさは半減である。

 彼女の案内で食事や酒を少し楽しんだあと(俺ひとりでは勝手に酒飲んでいいのかすら分からなかった)、会に参加する要人たちの挨拶ラッシュが始まった。


 そうしてしばらく。

 順々に訪れる人々と雑談を交わし、叙勲の祝福を受けたり、白竜討伐の賛辞を受けたり、なんやかんやと交流を進めていく。


 その中でひとつ、分かったことがある。

 それはレイチェル嬢が俺のエスコート役として配置された理由であった。


 語弊のある表現を使えば、どうやら彼女は「俺よりも侮られる人間」として、そばに居るよう選ばれたようである。


 まあ……理屈としてはある程度は理解はできる。

 貴族にとって、ぽっと出で聖騎士に叙勲された俺はやっかみのマトだろう。何か俺の失点を見つけ出してあげつらい、嘲笑するのを虎視眈々と狙っている人間もいるかもしれない。


 けれど、レイチェル嬢は恐らくそうした貴族たちの矢面に立ってくれた。

 そして必要な時には俺よりも先に不慣れな振る舞いをして、俺のメンツに傷がつかないように気を遣ってくれているようだった。彼女のする貴族的やり取りの内容は難解だったが、それがあまり理解できなくとも俺は彼女のアクションを見て、対応した振る舞いをすればよかった訳である。


 正直に言って、めちゃくちゃ助かった。

 ただ年若い少女ゆえ多少失敗しても笑って済まされる範疇とはいえ、彼女のプライドとかはガン無視のやり方なんだよな……。

 これって彼女自身は納得してやってくれているのだろうか。

 交流が進むにつれかなり申し訳ない気持ちになったし、後で何かお礼をしないといけないな。


 そんなこんなで、レイチェルアシストを受けつつ夜会はつつがなく進んでいく。

 これまで各所に手紙を運んだりした際に顔を合わせたことのある人たちもいるが、ほとんどは初対面の人々である。

 その中で、俺は侯爵クラスの人物たちとも挨拶を交わした。


 侯爵といえば、領爵とも呼ばれ、公爵と共に大領地を任せられる立場の人間だ。大貴族ともいわれ、その領地の中心となる都市の首長でもある。

 各迷宮都市、港湾都市、北方領地群、辺境領群などの長たちということだな。

 彼らの俺に対する好意的感情の度合いはまちまちだったが、北方の定期討伐に関わった人からの好感度はすこぶる高かったと言えるだろう。単純な武功に対してだけではなく、魔物の出没が減って流通コストが下がったとか、物資の売買で儲けたことによる評価らしい。


「欠損治癒もあるだろう。誰に憚ることもない明るい話題だからな。住民感情が上向けば、影響されるものもあると言うことだ」


 そんなふうに言ったのは、後半に挨拶に来てくれた軍のトップ、ルドマン・ローグレン総帥である。


「私は迷宮踏破に戦力をお貸しいただく身ですから。喜んでいただいているなら嬉しい限りです」


 将軍との会話は、自然と声が大きくなる。

 今俺のやっていること、これからやることを口にして、色んな人に「小耳に挟んで」帰ってもらいたいからな。

 この辺は総帥のみならず、他の御前会議のメンバーとの会話も同様だ。

 もちろん、陛下からの許可ももらっている。


「北方戦線での大討伐も、二つの砦が守る領域を残すだけになった……。我が軍はリョウ殿に返しても返しきれない恩ができてしまったということだ。もとより協力は惜しまんつもりではあったが、必要なことがあったらこの私に何でも言ってくだされ」

「ありがとうございます。必要な際には、お力をお貸しいただこうと思います」

「うむ」


 この辺のやり取りも、裏ではもう三回くらいやってるんだよな。

 それでもこうして表……つまり衆目のある夜会で行うことで、俺が軍の精鋭を引き連れて迷宮に挑むことへの反発を抑制することができるというわけだ。


 今回俺が出席した夜会では、こうした示し合わせた演技のやり取り、初対面の挨拶がほとんどだった。

 根回しのような対応が多く、状況が動いた事項は俺が聖騎士に叙任された一点のみと言えるだろう。


 ひとつ、聖騎士叙任以外に状況の変化があったと言えるのは、


「リョウ様、私たちもそろそろ、迷宮攻略部隊の訓練に参加させていただけませんか?」


 そんな、アトラさんからの寝耳に水な申し出であった。



更新は週2回(火、金)を予定しています。

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― 新着の感想 ―
更新再開、感謝感謝です! 毎週の楽しみが増えました。
コミカライズの方から本作を知り、断絶するには惜しい作品だ、と思っておりました。 更新再開とても嬉しいです。
エンディングを読むことは叶わないと半ば諦めていました、うれしいです。
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