第825話
「知る力………」
コクリと頷くトモ。
言われてみれば、あれは単なる探知ではなかった。
どこに誰がどんな様子でいるのか、先程はそれがはっきりと読み取れた。
魔力での探知でも、ましてやそれより精度の劣る音魔法での探知のいずれでもない。
さらに上の次元にある力だ。
「これは、この後に使えるようになるであろう能力の、いわば前準備のようなものさ」
「次?」
そういえば、まだこの力はさらに先があるらしい。
しかし、それについて俺は一切知識を持っていない。
だが、
「そうさ。君は一度その身で体験しているはずだよ。その力を。制御が効かず、ずっと封じていたあの力さ」
「!!」
どうやら、知るより先に使っていたらしい。
トモの言う通り、先代と戦った時に使った力だ。
曰く、全知の神の権能。
起こった事象を書き換え、事実をすり替える。
発生した魔法であれば、書き換えによって無条件に削除し、書き換える事で立ち位置を変えることも可能。
生物の情報は直接書き換えられないが、正直言ってしまえば、“なんでも出来る” という反則のような力だ。
しかし、上手く制御できず、書き換える度にその周辺の地形を歪めてしまうという難点がある。
「あの、世界を“書き変える”能力。あれは本来、君が得た能力ではっきりと情報を得た状態で、且つ書き換える為の力を得た状態で初めて正常に作動する。君は二つも工程を飛ばしたわけさ。故に、このタイミングで目覚めた。二度も工程を飛ばしたことで、本来その過程にある力は目覚めざるを無くなったんだね。無茶苦茶だが、実に君らしいよ」
運が良かったわけか。
しかし、悪かったとも言える。
二度のうち一度は、この世界に来る前に修行のためにいたあの空間で使っている。
もし、もう一度あそこで使っていれば、もっと早くこの力に目覚めていたのかもしれない。
そうしておけば——————
「まぁ、その力が有ればウルクちゃんの中にいた先代の存在に気づけたかもね」
「!!」
お見通しだと言わんばかりの顔をしている。
しかし、言い返す余地のないほどに図星であった。
あいつに腹を立てているので、少し気に食わないが、認めざるを得ない。
こいつは、やはり俺のことをよく理解している。
「それは今後活かせばいいじゃない。僕が言えた義理ではないけれど、それで救える人もいると思うよ。その力が有れば、さっきみたいな監視はもちろん、罠の気配や別の魂が入った存在や変装なんかは完全に見抜ける。それと、転生者なんかもね」
「転生者………フィリアみたいな………だよな」
ミラトニアの第四王女。
なんの因果かあいつは、俺の妹の生まれ変わりだ。
しかし、僅かに妹の………愛菜の記憶も持っている。
それに、顔まで瓜二つだ。
恐らく、それは普通ではない。
「んー、あの子の場合は例外だけどね。そもそも、転生というのは、この世界にいる誰かがなんらかの理由で死ぬと同時に、偶然君の居た世界で死んだ人がリンクした際に発生する事故みたいなものさ。その点で言えば、王女もそうなのかもしれないけどね。例外というのは、主人格が君の妹じゃない事くらいさ。通常、向こうからきた人間が両方の記憶を所持した状態で人格も支配するから」
つまり、愛菜として生きていた可能性もあったわけか。
だが、俺は今更それをどうと思うことはない。
あいつはあいつで、俺の仲間なのだから。
もしも二人ともいたら、とは思うけれど。
「ん………もうそろそろか………さて、ケンくん」
俺は呼び声に応じて、そちらを向いた。
多分、間抜けな顔をしていただろう。
何せ、こんな光景を見るのは初めてだったのだ。
トモが謝るところなど、俺は見たことがなかった。
「すまない。君たちには悪いことをしたと思う。でも、僕にも絶対に果たさなければならない事がある。今は言えないけれど、どうか信じて欲しい」
「お前………」
嘘偽りはない。
何故かわかる。
断言できる。
だから、俺はなにも言えなかった。
「もう時間だから、そろそろ行くね」
「っ………待て!! お前にまだ聞きたい事が………!!」
止めようとした。
しかし、止まりそうにない。
俺は伸ばした手をおずおずと引っ込めようとした。
その時、
「ケンくん————————————」
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「!!」
気がつくと、俺は部屋にいた。
数分が経過している。
眠った………という認識でいいのだろうか。
ともかく、意識が移動しただけで時間は普通に経過していたようだ。
しかし、そんなことよりも、俺は最後にトモに言われた一言が気になった。
『次の戦いは、すぐそこまで迫っている。備えろ。次もまた、生き残る為に』
それは偶然か故意か、先ほど俺が “知る力” とやらを得た時に聞いた言葉と全く同じものであった。
「………ん?」
通信魔法具がなっている。
ミレアのものだ。
何かあったのだろうか。
俺は一応、言葉遣いを改めて魔法具を取った。
「如何されましたか、お嬢様?」
『お父様からの伝言です。私と一緒に、すぐにでも部屋へ来るように、と』
どうやら、ラークは屋敷へ帰ってきていたらしい。
ずいぶん早い帰宅だが、何かあったのだろうか。
ともかく、俺はミレアと共にラークの元へ向かうことにした。




