第829話
「というわけで、こいつが男が苦手なのが治ったって嘘ついて、あのおっさん騙す為に執事の振りしてる訳だ」
「身も蓋もない言い方をしないでください」
結局、2人には全て喋った。
2人とも呆気に取られながらも、頷いて聞いていた。
「じゃあ、結局お嬢様は男の人が苦手なんですか? ワイズ………ケン、くん? でしたっけ?? この子は?」
「ケン君は平気なの。でも多分唯一だから、克服したとは言えない。けれど、屋敷には男性はいないし、お父様くらいなら騙せると思ったのだけれど………………」
来たら来たでこの大事だ。
実はエルフだった事やミレアの男性恐怖症の元凶、妖精王の候補の件など、新しい情報がどんどん入ってきて複雑な状況になってしまっている。
その上親や爺さんに絡まれるわ監視はつけられるわでもう散々だ。
思い出すとイライラしかねないので、とりあえず尋ねることを尋ねておくことにした。
「で、お前らは何の用があったのか、きっちり教えてもらおうか」
「どうでもいいけどキャラ全然違うんだね」
「ぬぐ………そこ触れんなよ………」
なかなかにガッツリと突っ込んでくるシェリア。
あまりいないタイプ、と言いたいことだが、この世界に来て俺に遠慮のない奴はもう結構出会ってきたので、割とありふれたパターンである。
まぁ、執事キャラについてはそこはあまり触れないで欲しいところではあるが。
「班目。アンタのその顔、どう見ても日本人じゃないんだが、俺たちと違って、転生したという認識でOK?」
コクリと頷く隆太。
そう、この男は日本人というより、純粋なミラトニア人の顔つきであった。
魂の混合を感知したので確認のために聞いてみたが、間違いないだろう。
それに、何より本人が頷いている。
「ああ。俺は18歳の頃、この世界に転生した。5年ほど前の話となる。森の中で彷徨っていた俺は旦那様に拾われ、転生した時から使えるようになったこの力で、監視や隠密を行っていた」
そっと手を差し出し、その上に小さな球を浮かべる隆太。
これが監視の眼というわけだ。
眼球を模したドローンのようなものだと思われる。
すると、眼は突然視界から消えてしまった。
「!!」
思わずニヤリと笑みが浮かぶ。
これはすごい。
こうやって見えないように監視をしていたわけだ。
意思がないせいか、視線や気配は全く感じない。
これは確かにわからない。
俺も知るスキルがなければ、ここからギリギリ空間の揺らぎを感知できる程度。
もうあと僅かに距離をおけばわからなくなってしまうだろう。
ミレアも、この反則に近いスキルを目の当たりにして絶句していた。
と、各々隆太の固有スキルについて色々と思っていると、
「先程訳を聞いたな。俺がここにきた訳は二つ。謝罪と依頼だ」
そういうと、隆太は深く頭を下げた。
「すまない。旦那様の命とはいえ、覗くような真似をしてしまった。どうか許して欲しい」
丁寧に謝られてしまった。
少々気まずいというか、そこに関しては特になんとも思っていないので、反応に困ってしまう。
まぁ、問題はない。
特に俺も気にはしていないのだ。
「構わねぇさ。確かに、男に触れることすら出来ないやつが、こんなどこのどいつかわからん奴と仲がいいのを見て怪しく思わねぇわけがねーしな。謝罪はいい。だから、要件を教えろ。大抵のことなら力になる」
「!!」
ずっと固かった表情に、僅かな綻びが見えた。
小さなため息と共に溢れたのは、ずっと張っていた緊張から解き放たれたことに対する安堵であろうか。
隆太はすぐにキリッとした顔に戻り、咳払いをする。
そして、早速本題に入った。
「ヒジリケン。君は、“隠し部屋”を知っているか?」
隠し部屋。
なるほど、と心の中で思う。
色々と合点が行った。
恐らく、ファリスはそこにいるのだ。
そうだと思う場所に、僅かだが痕跡があった。
爺さんに気づかれている可能性はあるが、まぁ恐らく平気であると思っておく。
「一応、心当たりはある」
「!!」
恐らく、その入り口になるであろう場所は見つけている。
間違ってはいないはずだ。
「場所は知っているか?」
「ああ、ダイニングの隣だ」
「!!………………流石だ。何故気がついたんだ?」
グッと前に手を組む隆太。
もちろん答えは出ている。
とりあえず、ファリスのことは伏せておいて、もう一つの理由を答えておこう。
「………………部屋の間取りだ。チラッと外観を見て気がついた。妙な違和感がある。ぱっと見からは違和感がないのだが、一箇所窓が多い。恐らく、そこが隠し部屋であるか、隠し部屋の入口であるか、そのどっちかだろうな………なんだ?」
ポカンとしている隆太とシェリア。
ミレアはやれやれと呆れた顔をしていた。
こんな顔されるのは久しぶりだな。
流石に意味は察する。
自惚れているつもりはないが、普通はできない事をしている自覚はある。
「………あの、わ………ケンくんも、調べるつもりだったみたいなことだったりする? 」
「残念ながら、間取りを見て違和感を覚えたから偶然発見しただけだ」
「いや、偶然って………………」
確かに、完全な偶然ではない。
違和感というものはある程度頭に入っている。
それを確かめられそうな場所や出来事があれば繋げているだけ。
しかし、違和感を探すということに関して、そこを偶然だと思ってはいない。
僅かな隙でもあれば、俺は見抜ける。
だが、その違和感を明らかにする裏付けに関しては、それこそ偶然見つけないと、求めていないでもなければ見つかる事はない。
ただ、求めているものであればいつでもどうにでもなると、俺は思っている。
さて、ではそろそろ本題に移ってもらおう。
「それで、それがどうしたんだ?」
「………ミレア様の婚約については聞いているな?」
「ああ」
俺が返事をすると、隆太は頷いてシェリアと会話を交代した。
「実は、今回私がリューに頼んでここに来てもらったの。偶然聞いちゃったから………」
何かに耐えきれなくなっているような表情。
するとシェリアは、すぐさまミレアの元に駆け寄り、床に這いつくばって乞うようにこう言った。
「お嬢様。お気を悪くされたらごめんなさい。でも、私………このまま何も知らずにお嬢様が騙されるかもしれないと思うと………」
「騙す………?」
キリッと表情を変えるシェリア。
そして、こんな事を言い始めたのだった。
「お嬢様。旦那様にお気をつけください。今回の婚約………いや、お嬢様を妖精女王にするという話自体、何か裏があるかもしれません」
——————きな臭いと思っていた、今回の一件。
やはり、何か………誰かが裏で動いている。
それを今、ここで確信した。




