第96話
「やっぱり、規模のでかい祭りなだけに会場も広いな」
「今回は例年よりバブルの発生する場所が多いのでこうなったそうです。つまりリトルバブルも侵入も例年より多く発生しています」
確かにあれから結構経つが割と狭い間隔でリトルバブルか侵入者の発見をしている。
特に侵入者は多かった。
例年より侵入している冒険者に加え、ヨルデに雇われた奴が多数存在している。
「雇われ連中厄介だな。数が多い」
モンスターと違って加減が必要なのが煩わしい。
全てモンスターだったらサクッと終わるのに。
「はい、このままいくと侵入者の人数が例年よりかなり増えそうです」
メイは大きくため息をついた。
今のところ、あれ以外でモンスタートラップは発生していない。
あれはおそらく本番前の練習だ。
これを仕掛けた魔族は、誤って残してしまったのだろう。
「調査の方は忘れてないか?」
「はい、“現像”もしっかり使っています。これを」
メイはカバンからスキルで生成した写真を取り出した。
色も付いており、細部も写っている。
いいスキルだ。
「やっぱ便利だな。これ」
「そうですね。絵を描く必要はないのは大きいと思います。それにこのスキルなら音もなく犯罪の証拠を作れるので便利です」
まるで使ったことのあるように語るメイ。
探偵でもやっていたのだろうか。
「作業は漸く3分の1終了ってとこか。やれやれ………って言ってるそばから出て来たぞ」
魔力の歪みを感じる。
しかも、
「これは………かなり大きいですね」
「この辺は湖やら森やらが近いからな。魔力はそういう自然の多い場所で多く生成される。そのせいだ」
しかし、それにしても大きい。
かなりの大物が出て来そうだ。
「来るぞ。離れんなよ」
「分かっています」
メイは現像を使う準備をしている。
現れたモンスターの情報の記録も仕事にあるからだ。
「ギィアアアアア!!!!」
それは、大きな咆哮を放ちながら現れた。
トカゲのような顔、強靭な肉体、強固な鱗。
出現したのは、
「ドラゴン!?」
Bランクのモンスター、リトルドラゴンだった。
「おぉ! いいねぇ、こいつならそこそこいけるだろ」
俺は軽く【威圧】を発動し、注目を集めた。
「来い」
「ギャアアアアア!!!!」
リトルドラゴンは全速力で突進して来た。
リトルといえど全長2m半はある。
突進されて正面から受ければそれなりに衝撃を感じる。
「正面から!?」
俺はあえて武器も魔法も使わず、
「フンッ!」
素手で戦うことにした。
「な………!」
メイは驚愕していた。
素手で魔法も使わずモンスターと、それもドラゴンと戦う人間を今まで1人も見たことがなかった。
そもそも武器は、非力な人間が多種族と渡り合うために作ったのが始まりだと言う。
今となってはあらゆる種族が武器を使っているが、戦闘の要であることは変わりない。
だが、
「流石はドラゴンなだけはあるな」
俺は、そんな歴史を凌駕するほどの力を有している。
「ギャアアア!?」
リトルドラゴンは爪を振りかざした。
それを軽く振り払って、腹部に蹴りを入れる。
「………………!!!」
大きく後ろによろけた後、完全に血走った目で、猛攻に出た。
「ギィアアアアアアアアアアアアア!!!!」
爪、尻尾、翼を駆使して、連続で攻撃を仕掛けて来る。
体重を乗せた攻撃はかなりの重さだった。
「ははは!」
手を使い爪を跳ね除けつつ飛び、尻尾を蹴り上げながら翼に乗って攻撃を逸らした。
「だいぶストレス溜まってんなぁ」
明らかにイライラしているドラゴン。
すると、
「!」
リトルドラゴンは大きく息を吸い込んだ。
「ケンくん! ブレスが来ます!」
俺は足を引いて拳を握りしめた。
少し強めに力を込める。
「何を——————」
その瞬間、リトルドラゴンは燃え盛る火炎を吐き出した。
炎はまっすぐ俺へと向かって来る。
そして、
「ッッラァアア!」
炎に向かって拳を突き出した。
炎は外へ外へと広がっていき、見えない衝撃は、ドラゴンの頭へ直撃した。
「え!?」
「グォッッ………!」
見えない攻撃を喰らい混乱するリトルドラゴン。
「やっぱ、ニールのブレスよりはずっと弱ェな」
ここからは一瞬だった。
リトルドラゴンの頭上に飛び。
かかと落としで頭を一撃。
全身を地面に叩きつけた後、蹴り飛ばしてドラゴンは魔石になった。
「ふぅ」
素手で戦うのもたまにはいいな。
「ひ、非常識な………」
「はっはっは、くだらねー常識は俺には通じねーよ」
頭を抱えるメイ。
「あなたはマスターや姉が言ってたよりよっぽど途方も無い方ですね」
「ま、自分が少し変わってることは自覚してるよ。でも、その程度のことだ。世の中いろんな奴がいるって考えりゃ気楽なもんだぜ?」
「そう思っておきます」
メイは苦笑いを浮かべた。
「そんじゃ、森の方へ飛んでったドラゴンの魔石を回収しとくか」
「はい」
近くの森へ飛んで言ったドラゴンはそこで魔石に変わった。
草むらに紛れたが、結構な大きさになるはずなのですぐ見つかるだろう。
俺は森へ近付いた。
それと同時に、
「!」
感知した。
その時メイが森へ入ろうとしていたので、
「魔石は——————」
「待て」
右手で制し、メイを止めた。
ぱっと見何もない。
しかし、
「出てこい。気がつかないと思ったか?」
いる。
誰かがそこの木の裏に隠れている。
スキルや魔法で気配を隠しているが、俺の感知はそんなに甘くない。
「貴様、これに気がつくか………」
現れたのは、
「テメェ………」
「ま、魔族………!」
現れたのは、魔族の男。
隣ではメイが微かに震えていた。
それは恐怖から来るものか、それとも怒りから来るものか。
それは、メイにしかわからなかった。