第82話
「んじゃ、俺は久々にぶらぶらしてくるから、先帰ってろ」
ふと、夜の街をぶらつきたくなった。
本当になんとなくだ。
これと言った理由はない。
「わかりました。じゃあ先に帰ります。ケンくんもあまり遅くならないで下さいね」
リンフィアがこう言うのは、就寝時間が遅くなると俺の目覚めが悪いからだ。
起こすのが大変らしい。
「わーったよ。ラビはなるべく早めに他の奴も召喚できるようにしとけよ」
「わかった!」
ラビは張り切った様子でそう言った。
後1、2体は召喚できるようになるだろう。
「お前は………特に無いよな」
「ああ、無いな」
ニールはいつも通りだ。
「いや、やっぱ頼みがある」
おっと、今回はそうでもないか?
「何だ?」
「帰りに西地区でこれ買ってこい」
メモを渡された。
西地区にあるスイーツ店のケーキだ。
しかも命令形である。
「しゃーねーな」
「リンフィア様とラビの分もだぞ」
「注文が多いな!!」
ちくしょう、この俺をパシリに使うとは………
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そんなこんなで散歩を開始したわけだ。
「あー、そうだ。ちゃんとした酒場とか行った事なかったな。まずはそこでいいか」
宿にも酒場は付いているが、オマケみたいな感じだ。
それにあそこにはメイがいる。
あいつと来たら、
「いけませんよ。ケンくんはまだ未成年なのでお酒を出すことは出来ません」
「何でだよ。ちょっとくらい良いだろうが」
ここには日本のように酒に関する明確な法律はない。
見つかっても捕まらないし、店によっては年齢一桁の子供にも出す。
しかし、
「うちは出さないよう徹底しております。何よりも体に悪いですから」
出たよクソ真面目。
こいつら姉妹は何故にこんなに真面目なんだ。
うちの委員長ももうちょっとソフトだぞ。
俺の金髪を許すくらいには。
「クソっ、ケチ」
「何と言っても出す気はございません」
「ぐぬぬぬ………」
頑なだった。
「睨んでもダメなもんはダメです」
「クッソー、今思い出しても腹たつわー。その辺の大人よりよっぽど飲めるっつーの」
向こうにいた頃は、タバコは吸わなかったが、たまに酒は飲んでいた。
俺はなぜか全然酔わないので、テキーラとかウォッカとかでも余裕で飲んでいた。
たまに居酒屋で飲み勝負で金を稼いだことも少々。
良い子は真似しないように。
「んー、いつもながら行くあてがない。まあそれが良いんだが………」
俺はポケットの中に手を入れた。
アイテムボックスがあるが、一応バッグやポケットは使っている。
毎回毎回魔法を使うのも面倒だからだ。
ポケットの中にはアイツらのケーキ分の金しかない。
「でも、金が無いんだよなぁ。どっかでいい感じにすぐに稼げるところは………あ、そういえば」
確か、西地区に賭けができる場所があると、ダグラスから聞いた事がある。
「西地区か。確かニールに頼まれたのもそこだったな。飛んでくか」
俺は屋根の上に登った。
もうすっかりお決まりの移動方法だ。
何故かって?
早いからだ。
「西地区西地区………あっちだな」
ピョンピョン屋根を渡って行く。
一方下では人が大量に歩いていた。
「普通はチャリとか漕いで行く距離なのになー。身体能力が高いってのも便利なもんだ」
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「えーっと………あった。ここだな」
ダグラスから勧められた場所は地下にあった。
薄暗い階段を降りて行くと、突き当たりに扉があった。
「地下か。なーんかそれっぽいな。入ってみるか」
俺はドアノブに手をかけようとした。
すると、
「!」
人の気配。
少し後ろに下がる。
「ちくしょおおおおおお!!!」
中年のおっさんが泣きながら出て行った。
よくみると、何も着ていない。
生まれたままの姿だ。
誰が喜ぶんだ。
おっさんはバタバタと音を立てながらそのまま消えた。
「何だあのおっさん」
俺は扉を開けた。
そこには何と、
「うおおお………! マジか!」
なかなか広いカジノがあった。
「こんなところにカジノが………」
さっき出て行ったおっさんはきっと負けまくって身包み剥がされたのだろう。
何と哀れな。
「カジノなんて初めて見たなぁ。日本にはまだ無いもんな」
日本にカジノができるとかできないとか聞くには聞くが、ニュースは見ないのでその辺りはよく知らない。
「せっかくだし遊びたいけども………」
手元には銀貨2枚。
これじゃ遊ばせてくれないだろう。
そもそもこれで勝ってもショボすぎる。
「腕相撲とかあれば良いんだけどなぁ」
俺がウロウロしていると、
「ん?」
「こいこいこいこいィィィ!!!」
聞き覚えのある声がする。
何だ何だと見てみると、
「うわぁ………」
身包み剥がされたダグラスがいた。
おい、ギルドマスター。
「おっさん………」
「おお! ボウズ! よく来たな!」
「おっさんそんなぼろ負けでよくそんな陽気でいられるな」
「はっはっは。金ならある。ギルドのな」
「アンタ、クソ野郎だな!!!」
これ日本じゃ捕まってるぞ。
ダグラスがやっていたのはポーカーだった。
ちょいちょい向こうのゲームも存在する。
「ポーカーか………」
「ボウズもやるか? このにーちゃん強ぇーぞ」
目の前の男は明らかな営業スマイルで俺に微笑みかけた。
少し、ピンとくるものがあった。