第95話
「勝手に入るたァ感心しねーガキどもだな」
まあ俺も昔勝手に忍び込んだりして遊んでいたが。
それを聞いたリーダーの子供が、
「お、お前だって子供だろう!」
そう言うと思った。
思ったが、
「論点をすり替えんな。今言ってンのはお前らがここに忍び込んだ事だ」
突き放すようにそう言うと、グッと押し黙った。
年下でも向こうはルールを破っていて、俺がこっちについている以上容赦はしない。
「お前ら、何でここに入ったらダメなのか、わかってやってンのか?」
「………」
「この祭りが街全体で行うものである以上騒ぎは起こせない。もし死人が出ようものなら作業が滞る。今やってるのがただただ迷惑行為だと言うことが分かんねーのか?」
「ッッ………!」
迷惑だとキッパリ言われ、悔しそうに顔を歪める子供冒険者。
「いいか? ルールってのは、秩序を守るためにあンだよ。破られれば混乱が生じる。そのための堤防なんだ。それなのにテメェらときたら………」
俺はギロリと向こうを睨みつけた。
子供達はビクッと体を揺らした。
「おいクソガキども!」
「!」
「いいか? こう言うことはなァ!」
すっかり硬直し怯えている様子。
メイはそれを見かねて、
「ケンくんその辺りで………」
「バレなかったらいいンだよ!」
その瞬間、後頭部を頭を叩かれた。
「何すンだ!?」
「非行を促してどうするんですか! と言うか、どうせ痛くないんでしょう!」
「痛………くは無いけど!」
確かに音の割にはダメージがない。
虚しいぞ。
「いいかガキども! バレなきゃいい。でもバレたらあっさり認めて謝りゃいい! 下手に誤魔化すな! 堂々としろ! そんくらいの覚悟持ってルールは破れ!」
「???」
訳がわからずぽかーんとしている。
「どっちかと言うと俺も規則なんざクソ食らえって思ってる派だ。ただ、なるべく迷惑は掛けないように注意は払え。逆に人助けになるようなルール違反ならいくらでもやっていい」
「この男は………」
頭を抱えるメイ。
しかし俺はスルーした。
「一個聞いとくが、何でここに入った? 理由次第では手荒な真似はしない。一応ガキ相手だからな」
お前もガキだろうと言う視線が後ろから刺さっているのは無視しよう。
「………金がないんだ」
「ふむ、金か。そんで?」
「俺たちはみんな家族が病で動けないんだ。年上の兄弟は働いてるけど、それじゃ生活するのでいっぱいいっぱいなんだ。俺らには魔法が使えたし、そこそこ戦えたから、冒険者になって働こうと思ったけど、親が危ないからダメだって」
「あ? お前ら冒険者じゃないのか?」
「違う」
だんだん読めてきたな。
「だから、仕方なく働ける場所を探していたら、ここで魔石を集めるって言ってる連中がいて雇ってくれたんだ」
「あー、まじかー」
俺は頭を抱えた。
「どうせその連中この中に侵入してんだろ?」
「う、うん」
「お前ら多分魔石だけ巻き上げられてポイされるぞ」
「「えぇ!?」」
驚いたような声を出した。
その手の連中が子供にちゃんと報酬を払うとは到底思えない。
「そいつの名前知ってるか?」
「確か、ヨルデ………だった」
「うーわ………はい出た。まだ懲りてねーんだな」
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祭りの会場内にヨルデはいた。
いつもの取り巻きとさらに数人一緒に行動していた。
「あ、アニキ、魔石です」
取り巻きその1がヨルデに魔石の入った袋を渡した。
しかし、その表情はどこか困惑したような様子だった。
その理由は、
「ぅ……………ぁ…」
何度もうわ言を言っており、とても正気とは思えなかった。
しかし、渡せばちゃんと収めているので、意識はある。
さらに、
「………っと」
「ぇ、え?」
「………もっと持ってこいよォォオオ!!!!!」
はっきりとした言葉も言うので余計困惑する。
取り巻きたちは、恐怖心で言う通りにしていた。
「は、はいいいいい!!!」
慌てて集めに行く取り巻きたち。
雇われた人達も、魔石を集めに行った。
雇われた人間は、皆冒険者ではない。
訳があって辞めた者たちだ。
魔石を売ることができるのは冒険者のみなので、雇われないと彼らは収入を得られないのだ。
ヨルデは冒険者なので、この魔石を売ることができる。
少し安い値で買い取って売れば利益は出る。
大人数雇えば、それもどんどん大きくなる寸法だ。
だが、
「もっと集めろ、もっともっともっとぉおぉ!!」
今の彼にそう言うことが考えられているのかは甚だ疑問だった。
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「メイ」
「はい?」
「こいつら、今回だけは不問にしてやらねーか?」
「?」
メイは少し意外そうな、それであって納得したような顔をした。
「まぁ、いつもは注意だけで済むのでいいでしょう。でも、もう二度と侵入してはいけませんよ」
「………はい」
子供らは俯きながらそう言った。
「1、2、3、4、5………これでいいか」
俺は懐から金貨を取り出した。
カジノで出たオマケの数枚のうちの5枚だ。
「ほらよ」
「うわっ、と」
それぞれに投げて渡した。
「き、金貨だ!」
「それ持って今日は帰れ。それと病気なら俺がどうにかしてやる。家の場所教えな」
「あ、ありがとう!」
子供達は無邪気に喜んだ。
このくらいの年齢ならこういう顔の方が似合っている。
「さて、メイ行くぞ」
「え、あっ、はい」
俺は家の場所を聞いたらそのまま先へ進んだ。
「あのボンボン、そろそろ潰すか………」