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第826話


 「………………来たか」



 扉を開けると、何やら神妙な顔をしたラークが部屋の外を覗きながら立っていた。


 ピリッとした鋭い空気を感じる。

 隣のミレアを見ると、どこか息苦しそうな顔をしていた。


 ただ事ではない。

 どうやら何かがあったらしい。




 「お待たせ致しました、閣下」


 「うむ、掛けなさい」



 返事をし、向こうを向いている隙にミレアに目配せをしてみるが首を振っているあたり、やはり何も聞いていないのだろう。

 一体何事だろうか。




 「ふーっ………………ワイズ。先日伏せると言っておいた件だが、事情が変わった。君に全てを話そう。ミレア、お前にも関わることだ。聞いておきなさい」


 「! ………………………理由お聞きしてもよろしいでしょうか?」



 少し、やりにくそうにするラーク。

 妙な表情だ。

 すると、



 「………すまない。全ては少し誇張した。そこはまだ伏せさせてくれ」


 「………承知いたしました」




 全てって言ったじゃん。

 と、言いたいところだが、とりあえずグッと堪える。



 何かをひた隠しにしようとするラーク。

 後ろめたいことがあるのは間違いないだろう。

 それを感じ取っているのか、ミレアも明らかに怪訝そうな顔をして父を睨みつけていた。


 しかし、当然見向きもせず、ラークは語り始めた。





 「では………君は、妖精王の羽について知っているか?」


 「一応、小耳に挟む程度には存じてはおりますが、そこまで詳しくは………」


 「聞いただけという事か?」


 「ええ」



 ラークはそう呟くと、何やら懐から小さな紙袋を取り出した。


 袋から漂うのは、身知った魔力を纏った何かの気配。

 何故、この男がクルーディオの魔力を持つものを持っているのだろうか。

 



 「これは?」



 包みを広げるラーク。

 現れたのは、七色の光を放つ、薄い皮のようなもの。

 だが、なんとなくわかる。

 これには恐ろしい耐久力と耐魔力がある。

 そこらの物質とは到底格の違う何かであった。



 いっそ鑑定で見てみようかと思ったが、少し試してみることにする。




 「………………!!」




 周囲へ意識を移し、並列して起こした思考により、集中。

 意識をすれば、それは合図となり、あらゆる事象が情報となり、浮かび上がる。


 万物はありとあらゆる情報を持っている。

 イメージは図書館。

 情報は並び立っているのだ。


 それを選び取り、さらに深くまで意識を底へと沈めていく——————そして、






 ——————一部——————欠片——————王——————妖精——————






 情報は重なり、組みあい、そして一つの事実を提示する。





 ………………マジかよ




 組み上がった情報により得たものは驚愕の事実。

 これは、思った以上にすごい代物だ。



 そしてラークは、これの正体を語った。



 「これは、妖精王の羽の一部とされているものだ。散り散りになってしまった羽の、かけらとも言える」



 つまりこれが、クルーディオが失った羽というわけか。

 道理であいつの魔力がしたわけだ。

 まさかこんなことになっているとは思っても見なかったが。




 「これが、我々が妖精界に入った際、とあるものを得るための鍵となるものだ。誰でもいいわけではない。妖精族がこれを持つことで、その者は資格を得られる。以前説明したな。妖精界に入られるのは、妖精………または神威を持つ者だ。実は、この羽を持っていれば、その条件に満たない者も入ることが出来る。そう言った意味でも、この羽は重要なのだ。しかし、我々はそちらの用途でこの羽を使うつもりはない。先程言った通り、とあるものを得るための資格として所有しておくのだ」




 すると、周囲の視線が、一斉にミレアに集まる。

 もちろん、ラークもミレアを見つめていた。


 引き締まった空気が、さらに張り詰める。

 息苦しさの増したこの空間で、聞かされる答え。


 つい、ゴクリと息を飲む。

 隣のミレアからも、緊張が伝わってきた。



 そしてラークは、ミレアを見ながらこう言った。




 「ミレア。私の望みはただ一つ。お前に妖精界へと赴いてもらい、そして、次代の妖精女王としての座を掛けた戦いに臨んでほしいと思っている」



 「よッ………妖精女王………………ですか………!?」




 妖精女王。

 《ティターニア》とも呼ばれる、妖精の母たる存在。

 自然を掌握する、緑の女王。


 その候補に、ミレアが選ばれた。

 しかし、それもおかしな話だ。

 母である女王の座に、殆どが人間であるミレアを候補に立てるとは。




 「この羽は、そのための鍵だ。これをもつ他の所有者から全ての羽を奪うことで、お前は女王となる。婚約者にはその手伝いをしてもらうつもりであったが、お前にはもう必要ない。ふたりとも、やってくれるな」




 今度はこちらへ視線が集まった。

 

 確かに、俺が手伝うのであれば、ミレアをわざわざ嫁にやる必要もないし、執事と認識されている以上裏切りもないと期待しているのだろう。



 だが、やっぱり少し気に食わない。

 今の今まで、こいつは一度もミレアの意見を聞いていないのだ。


 婚約も、その望みとやらも、何もかもだ。

 ミレアになんの相談もなしに話を進めては、してもらうだの必要だのと言っている。

 親だから何をやってもいいということか。

 なるほど。

 その辺りは貴族らしい考え方だ。








 ————————————馬鹿にしやがって。









 「「「っっ……………ッ!?」」」



 これまで部屋中を支配していた空気感を、覆い尽くしてしまう程度に殺気が漏れ出てしまった。


 瞬間、ラーク達に緊張が走る。

 しまったと思うが、こればかりは仕方ない。

 俺は、こういうクソ親父が一番嫌いなのだ。




 「申し訳ございません。つい、取り乱してしまいました。何卒ご容赦を」


 「あ、ああ」



 何も言わないミレア。

 こいつは一体どうするつもりだろうか。


 そう考えている間に、時間は少しずつ過ぎていく。



 すると、






 「お父様」




 ついに、ミレアは沈黙を破る。


 そして、一向に何も聞こうとしない父に向かって、自分から意見を述べたのであった。

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