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第814話


 「ちょっ、ちょっと待て!! 一体どうなってるんだ? お前、妖精族だったのか!?」




 頭を抱えながらファリスはそう尋ねた。

 もはや隠すつもりのないラークは、素直に頷いている。

 謎は増えたが、一つの謎は解決した。

 やはりあれは妖精のものだったのだ。




 「正確には、僅かでも人間の血が混ざった我々はその混血なのだ。種族としては、一応エルフという事になる」




 エルフ。

 魔法に長け、自然を司る森の狩人。

 魔法的な技術が相当に高く、基本的に素養の高い者が多く生まれる傾向にある。




 「まぁ、それはわかった。だが、問題は爺さんの話だ。耳なんて私は見た覚えはないぞ? 確かにあの爺さんは人間の筈だ。少なくとも私はそう思っていた。というか、お前とミレアはどうなんだ? なぁ、ワイズ」


 「少なくとも、私が見る限りでは確認できませんでした」


 「ミレアもか? 耳見えてないけど」



 確かに、長めの横髪と縦ロールで耳は隠れているが、耳は間違いなく人間の耳だ。

 学院時代、何度か縦ロールのセットを手伝った時に確認済みである。




 「ない事は間違いありません。髪のセットの際、耳が尖っていれば間違い無く気付いて——————」




 ドンッ!!! と、激しく扉が開いたと思ったら、そこに見覚えのある老人が目走った目で俺を睨みつけていた。

 そして、俺とミレアの顔を交互に見て、少し恥ずかしそうにしているミレアの顔を見た途端更に爆発した。




 「貴様ァ………!! よくも嫁入り前の可愛い孫の髪をぉぉぉぉおお!!!」




 エルフの爺さんは、再び現場にやってきた。

 やはりエルフ耳であることを確認すると、俺とラビは静かに頷いた。

 すると、そうしている間に今にも襲って来そうだったのだが、ラークはパチンと指を鳴らし、




 「二人とも、連行しなさい」




 と、隠れていた二人に命令をして爺さんを外へ引きずらせようとする。

 その瞬間、爺さんは慌てて捕縛しようとする二人を諫めた。




 「だーっ!! 待て待て! 話くらいさせろ!! その小僧に用があるんだ」


 「ケンカの用だろう? 帰れ、土に」


 「死ねってか!? ふざけんな馬鹿ヤロー! もう少しジジィを労われよ!?」




 何というか、若いなこの爺さん。

 正直にそう思った。

 年齢の割に、なんていう概念でもない。

 年相応の “らしい振る舞い” なんてものを持つには、あまりに年齢が異次元なのだ。


 

 実は、エルフの老体と言うのは相当珍しい。

 こいつらは自然の番人なだけあって、その自然を長期間守ると言う役割の為に寿命が馬鹿みたいに長い。


 そして、老体になるのは本当に長生きしなければダメなのだ。

 この爺さんは、それ程までに長い時間を生きている。

 それだけでも、この爺さんは驚嘆に値する。




 「ファリス。二人の耳がない理由を教えてやろう。ミレアちゃんとラークはエルフの血が薄いから、肉体面では人間の方が強く出ておるんだ」


 「そうなのか?」


 「ああともさ。オレの時点で既にハーフエルフなんだ。ラークやミレアちゃんは更に薄くなる。だから身体的特徴は失われちまう。だが、エルフは種族として、人より優秀な部分が多い。魔法に関する素養は、エルフの血を少しでも引いている場合は皆平等に才能は開花する。個人差はあるがな。さて小僧」




 こちらを向いた爺さんはゆっくりと近づいて来た。

 圧迫感を感じる。

 鋒を向けられるような感じだ。


 しかし、前からではない。

 どこかで、俺を狙っている。

 妙な気配は、確実にそこにあった。






 故に——————少し、集中する。







 「お前はエルフじゃねぇ。ならば、神威が使えるという事だ。だったら——————」


 「後ろに仕掛けたこれを感じ取れるか、でしょうか?」


 「!!」





 殺気——————


 

