第812話
早速厄介そうなジジィに絡まれてしまった。
この様子だと、実力もかなりのものだ。
漏れ出る魔力量だけでいえば、ファリスに匹敵する。
しかも、コントロールもちゃんと出来ている。
つまり、この国でも指折りの魔法使いである。
「おお。久しいな、爺さん」
一応公爵なのだが、フランクに接するファリス。
よく考えれば、三帝の地位は独立しているので、別に敬う必要はないのだ。
「ファリスか。お前が直々にやって来るとは珍しい。大方仕事をサボっておるのだろうがな」
バレてんじゃねーか。
「まぁな。だが、一応用はある。それと注意はしておくが、いくら娘を溺愛しているとしても、殺そうなんて思うなよ」
笑いながら俺の肩に手を置くファリス。
すると、一度他所へ向いた殺気が、再びこちらを向いた。
厄介なジジィとオバさんだ。
だが、
「フン、それくらい弁えている」
殺気は、突然消えてなくなった。
どこか気に食わないような、けれど仕方なさげなような、微妙な表情。
試されていたのだろう。
こう言う奴は時々いる。
いるのだが、そうやって試された身としては、あまりいい気はしない。
そしてミレアも、少しばかり不機嫌そうであった。
「ハァ………………お爺さま、あまり私の執事を………」
庇ってくれるのか。
と、ミレアに感心していたのだが、その直後、
「ふぐぅお!!」
「!?」
シワ塗れのジジィの顔が、更にしわくちゃになった。
和紙だ、和紙。
ドバーッと泣きながら、厳つかった顔がなんとも情けない顔になる。
「ミレアちゃんッッ!! おじいちゃまではなく、そんな小僧を庇っちゃうのか!? 目を覚ましなさいっ!! 顔がいい男は皆狼だと教えたでしょう!?」
「ちょっ………!? お爺さま!?」
ミレアは顔を真っ赤にしながら慌てて祖父を抑えようとした。
凄まじい溺愛っぷり。
ぶっちゃけ想像以上。
そういえばミレアにイケメンは狼だと教えていたと、合宿の時聞いた気がする。
マジだったのか。
そして本気なのか。
「ミレアちゃん!! ミレアちゃあああああん!!」
爺さんは召使いと執事に腕をホールドされて屋敷へと強制送還されたのであった。
突然現れては暴れまわっていつの間にか去っていく。
台風のような爺さんだった。
ミレアはそれを見送ると、一つ咳払いをして振り返る。
まだ若干頬が赤かったが、何とか通常運転になっていた。
「お騒がせしました。いつもの事なので気にしないで下さい。それではこちらです」
そう言って、ミレアは足早に屋敷へと向かうのであった。
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ここで一旦、ファリスやリンフィア達と別れる事となる。
俺は一応執事として屋敷に来たため、間取りだったり基本的なルールだったりの説明を、案内とともに受けて一旦解放された。
そして今、屋敷にあるミレアの部屋で、一応ティータイムとなっている。
「ハァッ!! しんどい!!」
音魔法の結界を張って、俺は本音をぶちまけた。
「結構キてますね。大丈夫ですか?」
「ははは、何をおっしゃるかお嬢様。これで大丈夫に見えるのであればお前にはSの才能がある」
「大丈夫じゃないんですね」
当然だ。
プライドがズタズタどころではない。
粉微塵だ。
「でも、潜入と言う意味では成功したんじゃないですか?」
「まぁな」
紅茶と茶菓子を用意するとき、興味ありありな様子で使用人たちも見ていた。
一応余分に作って渡したら、どうやら餌付けが出来たと思われる。
「ふふふ、あれだけこう言う仕事が嫌いと言っていた割に、その手の能力値は誰より高いんですから、皮肉なものですね」
「全くだな。おかわりいるか?」
「いえ、もう大丈夫です」
「さいで」
俺は音魔法の結界を解除し、後片付けを始めた。
「それでは」
空になった容器を持って外に出ようとドアノブに手を掛けた。
「………」
人の気配をはっきりと感じる。
ここまで近づいても向こうは気がついていないらしい。
やはり結界を張っていてよかった。
堂々というか下手くそというか、ともかくバレバレであった。
「………」
そして扉を開こうとすると、奥からガチャガチャと食器が鳴る音が聞こえた。
そのまま外に出ると、ガチガチになって歩くメイドの姿があった。
見覚えのある後ろ姿。
どうやら盗み聞きをしていたのはシェリアのようだ。
こちらの視線に気づいているのか、チラチラと後ろを向いている。
バレバレだ。
なので、
「シェリア殿」
「っ!?」
ピンと背筋を伸ばすシェリア。
警戒………というよりは緊張だろうか。
何にせよちょうどいい機会だ。
使用人のうち誰かとコミュニケーションを取る必要はあった。
「ご一緒しても?」
「あ………うっ、うん!」
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屋敷は相当広い。
だから食器を運ぶだけでも、そこそこ時間がある。
行って帰ってとなると、更にだ。
それ故に、
「それでお嬢様が………」
めっちゃ打ち解けた。
こいつ超喋る。
確かに色々と言葉巧みに間合いに入った手応えはあるが、こうもあっさりとは。
少し心配だ。
「シェリア殿はお嬢様をお慕いしているんですね」
「そうなのっ!! お嬢様が幼い頃からずっっっっと一緒だったから、もう可愛くて仕方ないの! 屋敷を出るまでは寝る時も一緒だったんだぁ。あ、でもお風呂は急に入ってくれなくなったのはなんでだろう?」
「ははは、人は勝てないと知ると無意識に目を逸らしたくなるものですから」
「?」
コメントに困るので誤魔化しておく。
これは勝てんだろ。
「あのさ、一つ聞いてもいいかな?」
突然表情を変え、そう尋ねて来るシェリア。
何が聞きたいのかは何となくわかる。
「なんなりと」
「ワイズ君はどうやってお嬢様に触れることが出来るようになったの?」
来た。
この質問はいつか来ると思っていたのだ。
が、下手に作り話をする必要もないだろう。
きっかけを話して後はミレアに投げる。
それでどうにかなると思って、答えようとした——————
「それは」
その時、
「それは私も気になるな」
酷く冷たい声が、聞こえた。
聞き覚えのない声。
だが、鑑定をせずとも、顔を見れば誰なのかすぐに分かった。
「君がファリス殿の言っていた、ワイズ君か」
ラーク・ロゼルカ公爵。
ミレアの父であり、今回俺たちを呼びつけた張本人だ。
「はい。ワイズ・ホリィでございます。お目にかかれて光栄です、閣下」
お辞儀をしながら思った。
こいつは本物だ、と。
ルナラージャにいたような名ばかりの貴族ではない。
自尊心ではなく、誇りとしての“プライド” を持った、理想的な貴族だ。
まだ対面して数秒、この男について語るにはあまりにも関係性が浅すぎるが、地位をふさわしいと思える “何か” を持った貴族ではある。
「シェリア、ミレアを呼んで部屋に来るよう伝えなさい。ワイズは私と来るように」
「………」
気づくと話がサクサク進んでいる。
ここは少し、ミレアと話しておかなければ。
「いえ、閣下。お嬢様でございましたら、私がお連れしましょう。私はあくまで、お嬢様の執事でございます故、何卒」
「ふむ、わかった。ではシェリア、仕事に戻りなさい」
「はっ、はい!」
意外と物分かりの良いおっさんだ。
と、こちらも急がなくては。
俺がそう思いながら、足早にミレアの元に向かうのだった。
「………………ふむ、執事………か」




