第93話
「おい、行けそうだぞ。このまま進もうぜ」
「ああ、案外チョロいな。助かったぜ。今回ばっかりはダメかと思ってたが、やってみるもんだ」
「やっぱこれはやめらんねーからな」
「そうそう、バレてもあのねーちゃんからの注意で済むだろう」
この3人は常習犯だった。
毎年毎年侵入してはメイから注意を受けている。
それなりに儲かるかららしい。
ただ、バックにギルドがいるので注意勧告を受けた時はすんなり出て行く。
「あの美人のねーちゃんが来るまで今回もがっぽり稼ぐぞー!」
実に平和な頭の中身だ。
故に地獄をみる。
登っている最中一人がそれに気がついた。
「あれ? あそこにいるには………げっ! あのねーちゃんもう来てるぞ」
「ヤバイ! 急げ急げ、注意さえ受けなきゃ俺らのモンだ!」
「あれ? もう一人いる」
「構うもんかよ。追いつけやしねー」
急いで侵入する3人。
柵を越え。目の前の森に向かって走る。
「よっしゃ、これで追いつけ——————」
ビュンッ
背後から突然、突風が吹いたような音を聞いた3人。
すぐさま振り向くが何もない。
「何だぁ? 今の」
「あれ? ちょっと待てよ」
誰もいない。
「!」
正面を向いた瞬間、記憶が飛んだ。
覚えているのは影が飛んでいたのと物凄い寒気。
全身が震えるような感覚が全身を支配した。
その時、3人は同じことを思った
来年はやめておこう。
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「まずは3人っと。落としてよかったよな」
俺は侵入者3人を柵に沿って座らせた。
「あ、この人たち今年も入りこんでたんですか。毎年毎年全く………」
「何だ、常習犯か。でも、来年は来ないだろうな」
「何でですか?」
「気絶させる瞬間に威圧を混ぜたからな。少なくともちょっとしたトラウマにはなってるだろうよ」
「なんて物騒な………」
そうか?
ルールを守らない方が悪いだろう。
「知らねーよ。こいつらが勝手するからわりーんだろ。そもそも取り締まるなら徹底的にやらねーと、バンバン増えてくぞ」
「なるほど………でも私注意できても体罰を行うほど戦闘力ありませんし………」
「体罰ってなんだよ。人聞きわりーな。教育だよ教育。そら、拘束したらさっさと行こうぜ」
俺は3人を土魔法を使ってガチガチに固めた。
「これで動けまい。魔法って便利だなー」
「そうですね——————」
その瞬間だった。
目の前に小さな歪みが生じる。
これは、
「伏せろォ!」
「えっ………あ!」
メイは急にも関わらず瞬時に反応した。
急いでしゃがみ、それに合わせて、蹴りを入れる。
リトルバブルだ。
「っラァ!」
出て来たモンスターを蹴っ飛ばした。
現れたのは、パラライズサーペント
サーペントの上位種で麻痺毒の使用が可能。
通常の毒も使えるので当然ポイズンサーペントよりランクは上だ。
「そらっ!」
炎魔法で丸焼きにした。
俺は魔石には目もくれずメイの側で警戒に入った。
「まだ出てくるから気をつけろ。離れんなよ」
「はい!」
左右からリトルバブルが発生。
今度は4つ。
現れたのは中型ゴーレムとグレートボアとオーク。
「Cランクが3体! ケン——————」
「雑魚が」
炎三級魔法【フレイムレイン】
これは、上空から広範囲の炎を降り注がせる魔法。
炎の雨がモンスター達を焼く。
「まだまだァ!」
続いて炎三級魔法【フレア】と【ファイアキャノン】
ファイアキャノンはファイアボールの上位魔法で、物理的な衝撃を足すことが出来る。
炎魔法連射でたちまち大ダメージを負うモンスター達。
「無詠唱で三級の連発………強い………これが、金髪ガーディアン………!」
側で見ていたメイがあのよく分からない異名を言っているうちに4体撃破。
「どんどんこいや!」
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「お疲れ様です」
「久しぶりに魔法あんなに使ったな。三級ならやっぱ斬った方がはえーわ」
日頃は木刀で戦うか素手で戦っているので、魔法中心になることはほとんどなかった。
と言うか今まで一度もない。
「練習以外じゃあれが初だったか。ま、いい感じに魔法の練習になった」
たまには魔法もいっぱい使っておいた方がいいな。
「やっぱり姉さんが言っていた通り強いですね。これならマスターに勝ってても何ら疑問はないです」
「ああ、ダグラスのおっさんか。楽しかったなー。なかなかいないぜ、あれほどのおっさん。1万人に1人くらいの強さなんじゃね?」
「ケンくんはどれくらいなんですか?」
「俺? あー、考えたこともねーな。今まで会った中俺よりつえーやつは………うん、いる」
あれは別格だ。
あれには勝てる気がしない。
少なくとも今は。
「へぇ? 誰ですか? やっぱり三帝ですか?」
「さーな。言っても分かんねーよ」
言っても信じないだろうな。
神サマのことなんてよ。
「あ、そうだ。一応注意しとけよ」
「注意?」
「ああ、さっき気がついたんだが」
ふと気がついた。
何かがおかしい。
何かが違うと。
「あのリトルバブル、普通じゃないぜ?」