第92話
「そういや何でギルドに依頼を出さなかったんだ? そっちの方がさっさと集まるだろ?」
可能性はいくつかある。
まずはなるべく部外者に関わらせないためだ。
知り合いならその辺りの信用ができる。
もし何かあった場合知らない冒険者から情報漏洩があったら大変だ。
が、俺はその可能性は低いと思っている。
それなら俺たちも部外者だからだ。
信頼されていたとしてもそこは変わらない。
次に強さ。
ギルドに出すと誰が来るかわからない。
しかし、俺らのうちニールか俺だったら申し分ない筈だ。
だが、これに関しても可能性は低い。
それなら恐らくマイが見合った人材を連れて来る筈だ。
ということは俺らを指名したのは、
「何となく知り合いだからだと姉は言ってました」
やっぱり適当か。
「でも結果的に良かったと思います。最近1番関わりを持ってるのはケンくんたちですから」
「さいで。つーか、護衛ってそのたむろってる連中叩きのめしたら良いのか?」
迷惑な連中ならボコるのはやぶさかではない。
そういう連中嫌いだし。
「それだけではないです」
「て言うと?」
「リンフィアさんから聞いたのですが、あなたは一度モンスターバブルに遭遇しているとか」
そんなこと話題にしてるのか。
死にかけたってのによく喋れるな、あいつ。
「ああ、あるけど………あ、なるほど」
そうか。
敵は人間だけじゃないな。
「そう、モンスターバブルの前に起きる“リトルバブル”。そこから発生するモンスターから守ってほしいです」
「つまりそこにいる冒険者も」
「はい、そのモンスター狙いの者も少なからずいます」
モンスターバブルでは様々な種類のモンスターが発生する。
中にはレアなやつもいる。
それを狙っている冒険者がいると言うことだ。
そう言うモンスターの魔石はこの辺りでは貴重なので高値で売れることがある。
「なるほどなー。大狩猟祭のモンスターバブルは規模がデカイらしいから、リトルでも危険ってことか。良いねぇ、そっちの方が俺は楽しめそうだ」
「はぁ」
「期間は何日くらいの予定だ?」
「3日です」
一人だとこんなもんか。
「経路とか決まってるのか?」
「はい、一応決まってます」
「紙に書いたりしてるか?」
「はい」
メイは懐から折りたたまれた紙を取り出した。
「貸してみ」
「どうぞ」
移動ルートを一通り目を通す。
なるほど、しっかりしている。
コイツのペースに合わせているのか。
だが、
「リトルバブルって確か、常時出現だったよな」
「ええ、その筈です。それがどうかしたんですか?」
「今回は経路変更だ」
経路を最短経路のものにした。
俺がこいつを運びながら移動すれば、かなりの時短になる。
「これは………」
「心配すんな。その辺は考えてある。お前に負担がかかることは無い」
「そうですか。でもこれならグンと時間が減りますね。うちの宿も忙しくなるので出来るだけ早く終わらせたいと思っていた所なんです」
「だったら良いな。それじゃあ、早速行くか。準備はもう済んでるか?」
俺は立ち上がって身体を伸ばし始める。
「済んでますけど、馬車が来るのは数十分後ですよ? と言うか何故準備運動を?」
「外出ればわかる」
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「ここなら目立たねーだろ」
「あの一体何を………」
俺はゆっくりと近づいた。
なぜか後ろへジリジリと下がっていくメイ。
「何で逃げる? 良いからじっとしてろ。人が来るだろーが」
「ひ、人に見られたらまずい事なんですか!」
何だ?
何と勘違いしてるんだ?
「はぁー………」
軽く地面を蹴って、一気に詰める。
「きゃっ!」
驚いたメイが後ろへ転けそうになった。
丁度いい。
「よっと」
俺はそのまま手を回してメイを持ち上げた。
「え、何を」
「いっきまーす」
ヒュオッ
その直後路地裏でメイの絶叫がこだました。
偶然絶叫を聞いていた人がいたが、その時にはもういなくなっていたので、心霊現象としてしばらく噂された路地裏とはここのことである。
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俺は目的地周辺に到達したので、メイを下ろした。
馬車よりはずっと早い筈だ。
「ふー。な? 馬車より早かったろ?」
「こ、怖かった………説明なしにこんな事をしでかすとは全く非常識な………」
「聞く耳持たなかったのはお前じゃん」
店の裏に来いと言った瞬間嫌な顔をされた。
まぁ、無理矢理だったのは悪いとは思うが。
「そんじゃ、仕事に取り掛かろうぜ」
「全く………あ」
入口前だと言うのにもう人がいた。
侵入しようとしている。
「ははっ、もうか」
結構あからさまだ。
警備兵が足りてないな。
「さて、悪い事をする奴にはお灸を据えてやろう」