第67話
「ッッッッ!!!」
ラビは力一杯俺にしがみついた。
この感覚。
自分の肉体が自分のものじゃない様な感覚。
俺はこれをやったことがないからわからない。
わからないが、こいつの様子を見れば大体わかる。
気が狂いそうなはずだ。
だったら俺は、
「!」
「ちょっとはマシか?」
俺はちょっとしたツボを押してみた。
これくらいの極限状態の時でしか使えないという条件付きだが、そう言った時は役に立つ。
ここを押すと物凄く痛い。
しかし、まだ痛みがある分、気が狂わずに済む。
「しィ………しょ」
「いいか、ヤバくなったら遠慮無くやめろ」
無理をする必要は無いのだ。
だが、ラビは首を横に振る。
そこまで強さが欲しいらしい。
「いいいいい………」
掴む力が強まった。
耐えている。
こんな子供が。
「頑張れ、ラビ」
声をかけるくらいしか出来ないが、これを乗り越えたら、こいつは今よりずっと強くなれる。
「どれくらい上がってるのか………」
俺は、ステータスをチェックした。
「ん? これは………!」
異常な速さだ。
通常の倍は早い。
しかしこれはどういう事だろうか。
俺は考えてみた。
「! そうか、生物迷宮の核!」
あれは、人の肉体を変質させる。
ダンジョンを自在に移動する力は、魔力と強く結びつく人間でなければ持ち得ない。
それを生物迷宮の肉体は核の力を持つことで得ている。
つまり、回復魔法がより効きやすいのだ。
「………後60いや、50分。だったら保つな」
俺はラビの首に手を当てた。
「とっておきの神象魔法だ。いくぞ」
詠唱を開始する。
『我は神の領域を侵す者。神の力を象る愚者。欲するは破壊の力。全知の神の叡智をもって我が願いに応えよ』
目の色が黄色に変化し、魔法陣が刻まれる。
「【神象魔法・三位一体ノ理】」
三位一体ノ理。
これは人間の身体の肉体・精神・魂を操作する魔法。
いや、正しくは生命を作り出す魔法だ。
古代、この世界にはゴーレムが存在した。
それは魔法によって作られた仮の身体で動く仮の生物だった。
これはそれの上位種。
その気になれば、人間ですら生成できる。
しかし、俺はそんな事はしない。
そんな事をすれば、俺は人間で無くなる様な気がするのだ。
だから、この魔法はあまり好きでは無い。
だが、この魔法を使えば、ラビの精神と肉体を分離させることができ、苦痛を感じさせずに済む。
この技を今まで使わなかったのは、流石に神象魔法クラスの長時間使用は、保たないと判断したからだ。
そうすれば、こいつに回復魔法をかける奴がいなくなる。
そうすれば中断してしまうので、肉体が回復に慣れ、もうこの方法では強化出来なくなる。
「あ、れ………?」
突然の解放にラビは戸惑っている。
「もう大丈夫だ。少し寝てろ」
俺はラビの意識を操作し、眠らせた。
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「っ………はぁっ! はぁ、はぁ、あーしんど。久々にマジで疲れたわー。でもまぁ」
ラビはまだ寝ている。
ステータスは格段に上がっている。
「成功だ」
本当によくやったと思う。
一級魔法の地獄を1分耐えるのもきついだろうに、こいつはその20倍も耐えたのだ。
立派だ。
この世で唯一の能力。
凡そ常人をはるかの上回る智力。
そしてこの精神力。
間違いなく逸材だ。
俺は今まで弟子なんて者には縁がなかったが、これでわかった。
育ててみたいやつと言うのはこう言うやつなのだ。
「ラビ。これからだぞ。気張れよ。そうすりゃきっと天辺なんざあっという間だ」
俺は眠ったラビを抱えて仮屋に帰る。
「そうだ。どんくらい成長したんだ? こいつ」
俺は、鑑定でラビのステータスを調べた。
「………ハハっ」
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ラビ
人間
HP:1200
MP:1000
攻撃力:900
守備力:900
機動力:800
運:10
スキル:短剣Lv.3/計算Lv.4/記憶Lv.3/ダンジョンLv.1
アビリティ:モンスター召喚
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以前はっきりみたわけでは無いが、これは確実に伸びている。
以前の蓮より上だ。
「大成功だ」
ここに連れてきた甲斐があった。
もう十分Gランクの平均水準を上回っている。
帰ったらリンフィアと相談して、待ってくれる様だったらラビも一緒に受けさせよう。
「………ん、ししょ………」
ラビが目覚めた。
「おわったのか?」
「ああ、頑張ったなラビ。今日はゆっくり休もうぜ」
「つよくなったのか?」
「もちろんだ。これで心置きなくダガーを渡せる。楽しみにしてろよ。お前の武器だ」
「おお、やった!」
こうして、修行最終日は終わった。