第599話
「どんな人だろうな」
「めちゃくちゃごっっつい人だったりとか?」
「うーわ、嫌だわぁ………あはははは!!」
新しい指導者となる人間が来たとだけ聞かされている勇者達は、この中の誰がいるのか全くわかっていなかった。
「剣介、お前はどう思うよ?」
「いやぁ、そろそろ魔法学院とかから先生が来るんじゃね? 美人な魔女とか」
「だったらテンション上がるわぁ。なぁ!」
男子はそれを聞いてはしゃいだ様な反応をし、女子は色々と文句だったりをいいつつ、それはそれではしゃいでいた。
そんな風に適当に喋っていると、部屋からルドルフが出てきた。
いつも通り、重苦しい甲冑姿だ。
「揃っているな」
「こんちわー、教官。そのカッコ暑くないんすか?」
「ケンスケか………口調には気を付けておけよ。陛下の御前だ」
「分かってますって〜。へへっ」
一応、国王の前だとみんな大人しいものだ。
流石に逆らうのはまずいと思っているのだろう。
「では、並んでいけ」
「はーい」
扉の前に立つと、番をしている兵士が、巨大な扉を開いた。
この瞬間は緊張するのか、勇者達の顔が若干強張る。
すると、
「お」
勇者達は、奥の方で国王の方を向いた9人を視界に入れた。
一人と思っていたのが、思ったより多かったので、ざわつきそうになったが、流石に控えた。
煌びやかで、異様な空気を漂わせる、この国でたった一つの玉座が置かれた王の為の一室。
やはり、凄まじい場所だ。
剣介達は綺麗に整列したまま進み、奥の方まで行くと、所作通り片膝をついて国王に首を垂れた。
「山下 剣介。以下勇者31名参上いたしました。ご機嫌麗しゅうございます。我らが王」
思ってもいない事をペラペラと話す剣介。
慣れたものだ。
「うむ、ご苦労。表を上げよ」
「はっ」
剣介達は顔を上げ、国王を見上げた。
「此度、隣国ルナラージャを偵察した結果、我が国とルナラージャで戦をする事が決定した。そこで諸君ら勇者には、我が国の中心戦力となるべく、そこにいる者達に師事し、更なる向上を図らす事になった。我が国の勝利のため、より一層励むがよい」
「御意」
「詳細はルドルフと」そこの者達に聞くといい。では、以上だ」
国王が立ち上がると、勇者達は再び顔を伏せる。
立ち上がった国王はそのまま隣の扉から退出しようとした。
すると、チラリと一瞬ある方向へ視線を遣り、小さく笑みを作ると、どこか満足そうな様子で行ってしまった。
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場所を変え、勇者と指導員で簡単な顔合わせをする事になった。
大人数なので、中庭での顔合わせとなる。
勇者達はというと、指導員は美男美女が多いと騒ぎになっていた。
位置的に顔が見えたからだろう。
そして、その騒がしい空気のまま、勇者達は中庭で待機した。
「………では、簡単な顔合わせだ。終わった後に少し実力を測ると言っていたので、そのつもりで」
ルドルフは勇者達を一瞥し、少し落ち着かせた。
ただ、それでもやはり完全に黙らないところは、やはり彼らが増長しているということなのだろう。
しかし、時間ももったいないので、このまま進めることにした。
「では、入れ」
一番最初に入ってきたのは、ブロンドヘアの少年。
目がキリッとした、見覚えのある顔つきなのと、あまりに整った顔立ちで、勇者達がいきなり盛り上がった。
「うわぁ………すっごいイケメン………」
「獅子島くんクラスじゃん………」
「なぁ………あれって」
「ああ、日本人………………だよな?」
どんどん続いた。
入ってきたのは、暗い茶髪の双子の姉弟………に見える兄妹だ。
もっとも、誰も気が付いてはいないが。
続いて、頬に赤い刺青を入れた青髪の女と、クリーム色の少女が、一緒に入ってきた。
どことなく只者ではない雰囲気を出しているが、いかんせん美人故に男子は完全に目を持って行かれていた。
そこに、縦ロールのいかにもお嬢様な少女が現れる。
今まで入ってきた者と比べ、所作が丁寧だったため、貴族だろうかという憶測が飛び交った。
続く男二人組。
ガタイの良い坊主と顎髭を適当に散らした男が入ってきた。
どちらも強そうに見えたのか、ここにいるほぼ全員が、この二人がメインの教官だと考えた。
そして、銀髪で穏やかな顔をした少女が入ってくる。
思わず男女ともに魅入った美しい少女。
生徒達はここでさらに騒がしくなった。
「やば………めちゃくちゃ可愛いじゃん!」
「うわぁ、あの男どもマジで羨ましいわぁ………」
「あのおっさんめちゃくちゃ強そうじゃね?」
「教官よりずっと強いかもね!」
「あれ、あの銀髪の子こっち見てない?」
今のところ、全員何かしら注目出来るところを持っていた。
残るは一人。
さぞ凄い奴がくるんだなと。
そう思っていた。
そして、今まで歓声のように上がっていた声が、ここに来てピタッと止まる。
「彼で最後だ」
ルドルフがそういうと、その男は出てきた。
年は勇者達と同じ。
金髪で、背は高め。
眼つきは凶悪なまでに鋭く、誰もに警戒された。
腰に使い古された木剣を帯び、どこか気怠そうな雰囲気を纏いつつ、その少年は入って来た。
「「「………………」」」
誰もが言葉を失い、目を疑う。
そして一体、誰が予想しただろうか。
「指導員代表、ヒジリケンだ」
落ちこぼれとして追い出された筈の、何の能力も持たずに1年間一人で過ごした男が、まさか自分たちを指導する側にいるなんて事を。
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「おー、ざわついてるな。ま、無理もないか」
思った通り顔が引きつっている。
だが、思ったよりも嬉しかったり、スカッとしたりだとかはない。
やはり、連中に対してこれといった感情を持ち合わせてはいないらしい
さて、それじゃあさっそく面倒を見るとしますか、と思っていると、
「教官、ちょっと」
さっそく声を上げた者がいた。
見覚えがある。
石田とつるんでいたうるさい奴だ。
確か、山下 剣介だったか。
「なんだケンスケ」
「なんでその落ちこぼれが今更戻って来てるんですか? どう考えても、そいつじゃ指導は無理でしょ。Cランクのスキルすら授からなかった無能なんですよ?」
剣介がそういうと、周りがくすくすと俺を嘲笑い始めた。
あー、変わらねーな、とある種の懐かしささえ覚える。
力を持つ前は顔色を伺い、いざ強い力を持つと増長する。
改めて、俺の見る目の良さに感激した。
俺がまともに会話をしたクラスメイトは、そういうことをしない連中なのだから。
「おい、聖」
剣介はへらへらとした顔で、こっちににじり寄ってきた。
そして、どこか勝ち誇った様子でこう言った。
「お前ごとき無能とは天と地ほどの差があるSSランクの固有スキルを持つ俺が、力ってやつを見せてやるよ」
どうやら、実力を見せてくれるらしい。




