表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
599/1486

第599話


 「どんな人だろうな」


 「めちゃくちゃごっっつい人だったりとか?」


 「うーわ、嫌だわぁ………あはははは!!」



 新しい指導者となる人間が来たとだけ聞かされている勇者達は、この中の誰がいるのか全くわかっていなかった。



 「剣介、お前はどう思うよ?」


 「いやぁ、そろそろ魔法学院とかから先生が来るんじゃね? 美人な魔女とか」


 「だったらテンション上がるわぁ。なぁ!」



 男子はそれを聞いてはしゃいだ様な反応をし、女子は色々と文句だったりをいいつつ、それはそれではしゃいでいた。

 そんな風に適当に喋っていると、部屋からルドルフが出てきた。

 いつも通り、重苦しい甲冑姿だ。



 「揃っているな」


 「こんちわー、教官。そのカッコ暑くないんすか?」


 「ケンスケか………口調には気を付けておけよ。陛下の御前だ」


 「分かってますって〜。へへっ」



 一応、国王の前だとみんな大人しいものだ。

 流石に逆らうのはまずいと思っているのだろう。



 「では、並んでいけ」


 「はーい」



 扉の前に立つと、番をしている兵士が、巨大な扉を開いた。


 この瞬間は緊張するのか、勇者達の顔が若干強張る。

 すると、

 


 「お」



 勇者達は、奥の方で国王の方を向いた9人を視界に入れた。

 一人と思っていたのが、思ったより多かったので、ざわつきそうになったが、流石に控えた。



 煌びやかで、異様な空気を漂わせる、この国でたった一つの玉座が置かれた王の為の一室。

 やはり、凄まじい場所だ。


 剣介達は綺麗に整列したまま進み、奥の方まで行くと、所作通り片膝をついて国王に首を垂れた。



 「山下 剣介。以下勇者31名参上いたしました。ご機嫌麗しゅうございます。我らが王」



 思ってもいない事をペラペラと話す剣介。

 慣れたものだ。



 「うむ、ご苦労。表を上げよ」


 「はっ」



 剣介達は顔を上げ、国王を見上げた。



 「此度、隣国ルナラージャを偵察した結果、我が国とルナラージャで戦をする事が決定した。そこで諸君ら勇者には、我が国の中心戦力となるべく、そこにいる者達に師事し、更なる向上を図らす事になった。我が国の勝利のため、より一層励むがよい」

 

 「御意」


 「詳細はルドルフと」そこの者達に聞くといい。では、以上だ」



 国王が立ち上がると、勇者達は再び顔を伏せる。


 立ち上がった国王はそのまま隣の扉から退出しようとした。

 すると、チラリと一瞬ある方向へ視線を遣り、小さく笑みを作ると、どこか満足そうな様子で行ってしまった。







——————







 場所を変え、勇者と指導員で簡単な顔合わせをする事になった。

 大人数なので、中庭での顔合わせとなる。

 勇者達はというと、指導員は美男美女が多いと騒ぎになっていた。

 位置的に顔が見えたからだろう。

 

 そして、その騒がしい空気のまま、勇者達は中庭で待機した。




 「………では、簡単な顔合わせだ。終わった後に少し実力を測ると言っていたので、そのつもりで」



 ルドルフは勇者達を一瞥し、少し落ち着かせた。

 ただ、それでもやはり完全に黙らないところは、やはり彼らが増長しているということなのだろう。


 しかし、時間ももったいないので、このまま進めることにした。



 「では、入れ」



 一番最初に入ってきたのは、ブロンドヘアの少年。

 目がキリッとした、()()()()()()顔つきなのと、あまりに整った顔立ちで、勇者達がいきなり盛り上がった。



 「うわぁ………すっごいイケメン………」


 「獅子島くんクラスじゃん………」


 「なぁ………あれって」


 「ああ、日本人………………だよな?」



 どんどん続いた。

 入ってきたのは、暗い茶髪の双子の姉弟………に見える兄妹だ。

 もっとも、誰も気が付いてはいないが。


 続いて、頬に赤い刺青を入れた青髪の女と、クリーム色の少女が、一緒に入ってきた。

 どことなく只者ではない雰囲気を出しているが、いかんせん美人故に男子は完全に目を持って行かれていた。


 そこに、縦ロールのいかにもお嬢様な少女が現れる。

 今まで入ってきた者と比べ、所作が丁寧だったため、貴族だろうかという憶測が飛び交った。


 続く男二人組。

 ガタイの良い坊主と顎髭を適当に散らした男が入ってきた。

 どちらも強そうに見えたのか、ここにいるほぼ全員が、この二人がメインの教官だと考えた。



 そして、銀髪で穏やかな顔をした少女が入ってくる。

 思わず男女ともに魅入った美しい少女。

 生徒達はここでさらに騒がしくなった。



 「やば………めちゃくちゃ可愛いじゃん!」


 「うわぁ、あの男どもマジで羨ましいわぁ………」


 「あのおっさんめちゃくちゃ強そうじゃね?」


 「教官よりずっと強いかもね!」


 「あれ、あの銀髪の子こっち見てない?」







 今のところ、全員何かしら注目出来るところを持っていた。

 残るは一人。

 さぞ凄い奴がくるんだなと。

 そう思っていた。


 そして、今まで歓声のように上がっていた声が、ここに来てピタッと止まる。




 「彼で最後だ」



 ルドルフがそういうと、その男は出てきた。


 年は勇者達と同じ。

 金髪で、背は高め。

 眼つきは凶悪なまでに鋭く、誰もに警戒された。

 腰に使い古された木剣を帯び、どこか気怠そうな雰囲気を纏いつつ、その少年は入って来た。




 「「「………………」」」




 誰もが言葉を失い、目を疑う。

 そして一体、誰が予想しただろうか。



 「指導員代表、ヒジリケンだ」



 落ちこぼれとして追い出された筈の、何の能力も持たずに1年間一人で過ごした男が、まさか自分たちを指導する側にいるなんて事を。








———————————————————————————









 「おー、ざわついてるな。ま、無理もないか」



 思った通り顔が引きつっている。

 だが、思ったよりも嬉しかったり、スカッとしたりだとかはない。

 やはり、連中に対してこれといった感情を持ち合わせてはいないらしい


 さて、それじゃあさっそく面倒を見るとしますか、と思っていると、



 「教官、ちょっと」



 さっそく声を上げた者がいた。

 見覚えがある。

 石田とつるんでいたうるさい奴だ。

 確か、山下 剣介だったか。



 「なんだケンスケ」


 「なんでその落ちこぼれが今更戻って来てるんですか? どう考えても、そいつじゃ指導は無理でしょ。Cランクのスキルすら授からなかった無能なんですよ?」



 剣介がそういうと、周りがくすくすと俺を嘲笑い始めた。

 あー、変わらねーな、とある種の懐かしささえ覚える。

 力を持つ前は顔色を伺い、いざ強い力を持つと増長する。

 改めて、俺の見る目の良さに感激した。

 俺がまともに会話をしたクラスメイトは、そういうことをしない連中なのだから。



 「おい、聖」



 剣介はへらへらとした顔で、こっちににじり寄ってきた。

 そして、どこか勝ち誇った様子でこう言った。



 「お前ごとき無能とは天と地ほどの差があるSSランクの固有スキルを持つ俺が、力ってやつを見せてやるよ」



 どうやら、実力を見せてくれるらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