第60話
「ししょう。なにをつくってるんだ?」
「銃って言う武器だ。これがまた作るのが難しいんだわ」
部品やそのサイズは完璧にわかるんだが、それを作るだけの技量がまだ俺にはない。
溶かして型を作ってはサイズが合わずにやり直し。
なので進捗率はまだ10%と言ったところだ。
それも比較的簡単な部品である。
「へぇ、つよいのか?」
「ああ、D級冒険者くらいなら反応できずに終わると思うぞ」
流石にCランクには抵抗されると思うが。
DとCでは決定的にものが違うのだ。
Dまでを下級冒険者、CからAを上級冒険者、それ以上は頂上冒険者と呼ばれる。
「上級からは立派な人外だ。流石になす術なくやられるってことはないと思うが、かなり苦戦する筈だ」
「おお、すごいな」
ラビはバシッと駒を置く。
「ししょうのばんだ」
「ん? ほう、そう来たか。だがそれは」
俺も駒を置いた。
「詰みだ」
今やってるのはラビの言ってたゲームを改良してボードゲームにしたものだ。
結構楽しい。
「うわああああ! またやられた! ししょうのそれなんなんだ!」
「はっはっは、自分で考えろ」
とはいえ結構手ごわい。
負けることはないが、ハラハラする場面もあるのでいい感じだ。
「ししょうそれつくりながらなのに、なんでそんなにつよいんだ?」
「スキルだよ。並列思考。本来は戦闘中に複雑な動きを淀みなく行うためのスキルだが、まあ要するに別々のことを考えるためのスキルだからお前とこの作業とで思考ができるようにしてんだよ」
普通は疲れる上に長期使用後は少し混乱するので日常的に使うことはない。
あまりに長く使うと自我が崩壊する。
「おお。じゃあ、ししょうはワタシとしょうぶするために、わざわざそのスキルをつかっているのか」
「………まあ、そんな感じだ」
こっちの作業に集中したいからと言ったら文句を言いそうなので言わない。
「ほら、もう一戦やるぞ。今度はちょっと細かい作業するから代わりに駒を動かしてくれ」
「わかった」
さて、作業にも集中しないとな。
今できているのは大まかに外側の部品のみ。
まずは銃身からちゃんと作っていこう。
と言っても今までも作っていたのだが、なかなか上手いこといかない。
しかし、手を抜くわけにもいかない。
少しの失敗で暴発なんかがすぐ起きてしまう。
そうなれば使用者が怪我をしてしまう可能性が出てくる。
「………もうちょいなんだよなぁ。もうちょいでコツが掴めるんだ。ラビ、C8エリアにこいつ運んで」
別々のこと完全に切り離して考えるのは奇妙な感じだ。
今までも並行して何かを同時に行う作業はやったことはそれなりにあった。
しかし、ここまで意識が分離した経験はない。
絶対にどこかで何かしらの要素が混ざってしまう。
「気持ち大きめにか? クッソ、ムズイな。ライフリング」
目下苦戦中の部品はライフリングだ。
あそこは特に細かい調節が必要。
型も何もない今、感覚や魔法原理の応用で作らんなければならない。
例えば、氷魔法で【アイススピアー】という魔法がある。
あれで作られた氷は溶けるまでは完璧にまっすぐ先端まで伸びており、真っ二つに切って先端の角度を見ると、何度魔法を撃っても、全て同じ角度になる。
このような原理を応用して、出来るだけ狂わないように調節しているのだが、ライフリングほどの精密な部品は流石に厄介だ。
「でも、あともうちょいだ。もうちょっと、もうちょっと………!」
既に誤差はコンマ数ミリという段階まできた。
あとは俺自身から発生するちょっとした誤差が消えれば完璧なんだ。
「ししょうのばん」
「D1をG7に移行。罠4発動後にE1を正面のお前の駒にぶつけろ」
「むむむぅ………」
悩んでいる。
こいつもいい感じだ。
そろそろ、こいつ自身の身体能力強化もそろそろやんないといけない頃か。
「持ち時間守れよ」
「だいじょーぶ」
いつかこいつに将棋、囲碁、チェスでも教えるか。
蓮がいない今、賭け将棋出来ないからなぁ。
ちなみにもちろん今まで無敗だ。
あいつはあいつで結構ムキになるところがあるので、財布が危ない時は決まって将棋を指していた。
ようやくコツが掴めてきた。
みるみるミスが修正されていく。
いい、いい感じだ。
ライフリング完成は間近だ。
「はははっ! ヤベェ、やっぱモデルガンよか達成感があるわ。いいぞ、あと少し、あと少しで!」
ブレがなくなり、ズレは修正されていく。
できた。
ついに俺は、苦戦していたライフリングを完成させたのだ。
「………おお! 完璧だ! これだよこれ! 求めていたのと同じだ! うわぁ、ヤバイヤバイ顔が緩むわ」
俺は完成したライフリングを大事に抱える。
可愛い我が子だ。
リンフィアならきっと大事に使ってくれるだろう。
完成はまだ遠いが。
「ししょうはしゃぎながらでもてごわい………でもこれでたしょうはよゆうがなくなるでしょ………これ!」
ラビは勢いよく駒を打った。
「む、これは………なるほど、囲みつつ退路を塞いだな? うまいな」
こっちももうクライマックスだ。
そろそろ決着がつく。
「逃げ場を無くしたのはいいと思う。だがお前は完全にやらかした」
俺はニヤリと笑った。
「えー、どこもあなないじゃん」
「どうかな? 例えば、こう」
「!?」
俺は作業を中止したことで完全な手を打つことが出来た。
「伸ばしたのは失敗だったな。王の警備が手薄だ」
「また負けたあああ!!!」