第822話
「………………いた! あそこだ!」
俺とミレアは煙突の影に隠れて外の様子を伺う。
やはり誰かが魔法を使って暴れていたらしい。
地面が所々焼け焦げ焦げ、削れている部分もあるが、周囲の建物に大きな損傷はない。
問題は、
「………………あの人、それなりに強いですね。衛兵達も出るに出られなくなっているみたいです。Aランク相当………といったところでしょうか」
ミレアの言う通り暴れている男が、およそAランクの冒険者相当の実力者である事。
Aランクといえば、もう一流の冒険者。
衛兵だけで対処するには些か厄介な敵だ。
しかし、
「ああ。だが………相手が悪いな」
「そう………なんでしょうけれど………」
ぱっと見でわかるのは、暴れている男の正面に立つローブの男が今押しているというところのみ。
しかし、ローブの男からはさっきはおろか魔力すら感じなかった。
ミレアが戸惑うのも無理はない。
だが、断言できる。
今でもまだ全然手を抜いている、と。
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「はぁ………はぁ………こッ、この野郎ッ!!! うろちょろ動きやがってェ!!」
到着するや否や聞こえてきたのは、疲れた男が、ギリギリで絞り出した怒鳴り声であった。
遠巻きに見物人たちがわらわらと集まっており、男の周囲は魔法により炎が上がっていた。
しかし、それだけだ。
大きな破壊は未だにない。
そして何より、真正面にいるローブの男は傷一つついておらず、息切れすらしていない様子であった。
「やれやれ………見物人を遠ざけるだけでこれだけ苦労させられるとは………人間の野次馬精神というものにはほとほと困らされる………まぁ、人間だけとはいえないけれどね。ダメだぞ君。君がいかに弱かろうが、その程度の力でも景観というものは損なわれるし、建物くらいであれば壊れてしまう。人に迷惑をかけるものじゃない」
「黙りやがれ!! 」
魔力を充填——————しかし、ローブの男が一歩………いや、数歩先を歩き終えている。
「くたばりやがれぇぇええええええええええ!!」
「やれやれ………」
大きく目を見開く。
情報を吸収。
視るのは敵ではなく魔力の流れ。
大きさ、質を読み取り、位置を逆算。
そして、
「拙いなぁ」
炎の着弾点に、まるで吸い寄せられるように水をぶつける。
またかとイライラと募らせる男。
驚愕はすでに消え、残るのは怒りと焦り。
切れかけの魔力を以って前を見据えるが、どれだけ遠くを見ようと見えるのは闇一色。
勝ち目はどう考えても皆無であった。
「ちッ………くしょ————————————」
最後の最後。
追い詰められた男が最後の抵抗をする前に、ローブの男は背後から水を忍ばせ、顔を覆った。
ぶくぶくと泡を吹きながら、もがき苦しむ男。
そして、
「相応の苦痛だ。今後二度と悪事をしないように祈っておくよ、青年」
「がぼッ、ご………ぼぁ………………」
男はガクリとうなだれ、ついに抵抗をやめた。
一瞬、聞こえていた悲鳴や話し声も止み、地面を焦がす炎の音だけが響き渡った。
「よし、終わりっ!」
男がそう言って炎を消した瞬間、周囲からワッと歓声が上がった。
するとその直後、騒いでいた野次馬達は一斉にローブの男に近づいてくるが、
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「怪しげなローブの男は偶然見かけた顔見知りのところへ飛び込んだとさ」
「っ!?」
突如として現れた男に驚いたミレアは反射的に距離を取った。
男は特に動くことなく、ピューっと口笛を吹いていた。
「へぇ、学院の生徒会長さん、成長したじゃないか。これも君の教育の賜物というべきかな? 少年」
「俺じゃなくて、あいつの努力の賜物だ。俺はただの一要因でしかない」
「ははは、そうか」
俺たちが慣れた様子で会話をしているのを見て、ミレアは混乱している様子であった。
「あの………もしかしてお知り合………い………」
妙なものが、ミレアの頭によぎった。
目の前の男は、確かに知らない男だ。
だが、何故か知っているような、妙な懐かしさを感じた。
それは頭の中で押し入ってくるようで、しかし不快にならない奇妙さがあった。
そして気がつくと、
「………………妖精………王」
「!!」
と、ローブの男の正体を口にしていた。
俺が学院の生徒とピクシーを探している時の話だ。
この男にピクシーを届けた後、妖精であれば自分の正体がバレるから頼んだという話をしていたのを思い出した。
多分、これがそうなのだ。
「へぇ、君は混血なんだね。結構人間の血が濃いときた。それだけ私の正体に気がつくのに時間がかかるのも頷ける」
ローブを脱ぎ、男は改めて俺たちの前に立つ。
相変わらず派手な若草色の頭と色白な肌に整った容姿。
ニコリと浮かべた笑顔は、やはり胡散臭かった。
「私はクルーディオ・フーガ。以前妖精王だった者だ」




