第823話
クルーディオ・フーガ。
魔獣演舞祭より前だったか、同級生に頼まれ、クルーディオから薬を得るという目的でこの男を捜索し、その時に初めて出会った。
若草色の髪をした、やせぎす色白の男。
羽を持つ妖精の種族であるにも関わらず、羽を失ったがために嫌悪の対象となり、妖精界を追放された。
「何故………妖精王ほどの方がこんな場所に………」
確かに、ミレアの言う通り俺も気になっていた。
一応、様々な場所を旅する薬師として活動をしていると聞いてはいた。
だとすると、ロゼルカ家を相手に商売をしているのだろうかと思っていた。
しかし、どうやらそうではないらしい。
「少しわけがあってね。ここに滞在しているんだ。今は薬屋の仕事はお休みさ。あそこ、見えるかい?」
指さした方角に、こじんまりとした安宿があった。
あそこで寝泊まりしているということだ。
「ほとんど外にいるから、値段重視で決めたんだ。まぁ、安宿にしてはいい場所だよ。さて、立ち話もなんだ。色々と聞きたい所だけど………」
「!!」
破裂音。
音にも驚いたが、音源となったであろうものの位置に注目すると、妙なものがあった。
「あれは………」
「監視だね。君たち………付けられていたようだ」
「!!」
魔力は一切感じない。
となると、スキルの類であると察するが、正直スキル程度であれば俺でも探知可能だ。
そうなってくると、答えは相当限られる。
「………固有スキルか?」
「だろうね。私も今の今まで気がつかなかった。やれやれだ。種族の特性に救われたよ」
妖精族は、魔族同様に魔力の扱いに優れた種族だ。
しかし、優れると一言に言っても、その強さのベクトルは大きく違っている。
魔族は、体内に存在する魔力の扱いに長けているのに対して、妖精は周囲の魔力、自然の魔力を扱うのに長けている。
そのため、索敵能力はずば抜けており、魔法の遠隔操作能力も高い。
森など、魔力の多い場所で精霊と戦うような羽目になったら、敵は半永久的に魔力を補給しながら戦うため、相当厄介になる
「気にすることはないよ、ケン君。君は人間にしてはこちらに近い魔力への適応能力を持っているようだから、そのうち気づけるようになるだろう。生徒会長さんも、修行次第ではもっと高みを目指せると思う。まぁ、固有スキルさえ突き破る探索力を持ったら、いよいよ人じゃないけどね」
「! 私もですか!?」
強くなりたいと悩んでいたミレアはその言葉に食い付いていた。
気にしてなくはないが………しかし、助言は素直に受け取っておこう。
これは完全に俺の落ち度だ。
まだまだ修行が足りない。
「それではケン君。私はこの辺で………」
「あ、ちょっと待て。一応言っておくが、今は訳あってワイズと名乗ってンだ。しばらくは人前ではそう呼べよ」
「おっと、そういえばそうだった。すまないね」
ん? と。
俺がそのことに気がついて首を傾げると同時に、クルーディオは『あ』と声を漏らしていた。
そういえばそうだった。
こんな台詞が出るということは、つまるところ、既に知っているということである。
知っている。
俺が執事をやらされていると知っている。
………逃すわけにはいかんな。
クルーディオはそのままの勢いで帰ろうとしたが、そうは問屋が下さない。
俺は首根っこを掴んでクルーディオを引き止めた。
「おいおいおい、誰から聞いたんだ、この間抜け野郎。一体なにをしてやがる?」
「………言わないとダメかい?」
「ダメだろ」
「そうかい………………」
と、その瞬間、
「!?」
シュルシュルと音を立てながら、クルーディオの身体が透けていった。
気配は既に、ここから相当遠くまで離れている。
ギリギリ捕捉できるが、さっきの事もあり、そうそう簡単に本気を出して追いかけることは出来なかった。
恐らくはそれも計算づくであろう。
「あァッ!! テメェこの野郎!! 逃げんな!!」
怒鳴ってみるももう遅く、足元に文字が残されていた。
悪いけど、まだ話せないんだ。
ごめんねー。
と。
「はぁ………まぁいい。特に害意は感じなかったし、そのうち話すだろうよ」
「一体何故知っていたのでしょうか?」
「多分ファリスだろうな。『そう言えばそうだった』つってたから、俺がケンであることを伏せているっていう事情を聞いてたんだろ」
ということは、ファリスが屋敷で何かをしている件にクルーディオが関わっている可能性がある。
そうなってくると、リンフィアたちが気がかりだ。
一体なにをするつもりなのだろうか。
「………少し疲れましたね。帰りますか?」
本当ならばゆっくりしようと思っていたが、ここは帰ったほうがよさそうだ。
監視のことも気になるし、色々と調べる必要がある。
「そうするか」
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『………監視を潰された? そんな馬鹿な。固有スキルは私ですら探知出来なかったんだぞ?』
「………しかし、事実としか言いようがありません」
男は通信魔法具に向かって、悔しげな表情でそう言った。
まさか潰されるなんて思ってもみなかったのだ。
『そうか………まぁいい。いずれにせよ、警戒の必要性が高くなったというだけだ。以降はなるべく監視行動は控えなさい。以上だ』
「はい………」
男は、ギュッと拳を握り、申し訳無さそうに、魔法具の先にいる声の主に謝っていた。
「申し訳………っ、ございませんでした——————ラーク様」




