第86話
「いやー大漁大漁、ハマっちまいそうだ。ギャンブルってやっぱ中毒性あるなー、特に勝ちまくってると。損する前にそろそろ出るか」
適当に遊んでいたらなんかどんどん増えていって10枚が100枚に増えた。
この調子でどんどん増やしてしまおうと思ったが典型的な失敗パターンだったのでそれはやめておく。
「今回の散歩は順調だ。順調に進んでるぞー」
イカサマディーラーは居たが、2000枚がそれをかき消してくれるのでノーカンだ。
最近散歩をしただけで何かに遭遇しているような気がする。
何もなくて退屈なのは最悪だが、たまには普通にぶらつきたい。
「にしても………」
周りの視線気になる。
流石に当たりすぎたな。
「狙ってんなー。別にどうでも良いけど」
ある程度なら対処出来る。
「次はどこにいこうかな」
俺は金を全てアイテムボックスの中に閉まって外に出た。
すると、
「ん?」
その瞬間、待ち伏せでもして居たかのように、男たちが現れ、正面を塞ぎ、間も無く囲まれた。
「このタイミングでか………やれやれ、ホント退屈しないな」
平穏な散歩はとりあえず終了だ。
俺を囲んだチンピラ連中の中から一人、リーダーらしき人間の声が聞こえた。
「よぉ〜兄ちゃん。げっへっへっへ」
小汚い格好をした男が話しかけてきた。
それなりに強い。
冒険者くずれだ。
「何の用だ」
「見たぜぇ。新入りがいきなり2000枚の大当たりを出したって。おめでとうおめでとう」
パチパチと適当な拍手する男。
いちいち反応が鬱陶しい。
「間怠っこしいなァ。要件を言えよ。丸わかりだけど」
「おーおー、そりゃあ話が早くて助かるぜ」
周りの男たちは武器を持って間合いを詰めてきた。
「というわけで金は全部置いておいけ」
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「ラビちゃん、ご飯ですよー」
一方、宿では悪魔のコールがあった。
「ごはん!」
何も知らないラビがメシだメシだと近寄ってきた。
ニールは所用で少し出ているので、止める人間が居なかったのだ。
「おなかすいたぞ。きょうのごはんはなんだ?」
「今日のご飯はこれだよ」
目の前に召喚されし暗黒物質………ではなく、いつか教えたカレーだった。
しかし、もはや原型は留めておらず、色は絵の具を全て混ぜたような禍々しい色になっている。
それは、当然の如く、不味い。
「???」
ラビは目の前に現れた最終兵器に動揺を禁じ得なかった。
「なんてたべもの?」
「これはね、カレーって言うの」
全国のカレーに謝れ。
「かれー………」
ラビにとっては聞いたことの無い食べ物だった。
未知、故に無意識のうちにこれはそう言うものだと思ってしまう。
この人は食べ物でイタズラをする様な性格では無いはず。
だからこれはきっと、そう言うものなんだ。
と。
そう、イタズラでは無い。
言うならば、運命のいたずらである。
「いただきます」
「?」
この世界ではいただきますと言う習慣はないらしい。
宗教のお祈り以外では皆何も言わずに食べるのが普通だとか。
魔族のリンフィアはそう言ったものには無縁だった。
「けっこう美味しいよ」
リンフィアはなぜか普通に食べることが出来る。
しかし、リンフィアだけだ。
詐欺である。
これに過去何人が騙されたことか。
「たべてる………」
こいつも、いけるんじゃ無いのか? くらいに思ってしまっている。
そうやってじーっと見ているうちにリンフィアは全て完食してしまった。
「ふう、ごちそうさまでした」
「なんだそれ?」
「ケンくんの故郷のルールなんだって。食べる前にいただきます、食べ終わったらごちそうさま。そう言う習慣があるんだって。ケンくん本人は言わないことの方が多いけど、何回か言ってるのを聞いて尋ねて見たらそう言ってたの」
俺は食う前に特に挨拶しないが、手をパンッと叩く習慣がある。
その時に思わず何回か言ってしまったのをリンフィアが聞いたのだ。
「ケンくんの故郷の人たちって結構律儀な性格の人たちなのかもしれないね。宗教の人たちのお祈りと違って義務付けられてるわけでも無いのにみんなやってるらしいよ」
「ふーん」
話は半分は聞いていたが、もう半分はカレー? に意識がいっていた。
「うん? そんなに食べたいの?」
全然違うが、カレー? に意識がいってるのには気がついたらしい。
「じゃあ、ちょっと待ってね」
「え゛」
問答無用でよそいだす。
そして、
「はい、いっぱい食べてね」
「い、いただきます………」
今日、ここに一人新たな被害者が誕生した。
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「じゃあ、今度こそ居酒屋に行くか」
俺の足は居酒屋に向いて居た。
さっきの連中は、首トンで気絶させて、服は剥いでペイントを施している。
そしてこのまま居酒屋へ向かった。
そこで俺は、予期せぬ人物と邂逅する。