第598話
「おー、ここがおうとか。でかい」
「ボキャ貧かよ」
ラビのお粗末な感想に突っ込みつつ、俺はこいつらと街を練り歩いた。
確かにデカイが、やはり多様だ。
色々な店があり、人間がいるという印象が強い。
王都には様々な人間が集まるが故だろう。
規模でいえばフェルナンキアの方が上だが、種類で見れば王都の方が多い。
本当に栄えた都市だ。
しかし、
「どことなく淀んでンな」
「ん?」
周囲を見回す。
気のせいと言われればそうかもしれないと思う者もいるだろうが、何かと敏感な俺はそこそこ目についていた。
「街の雰囲気、悪いぞ」
「………………これでも隠している方だ」
ルドルフは苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。
「だろうな。よく隠してる。いや、我慢している、か?」
「!」
「原因は………………」
そう言ってルドルフを見ると、硬く口を噤んで黙ってしまった。
原因はなんとなく察する。
「おっさん」
「………」
「行くぞ」
俺たちは、特にどこかに寄ることもなく、まっすぐ城へ向かった。
全く面倒にも程がある。
性格矯正も必要とは。
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山下 剣介。
SSランクの固有スキルを持った勇者だ。
短髪でピアスを開けまくった、見る限り騒がしい系の男子生徒だ。
そして、性格も見たまんま騒がしくいい加減な、現代っ子が具現化した様な感じだ。
今までは石田を中心に他の連中と連んでいたが、聖 賢が城を出て以来、騒ぐこともなくなったので、いわゆる“陽キャ”のグループは、山下のグループと蓮のグループの二つになっていた。
ただ、蓮が抜けて訓練中心になり始めた琴葉達からは、徐々に人が離れていき、大体こちらのグループを中心に生活をしている。
「おーい。聞いたかよ、今日の話」
談話室に入ってきた生徒が、ニュースを持ってきたようにそう言った。
そのニュースとは、緊急だが、ミラトニアとルナラージャで戦争になったというものだった。
「うん? ああ、聞いた聞いた。戦争なんだってよ」
「ビビってる?」
「あははは! ビビるわけないじゃん。だって俺ら選ばれし勇者だぜ? もうめちゃくちゃ強いし、向こうにいる軍隊くらいなら楽勝っしょ」
今までの見る影もなくなったかの如く、彼らは戦争を、戦闘行為を軽視していた。
もちろん全員ではないが、余程気の小さい性格でない限り、大体はそうなっている。
それもこれも、全てはこの国を挙げて彼らを持ち上げすぎたせいだ。
「なぁ、剣介!」
「当たり前だろ? 今までめちゃくちゃでけェモンスターとか倒したしな。それも一人ずつで。そんな俺たちが40人もいるんだぜ? 誰が来ようと関係ねぇよ」
踏ん反り帰って、得意げな顔をしながら剣介はそう言った。
彼は、特に調子に乗っていた。
確かに、言っている通り実力はつけてきた。
巨大モンスターをソロで倒したというのは本当だ。
国は、あまりに彼らが怖がるものだから自信をつけるべく、なるべく強そうで彼らが勝てるモンスターと勝負をさせたのだ。
このお陰か、縮こまった動きは幾分マシになり、集団ならばAランクのモンスターを討伐出来るようになっていた。
「で、それがどったの?」
「それがさぁ、今更俺らを指導するって奴が来るんだと。王様のとこに連絡が入ったとかなんとか」
「へぇ、強いの?」
「さぁ?」
「ふぅん」
幸い、特に反発はなかった。
相手が特に変な人間ではない限り逆らって迷惑をかけようと思うほど頭は弱っていないようだ。
「まぁ、剣術とか弓術とかはまだ完璧じゃないしな。というか、流石に教官もきつくなったんだろ。で、いつ来ンの?」
「あ、それだ。それを言いにきたんだった。もう来てるからみんなを呼んでこいって教官が。伝令係やらさせたんだよ」
「マジか。じゃあ行くか」
割とすんなり聞いた。
周りの連中もぞろぞろと向かい始めた。
増長したと言っても、少し態度が大きくなっただけだろう………………と、思いきや、
「メイドさん」
ある生徒はメイドを呼びつけ、部屋を指しながらこう言った。
「この部屋、掃除してて。あと戻ってくるまでに装備品部屋に戻して部屋も掃除しててね。あと傷んでる装備品は手入れもよろしく」
と、自分たちで思う存分散らかしたにもかかわらず、一切手をつけることなく部屋を出た。
その部屋は、持ってきた菓子折のゴミやら、脱ぎ散らかされた防具などが散乱していた。
「かしこまりました」
当然メイドは、嫌事一つ言わず、思っていることを一切表に出すことなく、掃除をするのだった。
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「うーん、うーーーーーん………………」
訓練場。
中庭での訓練では、追いつかないほど激しい訓練を行う際、勇者達はここで訓練することになっている。
そこには、だいたい6名の勇者が入り浸っていた。
「どした、七峰。珍しく小難しい顔して」
「失礼な。私だって考えてる時は考えてるんだよダッ………高橋くん」
「今ダッシュくんとかいう不名誉なあだ名で呼ぼうとしたか?」
「あ! UFOが豚に乗ってる!」
「おい、わざわざ見えなかった後ろに指を刺すな。せめて俺の背後を指してくれよ。それとなんでUFOが豚に乗ってんだよ、逆じゃんそれ」
高橋は立派にツッコミ役を果たしていた………だけではなく、立ち居振る舞いにかなり余裕
「で、どうしたの? 高橋くん」
「お前らも聞けよ。ビックニュースだ………ケンが帰って来たんだと」
「「「!!」」」
その場にいる勇者達は、一斉に高橋を注目した。
もちろんメンバーは、七海、涼子、綾瀬、美咲だ。
フェルナンキアに出向いたメンバーであり、トモから力を授かったメンバーでもある。
皆それぞれ反応したが、特に彼女、琴葉は固まってしまうほど、驚いていた。
「………………………うそ」




