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才能の器 ~素敵なスキル横伸ばし生活~  作者: とんび
第一章

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114 新魔法 その二


「そもそも神降ろしコールゴッドという魔法がどういうものか、どう言う効果がある魔法なのか、貴方は具体的に説明できるかしら?」


 フェリシアの説明はそんな言葉から始まった。


 コールゴッドが如何なる魔法か、か……。

 改めて問われると、確かに上手く説明できないな。


 呪文名と既に得られている結果から考えれば『神を降臨させ自身の望む結果を得る魔法』だろうか。だが、フェリシアがあえて聞くと言うことは、それとは異なるということなのだろう。


 俺がその推測を口にすると、彼女はひとつ頷いた。


「貴方の考えの通り、コールゴッドは神様に何かを願い奉るような魔法じゃないわ」

「他にも効果があると?」

「と言うよりは、ある単一の効果を得る過程で、別の結果を導いてしまうことがある、と言った方が正しいわね。要するに、私が行ったコールゴッドで邪神が封印され迷宮が創造されたのは、あくまで副次的な効果だったということよ」

「じゃあ、その単一の効果ってのは何なんだ」


 俺の問いに対し、フェリシアは『抽出エクストラクション』と呟いた。

 いつか迷宮の底でやったのと同じように、手のひらの上に光が灯る。


「それは……虚神うつろがみからエネルギーを取り出す魔法だったか?」

「ええ、そうよ。そしてコールゴッドも、実は原理としては同じものなの。つまり……」

「つまり、コールゴッドはエクストラクションの上位互換の魔法、ってことか」


 答えを引き継いで言葉にすると、首肯が返ってくる。

 どうやらコールゴッドは、エネルギーを虚神から取り出すことを目的とした魔法だったらしい。もちろん数々の逸話を聞くに、ただ上位互換と称するには、あまりにかけ離れた性能をしているようだが。


「なるほど……。まあそこは、事実としてそうなんだろうから、納得するしかないな。けどそれで……どうしてエネルギーを抽出するだけで、迷宮ができたりするんだ? やっぱり虚神の意思が関わっているのか?」

「いいえ。アレは今も昔も、私たちには理解できないものよ。どちらかと言うと、関わってくるのは私たち使い手の意思の方ね。どうも虚神のエネルギーというのは、ある種の精神エネルギーに近いらしくて、エネルギーの大きさに応じて使い手の意思を反映し、半自動的に効果が決まる性質を持つようなのよ」


 そう言いながら、フェリシアは苦笑を浮かべた。

 どうやら虚神のエネルギーにそうした性質がある、ということは分かっていても、その原理までは解明されていないらしい。古代魔法文明期においては、主な研究課題のうちの一つであったようである。


 ちなみにエネルギーが小さいうちは、帰結する効果にそこまで種類は無いらしい。そうした効果を整理し、コントロールしやすい形に収めたものが、現在神聖魔法として扱われているもののようである。


「効果だけを見ると、コールゴッドは夢のような魔法だわ。行使して、それこそ願い奉れば・・・・・、望む結果をもたらしてくれるのだもの。けれど、現実はそう甘くはない」


 大き過ぎる力に、人の肉体が耐えられなかったのである。

 もちろん、古代魔法文明期において、あらゆる研究者がこの術式を研究していたのだ。人の扱える方法で「神降ろし」と呼べる結果を得られる術式を、日夜探し続けていたと言う。

 けれど、それはついぞ開発されることは無かった。

 抽出したエネルギーが人間に耐えられる程度のものであれば、精神感応性は著しく減じ、既存の神聖魔法の域を出ない結果しか得られなかった。多人数で大エネルギーを抽出したならば、雑念が必ず交じり、精神感応性が暴走して幾度も大事故が引き起こされた。


 そうしていつしか、研究者たちはこの魔法に見切りをつけたのだと言う。

 使えば死ぬ。そんな魔法として、術式を封印するようにして。


「そんな魔法を、あんたは使ったんだな」

「そりゃあ、それくらい後がなかったってことよ。それに末期には、力の宝珠と言う、大エネルギーを貯蔵する方法が開発されていたから。それを使ってコールゴッドを行使する方法もね。使い手が少なければ、雑念が混じる危険性も少ないから」


