第63話
俺は口笛を吹きながらラビたちのいる場所に戻った。
「あ、ししょうおかえりー。あれ? なんかいいことでもあったのか?」
おっと、どうやら機嫌がいいのがわかるくらい表情が緩んでたらしい。
「ああ、完成したんだよ。銃が」
「おお、みたいみたい!」
「まだだ。今度リンフィアに使わせるから、そん時に見ろ」
「ぶー」
ラビは頰を膨らませてわかりやすく拗ねた。
だが我慢しろ。
「あ、ほらほらししょう。へんけいできたぞ」
「ん? どれどれ………ほぉ、まあまあ出来てんじゃねーか」
変形は徐々にものになってきていた。
泥人形から雑なマネキンくらいにはなっている。
手足がまるいやつだ。
「でもここからはかわんないんだ。このへんでいったんせいちょうがていたいするものなのか?」
「ああ、ある程度の人型になるまでが第1段階だ。当然そこで止まる」
段階としては、ざっくりした形、細部の再現、自由な変形。
何に変形するにせよ、この3段階を踏む。
そして、一つできればある程度はできるようになる。
「まあ、こんなもんだろ。戦闘はできてるのか?」
「うん。いま、へびえもんとたたかってる」
課題で動き回れるようになれって言ったには言ったがもう戦わせているのか。
「で、どっちが勝ってるんだ?」
「それはねぇ」
草むらから、ヘビ右衛門が飛び出してきた。
「シャーッ! 姉様、なかなかやるな!」
姉様?
「え? スラ左衛門、女なのか?」
「うん」
「名前つけたのは?」
「ワタシ」
「お前なんてやつだ!」
「ほんにんがきにいってるんだもん。ワタシもいちおうきいたけど、かっこいいからそれがいいって」
こいつもこいつで凄いな。
「本人が気に入ってるならいいけど………おかしなやつだな」
人型になったスラ左衛門とヘビ右衛門の戦いだ。
スラ左衛門は身長を調節したり、腕を伸ばしたりして器用に戦っている。
ヘビ右衛門はヘビ右衛門で、スルスルと動いて上手くかわしつつ、攻めている。
「おお、スラ左衛門器用だな。流石にヘビ右衛門の方が押してるけど戦えない事はない」
「ししょう、そろそろ切り上げさせるか?」
「そうだな。もういいだろう」
「おーい、そろそろやめだぞー」
声に気づいた2匹はすぐに戦闘をやめてこっちに来た。
本当に見上げた忠誠心だ。
「スゲェじゃねーか、スラ左衛門。えらい進歩したな」
「ありがとうございまする。これもラビ様のおかげでございまするよ」
「ラビの?」
「ええ、私の変形のために、型になって下さいました。お苦しい筈なのに、それでもやってくださったのでございまする」
「そうか」
こいつも体を張るんだな。
感心した。
なかなかできることでは無い。
スライムに取り込まれるのは、水に潜るのとはわけが違う。
重みもあるし、少しでも吸い込んだらかなり苦しくなる。
「わぁ」
俺はガシガシとラビの頭を撫でた。
「ははうえとちちうえいがいのひとにはじめてなでられた」
「父上?」
そう言えば、この前洞窟に行った時こいつの母以外いなかった。
つまり、
「ちちうえにいってきますっていうのわすれてたな」
え? 生きてんの? あ、なんかデジャヴるわ。
ていうか、結婚していたんだな。
そりゃそうか。
生物迷宮も結婚という文化はある。
「親父さんどこにいるんだ?」
「もうこのまえのどうくつにもどってるとおもうぞ」
「お前あの洞穴に住んでんのか?」
「あそこはワタシのてんいまほうじんどかしたら、とびらがあって、そこからいえにつながってるんだ。さすがにいえくらいあるぞ」
つーかこいつ父親に何も言わずに家を出たのか。
つくづくあの母親はダイナミックだなと思う。
「ちちうえはははうえのしりにしかれてるからな。ワタシがでたことになにかいいたくてもなんにもいえないとおもう」
ああ、同情するわ。頑張れよ親父さん。
俺は顔も見れなかった親父さんに同情した。
「で、なんのはなしだったっけ?」
「スラ左衛門の変形の話だろ」
「あ、そうだったそうだった」
うははは、とラビは笑った。
「ヘビ右衛門の方は進捗どうだ?」
ヘビ右衛門にはまた別の課題を与えていた。
こっちはこっちで結構大変だ。
「はっ、とっくに出来てるよ。見てろ!」
課題。
それは、
「お」
地面が微かに溶けている。
こいつへの課題は毒だ。
蛇族には毒生成スキルを持ってるのもが多い。
ヘビ右衛門はそのうちの1匹。
つまり、毒の生成が可能。
何でもいいから毒を作れと言ったので、これを作った。
「どうだ!」
「オッケー、やるじゃねーか」
「へっ、あたぼーよ!」
進歩したと思う。
毒があるか無いかでは大きな違いだ。
「おお、へびえもんすごいぞ」
「お褒めに預かり光栄です、ラビ様」
もう口調が全然違う。
「こいつらも少しは強くなったかな。あとはラビ自身の能力向上が必要だ」
「うん。ワタシがんばるぞ。さいきょうのダンジョンになるために!」
「やる気一杯だな。よし、休憩したら近くのモンスターを倒しに行くか」
「おー!」