第80話
縦横無尽に飛び回るニール。
かつてダグラスもこれを仕掛けて来た事があったが、その時は正面で受け止めた。
だが、こいつのは威力が段違いなのでその手は使えない。
「流石に受けたら弾き返されるな」
それでは攻撃は出来ないのだ。
それにまた体勢を崩される。
「んじゃ、これだな」
少し魔法を使う。
「【シャドウ】——————」
闇四級魔法【シャドウ】
影を発生させる、目くらましの魔法。
使用者には、はっきり見えるが、使われている側は闇に包まれる。
振り払うことは可能だが、その間に隙を作ることができる。
と言っても範囲は狭く、5m×5mほどしか範囲がない。
なので、
「——————×100だ」
その瞬間あたりは一気に暗闇に包まれた。
「なっ………!」
ニールは影の中に突っ込んでいく。
するとすぐさま剣を振って影を振り払う。
「どこだ………! 上かッ!」
突如降ってきた影に攻撃を仕掛ける。
しかし、
「違う………」
降ってきたのは、岩だった。
「ッ!」
ニールは後ろに剣を回し、ギリギリで攻撃を防ぐ。
「おっと惜しいな。もっとスピード出しときゃ良かったぜ」
「舐めた真似を………」
ニールは距離を詰め、一気に攻める。
2本の剣でうまくタイミングをずらし、防御しにくいように攻撃をする。
「そろそろいいか。そうだな………ニール、選ばせてやる」
「戦闘中におしゃべりとは気楽だな」
俺はこう尋ねた。
「まず一つ。このまま戦闘をする。そしてもう一つ」
俺は飛びながら攻撃を防ぎ、横からの攻撃を利用しながら退いた。
「ガチのスピードの俺と戦う」
「!」
ニールは攻撃を止めた。
剣を下げてこう言う。
「この戯け者が………決まってるだろ」
俺にピッと指をさした。
「本気を見せろ。こう言うのも癪だが、お前の本気を見てみたい。だから」
ニールは、横に手をかざす。
すると、置いていた大剣がニールの元に飛んできた。
「私も本気を出そう」
ニールは大剣を抜いた。
発していた圧が、さらに大きくなる。
生き物達は騒めき、見えない手で押されるような感覚がしている。
「ちょっ………あ?」
ニールの頭には、以前と比べて少し短めのツノが生えており、半身が黒くなるのではなく、模様のように黒の場所が浮かび上がる。
そして、青い瞳には、理性が宿っている。
「急げ、抑えて使うのは数分しか保たない」
正直な感想を言うと、凄い。
よく自力でここまで来れたなと思う。
こいつが仲間だと心強いと思えた。
「スゲェじゃねぇか。コントロール出来るんだな」
「意識がない時よりは強くならないだろうが、強化魔法のお陰で今まで感じたことのない力を感じている」
出来ることならじっくり戦ってみたかった。
これでも結構戦うのは楽しいので好きだ。
競い合うのは嫌いじゃない。
だが、約束だ。
俺もとりあえず、トップスピードを出す。
「それじゃあいくぜ」
強化一級魔法【クインテットブースト】
重力一級魔法【万力の奏者】
【万力の奏者】とは、自分の周りの重力を操り、狂わせ、調節できる魔法だ。
これで速度を一気にあげる。
「魔力は………」
ある程度慣れると、無駄な魔力を外に出さずに済む。
その分も強化に使う。
「全開だ」
俺は魔法を使った。
「………何も感じない。魔力をそこまで操っているのか………」
「用意はいいか?」
「ああ」
俺たちはお互いに構えた。
「行くぞッ! ケンッッ!」
ニールは脚に力を入れ、地面を思いっきり蹴った。
大きな音とともに地面にくぼみができる。
純粋に前に飛び出すためについたとわかる深く小さなくぼみだ。
「ダァッッ!」
飛び出すと同時に周辺の雪が弾け飛ぶ。
ニールは驚いていた。
これほどまでに速くなるのか、と。
(いける………これなら——————)
「え?」
ニールは気がついた時には地面に突っ伏していた。
何故。
何が起きた。
何も理解できずに横を見ると、俺の剣の刃が見えた。
「——————」
「お前が飛び出した直後、地面を数回蹴って加速しながら前に進み、後ろに回り込んだと同時に足を掛け、腕を捻って地面に倒したあと、首に手をやった」
「!?」
ニールはまるで反応できていなかった。
「寸止めルールだから、これで終わり。俺の勝ちだ」
俺は剣をしまった。
ニールは仰向けになると、ため息をついた。
「はー………ここまでとはな。お前本当に人間か?」
「どっからどう見ても模範的な人間だろーが」
「………強い」
ニールはポツリとそう言った。
「お前の本気、凄かったぞ。良いだろう、認めてやる」
「へっ、エラソーに」
俺はニールに手を伸ばした。
そして、ニールはそれを掴んで立ち上がった。
「………………」
一つ、俺は嘘をついた。
約束したのも関わらず、嘘をついた。
何故なら、これは俺の——————本気ではない。