 使い手が少ないと言うことは、取り出した大エネルギーをその少ない使い手で受け止めると言うことだ。結果として、フェリシアは肉体を失い、もう一人の使い手は魂ごと消滅した。


「コールゴッドというのは、そういう魔法なのよ」


 諦念の含まれた、溜息のようなフェリシアの言葉であった。

 しかし彼女はすぐに顔を上げ、「けれど」と続ける。

 

「……数週間前、私は新しい知見を得たわ。それをもとにして、今日までコールゴッドの改良を行ってきたの。もともと貴方に使わせるために行っていた改良とは違う、大幅な改良をね」


 彼女の得た知見。それは神聖魔法の研究家、ヘックス教授よりもたらされたものだ。

 いつかの時もちらっと聞いてはいたが、彼が持ってきた理論は端的に言えば「魂魄魔法によって神聖魔法の適性を底上げする」というものであったらしい。


「考えてみれば簡単なことよね。魂魄魔法は人の魂に関与する魔法。神聖魔法でより大きなエネルギーを扱うためには、魂の器を広げる必要がある。もう、分かるでしょ?」

「そりゃ分かるが……そんな単純なことで簡単に変わるものなのか?」

「私の知っている範囲の魂魄魔法なら、そう上手くはいかなかったでしょうね。けれどつい先日、私たちは最新の魂魄魔法の研究成果を手に入れたじゃない」


 フェリシアに手元の資料を見るように言われ、改めて資料に視線を落とす。

 資料は複数枚にわたっている。いくつかはポゼッションというこの魔法の術式を解説したものだが、紙をめくっていくと別の魔法の術式が姿を現した。


覚醒アウェイクン……」

「そう、貴方がたおしたカステリオンと言う魂魄魔法使いの遺した魔法よ。この魔法の理論を用いた術式によって、単一の人間が扱ったことのないエネルギーを、理論上安全に扱えるようになったわ。もちろん精神感応性を利用するまでにはいかないけど、強大なエネルギーは強大な力そのもの。アルメリアから説明のあった強力過ぎる魔法たちも、これを当てにした消費の大きいものだったでしょう?」


 実際の魔力消費量は扱ってみなければ分からないことだ。だが俺の扱える魔法の規模と比較して推測するに、あの二つの魔法の消費は神息ブレスを下回ることは無いように思えた。

 特に極大魔力破マキシマイズ・エーテルフレアの方は、師匠お手製の「術式変数」「連結術式」が組み込まれている。規模や射出速度に対し自由に魔力を込められる仕様になっているのだ。それゆえ極論を言えば、俺の全魔力を投じることもできる。間違いなく、この神気憑依ポゼッションを当てにした魔法だと言えるだろう。


 と、資料から視線を上げると、師匠が不安げな表情でこちらを見ていることに気が付いた。


「どうかしましたか?」

「うん……その、こうして魔法を君に渡す段になって可笑しいと思うだろうけど……」


 そんな風に言いよどむ。

 言葉にはならないのか、あるいはできないのか。

 とはいえ、彼女の表情や漏れ出た言葉から、言いたいことは何となく理解できた。


「師匠、大丈夫ですよ。確かにヤバそうな魔法ですけど、ちゃんと使いこなして見せますから。それにこの魔法が使えるようになっても、俺は何も変わりませんよ」

「……っ! そうか……そこまで理解しているのなら、私からはもう何も言うまい」


 フェリシアが作った術式ではあるが、コールゴッドを応用した魔法の安全性はどうなのか。そしてそれほどの魔法を扱えるようになることで、俺の精神に影響はないのか。

 俺が予想した懸念は、彼女の反応を見るに凡そ当たっていたと言うことだろう。


 確かにこの神気憑依ポゼッションという魔法は、一人の人間が持つにはあまりに強大な力なのかもしれない。けれど、確実に目的を達成するために、手段を選ぶ気は俺には無かった。


