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第992話



 「驚いた………もう効果が消えたのか」




 以前、鉱山で働いていた女たち。


 先日のミッションで敵対した、逸れの冒険者達に襲われ、酷い目に遭っていたところ、冒険者達を皆殺しにして助けたのだ。

 しかし、心の傷は深く、あんな場所ではこのままではケアもままならないと思い、一時的に昏睡させて記憶も封じていたのだ。



 そのはずなのだが、どうやらこの女は自力で魔法を破ったらしい。


 



 「やっぱり、光魔法を使っていたんですね」


 「悪かったな。昏睡の魔法なんて、あまり気分のいいもんじゃねーだろ?」


 「いえ、助かりました。彼女たち、まだああいう経験がなかったので、少なくともまだ心は壊れずに済んでいます。私はまだ耐えられたので、こうやって出歩くことが出来ました」


 「………そか」



 


 まるで他人事のような口調。


 いや、実際他人事なのだろう。

 男に襲われ、陵辱された経験がこいつにはあるという事だ。



 そう、この魔法は、強い精神力があれば破ることが出来る。

 おそらくこの女は、連中の中で唯一自分を保つことが出来ていたのだろう。


 強い女だ。




 「大変だな、アンタも。まぁ無事で何よりだ。言っとくが、礼はいらねーからな。けど、アンタは頑固そうだから貸しって事にしとく」


 「ええ。じゃあそれで」




 と、これでお互いに用は済んだ。

 が、その前に。




 「そういえば、今まで出歩いていたんだよな」


 「?」




 消費時間、2秒。


 加速した思考により、術式を瞬時に書き込む。

 命令された魔力は女を包み、みるみるうちに傷を治した。




 「………!!」





 四級回復魔法・ハイヒール


 先程使ったヒールオールは、単体ではなく集団に効く魔法だ。

 一応、同室の女達にもかけたので、身体の傷はさっぱりだと思う。


 入院するレベルの患者はもうここにはいないし、こいつも外的な損傷はあまりないので、余った魔力で回復出来た。




 「うっし、さっきよか楽だったな」


 「え………あの………」


 「あの洞穴の出口に、アンタらの仲間の遺体は一つも無かった。言いたいこと、わかるか?」


 「ぁ………」




 そう、あの日死んでいったこいつらの仲間の坑夫は、誰1人逃げようとしていなかった。


 傍に武器を持ち、全員残らず立ち向かったのだ。




 「もし、他の連中の魔法が解けて、絶望して、耐えきれなくなったらそれを教えてやれ。ぽっと出がかけただけの安い魔法よりも、ずっと支えになってくれるだろうぜ」


 「………………ありがとうございます」





 思うところは、当然としてあるのだろう。

 傷は一つではない。


 恐怖と共に、喪失も味わったのだから。




 「………じゃあもう行くけど、一つ言っとくな」


 「はい?」


 「“耐えられる” と “痛くない” は違う。だから、大丈夫なんて言ってくれるな。アンタだって、辛いんだからさ」





 何も返事は返ってこない。


 だが、どこかに刺さってはくれた様だ。

 表情が、どことなく柔らかくなっている。




 「俺のことは、諸々内緒で頼む。そんじゃ」




 そう言って、俺はその場を後にした。

















 この後、飲み物をラルド達に届けたのだが、遭遇はしなかった。

 代わりに、寝たきりの女達の見舞いに来たコウヤが、同室ということもあってルビィ達と一緒にいた。


 今日はセイレーンの“カフェ” は休みだったらしいので、大方暇をしていたのだろう。


 少し、先程の女のことが気になるが、多分大丈夫だろう。

 ポカンとした顔の後に見せたあの目。


 あれは、死人の目ではなかった。


















——————————————————————————————




















 一通り用を終えて、病院を出た俺たちは、一先ず近くの飲み屋に立ち寄った。


 少しボロいが、腹の減る匂いにつられてやって来てしまった。

 基本的に常連っぽい奴だけが座っているのを見る限り、いわゆる隠れ家的という奴だろうか。




 「おぉ………………なぁ金髪。こういう隠れた場所にある店入りづらいのわかる?」


 「まぁ、わかんねーでもないけど………」


 「おぉっ!? そうか!?」




 やたらはしゃいでるコウヤ。

 一体何事なのだろうか。




 「おっと、悪ィ悪ィ。いやさ、俺以外のやつはこれがあんまわかんないんだって。んで、ようやく仲間を見つけたわけよ」




 日本にいた頃の記憶の残滓の様なものだろうか。

 そういえば、コウヤはちょくちょく本当に断片だけの記憶を持っている時がある。


 これも多分そうなのだろう。



 きっと、老舗の店に入りにくいっていうのは、こっちの世界のヒトにはない感覚なのだ。


 と言っても、俺の場合は自炊できるから外食の機会があまりなかったというだけの話だ。

 ツレだった琴葉や蓮達も、大体ファミレスやチェーン店が多かったのもあるので、そもそも縁がなかった。




 「てかお前、しゅしょーな奴だったんだな、金髪。お見舞いに来るの早かったし」


 「そうか?」


 「まぁでもわかるぞ。やっぱ心配だしなぁ。女の子達もルビィ達も、酷い目に遭ったわけじゃん。だったらせめて見舞って負担を軽くしてやらないとってわけよ」




 グーっと手に持ったジョッキを一気に飲み干すコウヤ。

 その後手当たり次第凄まじい勢いで食うので、周りからの視線が凄まじかった。


 こんなだが、こいつは頭の片隅でやはり今日見舞った奴のことを考えているのだろう。



 イーボがお人好しというわけだ。

 今日こいつが見舞ったのは、何か目的があったわけではない。

 会って数日の他人を慮って、病院に来たのだ。



 ご丁寧に土産まで持ってきている。





 「よーしもう一杯!」


 「すげぇペースだな」




 ただ、少し変だ。

 どこかヤケになっている様な食い方をしている。

 そしてどうやら、それは合っていたようで、ジョッキを勢いよく置いたコウヤの顔は、少し硬っていた。


 すると、




 「………5日だ、金髪」




 主語もなく、コウヤはそう言った。

 突然だが、ミッション関連だ。


 ここはよく聞いておこう。




 「指名手配される今、どうやってかは知らねーけど、里の中に入り込んでゴーレムを召喚するつもりだ」


 「それが5日後? 根拠は?」


 「ミッションの内容が変わってた。三日月の夜に、作戦決行だ」




 攻略本がソースという事は、ほぼ確定だ。


 


 「なるほど。そりゃ確かに立派な根拠だ。けど、街中での戦闘禁止ルールはどうなるんだよ」




 そう。


 ルール上、一定期間内である今は、街中でプレイヤー同士の戦闘はできない。

 一体どうするのだろうか。



 すると、コウヤはその質問にこう答えた。





 「それに関し言えば、その時になればわかるっつっとこう。ともかく、気にしなくても戦えるよ」




 まぁそう言うのであれば、信頼しよう。

 嘘はつかない筈だ。




 「んで、話戻すけど、どうやって里に忍び込むのか検討がつかない。もう指名手配は始まってるんだぜ?」


 「………」




 それは、先程俺も考えた事だ。


 向こうはあえて情報を与える様に、ラルドを解放し、顔を晒した。

 そして裏があると先程思ったが、そこで俺は一つ仮説を浮かべた。


 ただ、まだそれは根拠になるには不確かすぎる情報だ。

 それでも、小耳に挟む程度の価値はある。




 俺は相談も兼ねて、この仮説をコウヤに打ち明けるのであった。

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