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第990話



 翌日、俺は朝方にさっさと敵の似顔絵を描いて、ギルドに提出した。

 予想通り、かなり時間が空いたので、今はルビィの友人が入院した病院にいる。



 中を少し観察したが、それなりに回復や治療系の魔法に長けたものがいるようで安心した。


 これで気兼ねなく見舞いに来れるというものだ。





 「ここか」





 金があまりなかったので、悪いが大部屋で入院してもらっている。

 幸い患者はあまりいないらしく、ルビィの友人以外では、鉱山にいた女達くらいしかいないらしい。


 用があるので丁度いいが、口には出さないでおく。




 「おーっす。見舞いに来たぞ」


 「ん?………おおっ! 来ただか!」




 ルビィはにこやかに出迎えてくれた。

 弟のルビスも来ており、ベッドの上にいるルビィの友人の傍から手を振っていた。




 「やぁやぁ、よく来てくれただよ。聞いたぞ。ラルドを助ける時に指示を飛ばしてくれたのは旦那だったって。アンタはおら達の恩人だぁよ」


 「良いってことよ………って、旦那?」


 「んだ。これも聞いたべ。ここの女子さ助けたのも旦那だって。しかも、ショックを受けないよう、助けた記憶ごと封じたんだって? これ聞いておら尊敬せずにはいられなくなっただよ。これからは是非旦那って呼ばせてもらうだ」





 物凄い勢いで、目を輝かせてそう言うものだから、つい「お、おう」と返事をしてしまった。

 バラしたのは大方コウヤ辺りか。


 そういえば、ガリウスのやつが舎弟になりたいと言ってきた時もこんなだった。

 迫ってくる感じがどうも被る。

 懐かしい気分だ。



 あいつは今頃学院だが、元気にしているだろうか。




 と言っても、戦争に駆けつけてくれた時に少し顔は合わせたので、然程会っていないわけでもないのだが。




 「?」


 「おっと悪い。ぼーっとしてた。んで、そいつがお前の仲間のカーバンクルか」




 口から胸元まで包帯を巻いたカーバンクルは、笑顔を向けながらぺこりと会釈してきた。


 元気そう………とは言えない。

 傷がかなり深い。


 恐らく、完治できるほどの魔法を使っていないのだろう。




 「んだ。ラルドだ。怪我が酷過ぎて、口がちょっと利け無くなっただ………………白紙化した今じゃあ、直せる技能を持ったやつもいないから、向こう何年かはそのままらしい」


 「チッ………………くだらねぇ真似しやがる。安心しろ。連中は1人残らず息の根を止めてやる」




 もはや生かしておく価値はない。

 交渉の余地もなし。

 しても搾るだけ搾って捨てるだけだ。




 「………そう怖い顔しねぇでけろよ、旦那。怪我はいつか治る。ラルドも、それで納得してるだ」


 「………」




 力なく頷くラルド。


 納得………と、ルビィは言う。

 確かに納得しているだろう。


 する他ないのだから。




 しかし、俺は納得などしない。






 「………くだらねぇ選択肢だ」


 「………………え?」


 「来いルビィ」


 


 ルビィを呼びつけ、ラルドの前に立つ。


 知る力により、状態をサーチ。

 見た様子、確かにこれはかなり精密な魔法を要求される。

 さらにレベルも相当なものだ。



 逆に言えば、出来れば問題ない。




 「お前ら………………そうだな。ルビィもルビスも全魔力の三分の一をよこせ」


 「何を………」


 「信用しろ。俺は “旦那” なんだろ?」




 顔を見合わせるルビィ達。


 ほんの一瞬の迷いは霧散し、決意は固まる。

 2人の返事は、間もなく行動で現れた。




 「!」




 俺の腕を掴み、指定された量の魔力を注ぐ。


 人間の身体に通う魔力量は、個人ごとに限界がある。

 それを超えた時、身体は良い量を超えた魔力に耐えきれず、外へと放出しようとする。


 が、その一方で、ヒトの体というのは臨機応変に対応しようと、入った魔力を取りこむために、要領を無理に広げようとする。

 その時、キャパオーバーした量の魔力が、全身を巡り、凄まじい激痛が走る。



 が、




 「フン………こんなもんか」





 思ったより大したことがない。

 外界にいた頃、膨大な魔力を有していたため、魔力超過キャパオーバーなど初めての経験だったが、意外とあっけなかった。




 「良いか覚えとけ」


 「?」


 「理不尽ってのは、殆どが抗えないどうしようもないモンだ………と思いがちだ」




 魔力を溜め終わり、ラルドの頬に手を置く。

 魔力回路、問題なし。

 超過分のコントロール、正常。


 “黄金に光る” 瞳に狂いはない。



 準備は整った。







 「けど、この世の中、わりと良い加減な奴が奇跡を提げてくる時もあるんだぜ」







 一気に張り詰める病室の空気。

 精密な魔力操作と、一度に放たれた膨大な魔力。

 回復魔法の緑は、これでもかというほどに、強烈な光を放っていた。


 それは、白く塗りつぶされた世界では、稀有となってしまった詠唱魔法の極地、一級魔法。





 「——————ヒールオール」




 「「「!?」」」




 癒しの光がラルドを包む。


 それは、ほんの一瞬。

 悩みも、後悔も、そして傷も、この時ばかりはあらゆる負をひっくるめて、全てを無に帰した。




 「一年だか何年だか知らねーけど、数年が吹き飛んだ感想を聞かせてみろよ、チビ助」





 包帯を解き、傷口の下を露わにする。

 そこには、





 「………あ、え………………声………出る」




 綺麗さっぱり傷が消えた、カーバンクルの姿があった。




 「ラ………るど………」


 「そんな………でも………………!!」


 


 ルビィとルビスは、ゆっくり、ゆっくりと、ラルドのそばに駆け寄り、そっと顔に触れた。

 見るに耐えない傷はもう無い。


 耐え忍ぶ事を強いられる未来も、訪れはしない。




 全ては白紙に戻った。




 「よかった………本当に………………おら、もう………!」





 3人は、ボロボロと泣きながら、これ以上ない笑顔を浮かべて抱き合っていた。




 ああ、良い光景だ。

 折角救った命。


 下を向かれてはかなわない。

 礼などハナから求めていない。


 俺に感謝を伝えている暇が有れば、前を向いて目一杯笑え。




 その方が、ずっと救われる。


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