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第830話


 「………………大事になってきた………というよりは、根っこの深さが見えてきたって感じだな」




 この家、どうやら普通じゃない。

 一体誰が敵で、どこまでが関わっているのか。

 流石にまだ全容は見えない。




 「………………」




 ミレアはやはりショックを受けているらしい。

 こいつも家の内情が複雑で、あまり家族仲はいいとは言えない。

 それでも、親の期待に応えようとしていたのだ。


 それなのに、いざ伝えられた驚愕の事実。

 これが真実であれば、裏切りもいいところ。

 ミレアの心情は、察するに余りある。


 よくよく考えれば、誘拐事件を起こしたかもしれない相手を婚約者に据えたという件もミレーユから聞いていたので、ラークは十分に怪しい。




 だが、まだ父親が何かを企んでいると決めるには早計だと思う。

 班目 隆太………あの野郎、探りを入れてきやがった。


 あれは確認ではない。

 隠し部屋について、俺が知っている情報を引き出そうとしたのだ。

 質問をしている時、グッと前に手を組み直していた。

 あれは、とっさに起こる防衛反応のようなもの。

 隠し事を守るために、思わず手が動いたのだ。


 もし奴が、ラークを裏切っているのだとすれば、ラークがミレアを利用しているという話が嘘である可能性も浮上し、隆太本人もしくは隆太も裏にいる誰かが隠し部屋を利用して何かをしようとしているという仮説もでてくる。


 だが、考えれば考えるほど真実が奥へ行く。

 根深いというのはそういう事だ。

 

 せめて根幹が………俺たちを嵌めようとしている黒幕さえ分かれば。

 





 やはり行き詰まる。

 情報が足りない。

 この家に敵がいるのかいないのかすらわからない。

 もっと、黒幕を絞り込める何かがあれば………

 

 そう思っていると、

 





 「!!」




 

 突然、ミレアのいる方から大きな音が鳴った。

 通信魔法具だ。

 かけてきたのはラーク。


 ミレアはすぐに出て、話を聞いていた。

 すると、




 「………分かりました」




 通信魔法具をこちらに渡してきた。



 「ワイズ。代わってください」



 どうやら俺に用があるらしい。

 ついさっきまでラークの部屋にいたのにわざわざ魔法具を掛けてくるという事は、恐らく何かあったのだろう。



 「かしこまりました」



 俺はミレアから魔法具を代わった。



 『ワイズか?』


 「はい閣下。如何されましたか?」


 『すまない、突然だが一人で執務室まで来てくれ。急を要する』




 声から切迫した様子が伝わる。

 僅かに疲れている感じもした。

 やはり何かがあったのだ。




 「かしこまりました。少々お待ちください。直ぐにお伺いします」


 『ああ、頼む』




 通信が切れたので、俺は魔法具をミレアに返した。




 「悪いミレア。呼ばれちまった」


 「大丈夫です。行ってきてください。きっと、何かあったんだと思いますから」




 ミレアも、父の緊張した声を聞いて状況を察したのだろう。

 いつも通り、気丈に振る舞っている。

 強い女だ。


 だが、




 「エル」


 「はいなのです!」




 影から飛び出たエルは、フワフワと浮かんでミレアの頭の上に乗っかった。

 いつもの定位置は俺の頭の上だが、今はこいつの頭の上に乗せておく。




 「流石に、今のお前を一人には出来ねーよ。存分に甘えろ」


 「!………別に私は………………」




 変なところで意固地なミレア。

 まぁ、弱みなんてそう簡単に見せられるものじゃない。

 そこに信頼云々は関係ない。

 これは単に、気持ちの話だ。



 だから、俺も勝手にこいつを元気付ける。




 「お前、こういう可愛いモン好きなんだから、今のうちに楽しんどけってことだ。じゃあな」





 俺はさっさと部屋を出て行った。












——————————————————————————————













 再びやって来た執務室。

 ラークと爺さん以外誰もいない。

 周囲に人の気配もなく、恐らく盗み聞きもされないようにしているのだろう。

 余程重要な事であると思われる。




 「来たか小僧」


 「ご機嫌麗しゅうございます、大旦那様」




 すごい剣幕の爺さんを見て、内心ギョッとした。

 仏頂面に磨きがかかったように、5割増しで目つきが悪い。

 目つきに関しては人のことは言えないが、人を殺しそうな目をまさに体現している。

 




 「おいラーク。人払いは済んでるな?」


 「ああ。問題ない。メイド達には近づかないように言ってある」



 どうやら本気で人に話を聞かせたくないようだ。

 ならば、



 「僭越ながら、学院で開発された防音の魔法がございます。外部へ音が一切漏れないよう結界を貼ることが可能です。よろしければ使用致しますが、如何されますか?」


 「頼む」


 「かしこまりました」




 防音の結界を張り、完全に音を遮断する。

 これで外に情報が漏れる心配もない。


 気になる部分がないわけではないが、これは()()()()()



 それにしても重い空気だ。

 さっきとはまた種類が異なる。

 苛立ちと怒り、それに殺意も入り混ざっている。

 原因は言うまでもなく爺さんだ。


 



 「悪いが用件だけ手短に話す。いいな」


 「かしこまりました」



 「………………婚約者が、婚約破棄に異議を申し立てて来た。恐らく、近いうちに襲撃されるだろう」


 「!! ………………ならば狙いは………」




 コクリと頷くラーク。

 恐らく考えは一致している。


 そう、ミレアだ。



 「ああ。ミレアが狙いだ。昨日出発したのにここまで早く帰ってこられたのは、馬車を置いて自分の足で帰って来たからだ。奴も流石に追いつけないだろう。今のミレアを保護してくれ」




 「「!!」」





 マズい。

 だとしたら、認識が甘い。

 そう断言できる。


 爺さんも俺と同じ考えらしい。




 「………………閣下。僭越ながら申し上げますと——————」






 突如、凄まじい音と共に周囲の魔力が大きくざわついた。


 恐れていることが起こってしまった。


 そう、ラークの認識は甘かった。

 もとより、ミレアを婚約させた理由は婚約者が妖精界に入る条件を満たしていたから。


 つまり、人間である婚約者は、神威を扱える。






 「マズい………!!」





 俺は急いで部屋を飛び出て、魔力の発生源に向かった。


 その発生源は言うまでもない。





 ミレアの部屋である。

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