第85話
「金貨4000枚、ゲットだゼェええええええ!!!」
ダグラスはご機嫌そうに叫んだ。
4000枚もあれば立派な家が何軒か建つくらいの額だ。
「いいから半分くれ」
「おうおう、約束だからな。持っていけ」
俺は2000枚をアイテムボックスに入れた。
予想をはるかに上回る収入だ。
今後も何かあればカジノでダグラスから金を借りよう。
「そういや、お前さんここに居るのは今度の祭りの主催だからだったか?」
「そうだ。まぁ気まぐれのようなものだ。たまには旧友のために一肌脱いでやろうと思ってな」
何でもやってんな、この人。
案外暇なのかも知れない。
「坊やも出るだろう?」
「ああ、面白そうだからな。あ、そうだ。おっさんは今回本気出すって言ってたな。昔のパーティメンバーを集めるってマイが言ってたぞ」
嬉しそうだったので記憶に残っている。
「ほぅ、珍しいな。ダグラス達のパーティと言えば冒険者ギルドの四柱と呼ばれたほどのものだったのだが、先代のギルドマスターからダグラスがその座を継いだ直後にパーティが解散。以降集まってないが、たまに連絡を取っていると聞いたぞ」
詳しい。
事細かに言った。
「出たよこいつの情報網。解散はともかく集まってなくて連絡を取り合ってるなんて世間に知られてないぞ」
「押さえておくべき人物の情報はできるだけ仕入れておくものさ。ちなみにその枠の中に坊や、君も今し方入ったところだ」
うわー、マジか。
思わず嫌な顔をした。
「一応聞くが、広める趣味は無いよな」
「ああ、今のようなどうでもいい情報以外は絶対に他言しないと誓っている」
「どうでもいいとは何だ、人のプライベート暴きやがって」
これに関しては正論だが、日頃の行いが悪いのでなんとも言えない。
「まあいいや」
別にバレてもどうにでもなるし。
「ん? おっと、時間だ。そろそろ戻る。では坊や、また会おう」
ギルファルドは颯爽と去っていった。
「行ったな。おっさん今のおっさんと同期か? ずいぶん親しげだったけど」
「三帝と俺らは同期だ。だいたい同じような時期に冒険者になった。年齢はてんでバラバラだけどな」
「へー」
同期か。じゃあ俺の同期はあいつらって事になるのか。
「んじゃそろそろ俺も帰るか。早よしねーとマイに金庫からくすねたのが見つかって大目玉だ」
犯罪者め。
「マイに言いつけようか?」
「いやマジでやめろ。ホントマジで、これガチのやつ」
必死さが伝わってくるな。
なるほど、マイのやつギルドマスターを支配下に置いたか。
「冗談だ。俺はもうちょいしたら帰る。じゃあな」
「おう」
と、裸で帰ろうとしていたので、職員に止められて服を買って着ていた。
「ボウズ、悪いが今回の優勝は俺らが貰った。じゃあな」
そう言うと急いでギルドに帰っていった。
ちなみに、マイに金を持っていったことがバレてキレられるのは別の話だ。
「さて、2000枚もあるし、少し遊ぼっかな」
俺は10枚だけ使う事にした。
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「オーナー、何か良いことでもお有りだったのですか?」
長髪の女性、ギルファルドの付き人は笑っているギルファルドにそう尋ねた。
「ああ、面白い男を見つけてね。あの二人ともまた違う、特別な人間のようだ。あの二人に匹敵、いやさらに上の何かがあるとみた」
あの二人とは、三帝の二人、剣天と魔道王のことだ。
「かの三帝と同格ですか。思いつくのは魔王や国王くらいのもですよ。あとは他国の………」
「面白いモノを持っている人間というのは世界にはたくさんいる。君もその一人だがね」
「私などそんな………」
「はっはっは、謙遜するな。私の勘がそう言ってる。セレス、君には何かある」
セレスと呼ばれた女性は少し困ったような顔をした。
「あまりお戯れを申さないで下さい」
「フフフ、私は君のその困った顔も好きだがね。この辺りで勘弁してあげよう。ところで、あの男の処罰はどうなっている?」
「ああ、イカサマ男の事ですね。既に奴隷商とは連絡はついています。迎えがくるでしょう。その時に彼らも連れていってもらうつもりです」
彼ら。
それはこのカジノで問題を起こした罪人達だ。
「相変わらず仕事が早い。そう、秩序は守られなくてはならない。あのようなイカサマは私のカジノには必要ないのだ」
「仰る通りでございます」
このような事はどこでも行われれている。
特に、このカジノのような規模の大きいところでは小さな綻びは見逃しやすい。
だから、早いうちに芽を摘んでおく必要があるのだ。
「では、あとは任せたよセレス」
「はい——————」
光があれば、影もある。
カジノという大きな光の裏には、殺人や隷属などの大きな影ができてしまう。
何事でもそれは言える。
光があれば影は生まれる。
この女性にも。
「——————オーナー」
その口には、人のものとは思えない牙が見えていた。