第596話
「さて!! 方針も決まった事だし、これからどうするか考えようか」
ニコニコとしながらそういうトモ。
不気味だ。
「なんだお前急にニコニコすんなよ気持ちわりぃ」
「ケンくんちょっと遠慮というものを覚えようか」
僕一応神なんだけど、とわめいているがスルーしよう。
「そんな事より、こっからどうすンだ?」
「もちろん、ミラトニアに帰る。僕もそろそろ通信が危なそうだしね。ここ一応敵の領地だから」
一気に攻め入る作戦は無し、か。
無理とは思うが、チビ神はどこまで関与できるか知ったうえで言っているのだと思う。
なら、恐らくそうすべきなのだろう。
「ま、帰る分には大丈夫か。奴ら俺が奴隷解放している間、完全に地方に対処を任せていたしな」
つまり、その分パワーアップに力を注いでいるということだ。
敵の手には、厄介な事に天の柩がある。
あれは神器。
手元で扱う人間が優れていれば、加護を受ける転移者をかなり強化できるだろう。
非常に厄介だ。
「あ、チビ神。そういえばなんで新旧命の神は協力関係になろうとしてンだ? お前、ケンカして負けてこうなったんだろ?」
『さぁ。理由はミーにもはっきりわかんないよ。でも、この件はそうだと断言できる。これでも自分の事だから。ま、ミーは遺体に残った残留思念みたいなものなんだからね。魂の残りカスさ』
「それでも、聞く価値はある、か………」
トモの方を見るとニヤリと薄気味悪く笑っていた。
すこしゾッとする。
問答無用か。
信じ無ければ滅びる。
「滅びる………そういや、さっき言っていたよな。人間界を統合する理由ってやつ? それは何だ?」
あ、と思った。
雰囲気が変わる。
これは、かなり重要な話だと確信した。
「………………そうだね」
スッと前に手を組み、こちらを向いて改まるトモ。
みんなどんな事を言われるのかと、思わず体を強張らせながら耳を傾けた。
しかし、トモが言ったのは、たった一言だけ。
「統合された国は—————— となって だ」
そしてそれを、俺たちは聞くことがが出来なかった。
「?」
何だ?
音が途切れる。
重要な部分が全く聞こえない。
「ありゃ? 誰も聞こえなかった?」
まばらに頷き始める。
どうやら誰も聞こえなかったらしい。
「んー、じゃあこれはルール違反のままだったか。ハル先生に伝えたけど、教えられるのは一人だけっていうルールが変わらない以上、蓮君達には伝えられそうもないね」
「ハル? あいつもこの件に関わってるのか? それに蓮も………」
「ああともさ。二人ともこの国にいるよ。今は多分三帝の協力者となっている筈さ」
「!!」
三帝の協力者。
つまり、三帝の目的である復讐の協力をしていると言うことか。
この間蓮が起こした王女誘拐事件にはラクレーも手を貸したとファリスから聞いた。
なるほど、そのままここに連れてきたということか。
「ルーテンブルクに対処しないのはあいつらがいるからか………」
「おや、察しがいいのはいつも通りだけど、何も言わないんだ。琴葉ちゃん辺りが巻き込まれたら怒るだろうに」
「あいつは特別だ。殊戦闘に於いてはあいつは信じられる。生き残る確信はある」
戦いの勘という奴が、あいつは凄まじく冴えている。
以前、フェルナンキアに魔族が攻め入った時に戦ったというデュラハン。
あれは最悪Aランクすら瞬殺するというのに、あれ相手に技術だけで生き残ったと聞く。
今はきっと更に強くなっている事だろう。
「やれやれ………それはつまり、蓮君以外は心配という事だろう?」
「当然だろう。あの連中、言ってしまえばど素人の烏合の衆だぜ? 琴葉達には申し訳ねぇが、まだまだ経験不足だ」
「全く………先が思いやられるよ。これから君には一月でみんなの指導をして貰わないといけないのに」
「「「!」」」
いつもの3人——————リンフィア達の表情が若干ぎこちなくなる。
あいつら3人には冒険者だった時に俺がクラスの連中に嫌われていることと事情を話しているからな。
直接はもちろん、間接的に危害を加えたこともないのになぜか嫌われている。
中には助けてやったやつすらいるというのに。
全く、世知辛い世の中だ。
と、頭では冷静に喋っているつもりだったが、
「………………はァ?」
と、物凄く嫌そうな顔を出してしまっていた。
———————————————————————————
チビ神から聞いた話だが、ウルクが国を襲うのは今より1ヶ月と少し後になるらしい。
理由は、その日は一年で月が最も明るくなる日だという。
月明かりが強い魔力を帯びているというのは、魔法学院でも基本として習う内容だ。
しかし、神にとってその日は、神威が最も高まる日だという。
だったら今のうちにルーテンブルクを攻めようと思ったが、流石に特異点がいる状態なら俺も国を破るのに時間がかかる。
加減しなければ良い話だが、それだと敵の強さ次第で被害がどれほどになるかわからないし、やはりルーテンブルクはラクレー達に任せておくべきだ。
決して理性的でないが、完全にダメな行動と言うわけでもない。
その間に、2カ国のどちらか一方でもミラトニアに攻め入られてしまう事があれば厄介なのだ。
敵には転移系の固有スキル持ちがいる可能性があるので、警戒は必須。
故に、ミラトニアに戻るのは守備面でも大事なことなのだ。
「それにしても、帰りは大所帯になったもんだよな」
俺は後ろからついてくるアホみたいに多い馬車を見てそう呟いた。
「まぁ、反乱軍の皆さんを連れて帰るとなったらそうなりますよね」
リンフィアは珍しくリルを膝の上に置いてそう言った。
一応幼獣体だ。
対抗意識を燃やしているのか、エルも膝の上に乗っている。
なんの対抗だ。
「そういえば、然程嫌そうではないな、ケン。話していた通りの連中なら会うのも嫌なんじゃないのか」
「まぁ、気にしても仕方ねぇしな。そもそも俺の中では連中はその辺の石ころみたいなもんだ。気にしたところでって感じだろ? それに、久々に琴葉達に会えるんだ。嫌なことばっかりってわけでもねーさ」
「ししょう!! そうおもうなら、あたまからからてぇええええええええええいてててててて!!!」
おっと、思わずアイアンクローしていた。
「このあくま! ひとでなし!! ばか! あほ!」
「はいはい、そんな怒んなクソガキ」
「じゃあかしひとつ」
このガキどこでそんな知識を………と思ったが、生物迷宮は成人並みの知識はあるんだった。
………いや、なんか怪しい。
「わーったよ。仕方ねぇ」
「よし、じゃあこのまえまほうぐこわしたのはチャラというわけで」
「殺す」
「ぎぃあああああああああああッッ!!!」
クッソ、俺の安眠枕ぶっ壊したと思ったらこいつだったのか。
許さん。
「まぁまぁ、落ち着いて」
リンフィアの顔に免じて手を離してやった。
流石に大人気なかったか。
こいつのアイス一個減らすので勘弁してやろう。
まぁ、帰るのは正直どうでもいい。
どうでもいいんだが、軍の連中と一緒に指導するとなると話は別だ。
ぶっちゃけ面倒くさい。
帰りたい。
帰っているけれど帰りたい。
「ああああああ………ダルイなぁぁ………」