 刺すような圧迫感は、風を裂きながら、刹那のうちに背後へと迫る。

 だが、




 「………………!! ………小僧テメェ、何モンよ?」





 この程度、どうという事はない。

 指で掴んだナイフの刃先を持って柄を爺さんに向ける。

 何者、と問われたか。

 馬鹿正直に答えるつもりはない。

 故に、




 「ご覧の通り、一介の執事でございます」


 「チッ………まぁいい。この様子なら任せても良さそうだ。なぁ、ラーク」



 爺さんはそう言って、ミレアを何度も呼びながら部屋を出て行った。



 「全く、騒がしい爺さんだ。それで、色々と聞かせてもらおうか」



 足を組み直し、前屈みになってグイッと身を乗り出すファリス。

 何が何でも聞き出すつもりだ。



 「こっちは何が何だかさっぱりだ。男嫌いを克服したか確かめる為に呼んだと思ったら、実はエルフだっただの、ワイズがその………神威を使えるからどうしただの、ミレアを預かるだの、任せるだの、全部説明して貰わんと、帰るに帰れんよ」



 

 確かに。

 色々と情報が交錯する中で、未だ連中の本当の目的は一言も告げられいない。

 そもそも、話すつもりはあるのだろうか。


 そう思っていたが、ラークは突然、どこか意を決したような表情を見せた。


 そして、






 「………ではまず、今になって男嫌いを直そうと引き戻した理由だが、それは——————」






 「——————」







 目を見開くミレア。

 それはミレアにとって、あまりにも残酷なものであった。

 





 「我々は、ミレアをとある人物の元へ、嫁がせようと考えていた」


 「「「!!!」」」




 さーっと、血の気が引くミレア。

 男とまともに会話をすることも出来ないミレアが、結婚なんてできるわけがない。

 現に、話を聞いただけでこのザマだ。

 しかし、




 「いた、というのは?」



 「その必要が無くなったんだ。そもそも嫁がせようと思った理由は、その人物が神威を持った人物であり、祖国へ入る資格のある者だと踏んだからだ」


 「なっ………………!?」




 驚愕の表情を見せるファリス。

 何も知らないで聞くと、話の内容が入ってこないと思う。

 だが、今ラークが言った言葉の中には、聞き捨てならない事実が含まれていたのだ。




 「祖国へ入る………………だと!? こちらから妖精界へ行けるというのか!?」





 そう、実は妖精界というのは、入りたくて入れるものではない。

 いや、それどころか、入る方法はないとこちらではされている。


 出る方法はあっても、入ることは出来ないのだ。

 それが例え、妖精であったとしても。




 「父の話によれば、そのために必要なのが神威だという。だから父は、特殊なアイテムで耳を隠し、妖精以外でエルフだと気づいた者がいるか、各地を歩き回って試した」



 その特殊なアイテムというのが、神威を持っている者以外の者から耳を隠すアイテムだったのだろう。

 だから俺には見えた訳だ。



 「が、たった一人しか現れず、その男がミレアを要求したのだ。父はギリギリまで女………または無条件で協力を得られる男を探し続けたが、もう見つからないと私は考え、受け入れようと決めていた。だが、偶然にも見つかった!」



 バッと顔を上げ、俺の方を見るラーク。

 娘を犠牲にした割に、希望に満ちた顔だ。

 だが、まだ表には出すまいと、無表情を貫いた。




 「ワイズ、君ならば娘を嫁がせずとも、願いを叶えることができるかもしれない。 だからどうか、しばらくここへ居てはくれないだろうか? まだ話せぬ事もある。しかし、いずれは必ず全てを話そう。どうか、我々を救って欲しい」





 公爵ほどの位を持った男が、たかが一執事如きに頭を下げるという前代未聞の出来事。

 素直にそこには驚いた。


 正直言って、俺はこの男にもうあまりいい印象はない。


 だが、曲がりなりにも仲間の肉親。

 それに何より、ミレアの自由がかかっている。

 ならば、




 「………………」





 「主人に、望まぬ結婚をさせるわけにはいきません。分かりました。私で良ければ、承りましょう」





 少なくとも、一月以上の執事生活が確定した瞬間であった。

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