 とはいえ、まあ。


「何も言わないってのはやめてくださいよ? ヤバそうならヤバそうだって何度でも言ってください。師匠のことは信用してますから」


 俺も過ちを犯すただの人間の一人だからな。

 彼女が冷静に懸念を示してくれることで、何か変わるかもしれない。

 それは必要なことだと思うのだ。


「……そうだね。それもまた、君のために強力な魔法を生み出した者の責任だ」


 俺の言葉に、師匠もふわりと笑みを浮かべる。

 ここまで来たなら俺たちは一蓮托生、一緒にやっていく仲間なのだ。

 互いにそれを自覚してやっていかなくてはならないだろう。


「ちょっと、私を無視してイイ感じになるのやめてくれない? そういうのは私が居ないところでやって欲しいんだけど」

「イイ感じって……まあそれより、俺は教えてもらった魔法のどれから手を付けたらいいんだ? 一気には無理なラインナップだろ」


 フェリシアがまぜっかえすのに対して言い返すと、彼女は肩を竦めた。


「そりゃあ、神気憑依ポゼッションからでしょう。それがあっての大消費の魔法だしね。もちろん、前段階としてまずは覚醒アウェイクンが使えないと話にならないのだけど」


 やはりそうなるか。まあどの魔法からになってもさして変わりはないとも言えるが。

 とにかく彼女の言う通り、ポゼッションから習得を進めていくことにしよう。


「そういえば、魔法習得に関してちょっと気になっていたことがあるんだよな」

「なによ、今日教えた以外の魔法については大体外注よ。ここで開発しなければならないわけじゃないしね」

「いや、そうじゃない。もっと前の段階と言うか、魔法を使う理由と言うか……要するに敵の詳細な情報について、教えて欲しいと思ってな」


 俺の問いに、フェリシアは肩を竦めるばかりである。

 どうやらあまり分からないことらしい。


「本気でやるなら必要な情報だろ。お前が知らないのは想定内だけど、どっかに伝承とか残ってないのか?」

「失礼な言い草ね。まあ私が持ってない情報なのは確かだけど。私だってこの千年、色々と情報が集められないか、試してみたことはあるわよ。けどそう都合良く残ってたりはしないものなの。例外があるとすれば……」

「あるとすれば?」


 フェリシアの言に乗せられるようにして続きを促せば、彼女は急に真剣な表情でこう言った。


「アーテリンデを通じて、アカシックレコードからの情報を得るのが、最も近道ってことになるわね」

「アーテリンデさんか……。あんたが知らないってことは、大して情報が得られないってことなんだよな?」

「もちろん。私だって座して一千年も居たわけじゃないわよ。アカシックレコードの情報というのは、精霊である彼女にとっても重要なものらしくって、現世に生きる人間にはおいそれと開示してもらえないみたいなのよね」


 彼女の言葉に「死んでるお前フェリシアも現世扱いか?」と冗談めかして言えば「残念ながらね」と返答があった。

 とにかく、フェリシア経由では敵の詳しい情報は得られていないらしい。

 彼女自身、前回の邪神襲撃の当事者ではあるのだが、研究者であったこともあり、当時どのような敵と戦っていたか、具体的には知らないとのことだ。


「精霊に話を聞くには色々面倒なプロセスがあるのよね……。例えば森の民の秘術とか」


 フェリシアの意味深な目配せに、俺にも思い当たる節があった。

 アトラさんが確か精霊を経由して、アカシックレコードから情報を得ていたのではなかったか。結構危険な行為みたいだが、やり方だけ教えてもらって俺がやるという案もあるだろう。


「とにかく、だ」


 やることがちょっと増えた気もするが、まずは今日教えてもらった新魔法の習得が先決だろう。敵手の詳しい情報収集は同時並行で進めていこう。たぶん、俺は役に立たないだろうしな。


「じゃあ、フェリシア」

「ええ、分かったわ」


 彼女に一言告げて、俺の新魔法習得が幕を開けたのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こう言う新魔法の開発・習得話は楽しいです、魔法の設定が整っているいるので余計にそう感じます。
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