第595話
「以上だ」
三帝の背景。
レイ達は学院にいた理由。
それらと、ここに至るまでの物語を聞いた俺たちは、言葉を失った。
トモは何もいう様子もないので、恐らくこれが言っていた、人間界の均衡を崩す原因なのだろう。
「わかったろ、ケン。こいつらが話したくなかった理由。こいつらは未だにこの時の事で罪悪感に囚われてるんだよ」
「………ああ」
わかる。
だが、完全にはわからない。
こいつらの痛みは結局こいつらにしかわからないのだ。
だが、家族を失う事。
目の前で失う痛みは、よく知っている。
「じゃあ、戦争を止めたいと言っていたのは………」
「もちろん、この手で直接手を下すためだ。他のやつに負けるなんてことがあれば手を下せないし、勝たれてもこちらの勝ち筋がなくなってしまう。まぁ、今となってはごちゃごちゃしていてそれも出来そうにないがな」
「………」
なんと声をかけるべきだろう。
いや、下手な慰めは侮辱になる。
関わっていない俺達には何もいえないのだ。
「そんなに気に病むな。別にどうこうして欲しいわけじゃない。話して置きたかっただけだ」
そう言われれば助かる。
俺ができるのは、せめて協力する事くらいだが、それも難しそうだ。
これについては、言っておくべきだろう。
「ひとつ、言っておいていいか?」
「? ああ」
「もしかすると、お前たちは、永久に復讐の機会を失うかもしれない」
「「「!!」」」
俺はそれについて話した。
「ルナラージャ王妃との話しを聞いていたのはレイ達だよな? そこで確かに言ってたんだろ? 自分の国が滅ぶ云々って」
「ああ。間違いなくそう言っていた」
レイとルイは確認する様に視線をあわせると、一緒に頷いた。
「おそらく、天崎達ルナラージャ組の転移者が無茶苦茶強い理由はそれだ。1から説明すると………」
——————
国を滅ぼすには二つの方法がある。
まず一つは、単純に武力で滅ぼすこと。
これは誰もが思い浮かぶだろう。
そして今から説明するのは、親父の予言を見た時に俺が実践しようとした方法だ。
簡潔に説明すると、特異点を倒せば、その国から神の力を奪えるのだ。
特異点は神にとっては剥き出しの臓物。
神に彼らが重宝される理由はそこだ。
特異点が死ねば神は失墜し、国が滅びる。
恐らく、予言の人間界統合も、事実上の統合とは別に、力の収束も兼ねてのことだろう。
全て滅ぼして、人間界唯一の国になる。
それが統合の正体だ。
ここからが複雑なのだが、恐らくルーテンブルクでは、二度召喚が行われている。
一度目の特異点は、おそらく天崎 命に倒させたのだろう。
国が滅んでいないのは、バグのようなものだ。
知っての通り、転移者がいなかった期間も存在する。
故に、その状態と同義だとされたのだろう。
ウルクも“喰らう”と発言したことから、恐らくルーテンブルクを狙っている。
故に二度あったと判断したのだ。
ここが本命だ。
つまり今回は、喰われれば本当に国が滅びる。
何が起こるのかはわからない。
神の知恵でも、何故かそこはわからなかった。
しかし、間違いなくなんらかの災害は起こるだろう。
何せ“滅ぶ”のだから。
俺は、それを3人に説明した。
——————
「という訳だ」
3人は言葉を失っていた。
まさかこんな形で復讐の機会を失うかもしれないとは思っても見なかっただろう。
だが、こうやって振り返って状況がはっきりしたおかげで、直前までトモと話していた件がうまくまとまった。
「均衡が崩れるってのはこれなんだろ? トモ」
ポイントは天人だ。
ただ、それだと本質と異なってしまう。
天人と関わりはあるのだが、問題はその先。
天人の研究を手にし、敗北したルーテンブルクを恐らくだが下につけたであろうルナラージャ王妃。
即ち、敵の王室だ。
「研究を終えたルナラージャ王妃が天人を増やし、かつそこに新たにルーテンブルクを喰らったウルクが加わる事で、圧倒的にルナラージャが強くなってしまう事」
ちなみに、とトモは付け加える。
「先日そこのリンフィアちゃん達が見つけた、 “飴玉” のような物質。あれが天人の研究の末に生まれたものだよ」
「!」
どういう風の吹き回しか、トモが情報をくれた。
やはりこの程度の補助、というか情報はくれるようになっていたのか。
「推察の方だけど、正解だよ。そしてその結果、我々神は先代命の神を天に逆らう叛逆者と認定………と言いたいけど、さっき言った通り神はプライドが高いからね。人間に多少協力する程度でしか手を下さないつもりだ。まぁ、奴が勝ち残れば直接いくだろうけど、ミラトニアが滅べばもう遅いからね」
「ごちゃごちゃしてきたな………」
まずい。
流石にニールの頭は容量オーバーしていた。
「仕方ねぇ………それじゃあ、俺たちがこの国に入って以降の事を簡単に説明するぞ」
俺は頭から説明を始めた。
——————
まず、俺たちがこの国に入った理由は、建前では偵察だが、実はこの小数で、ルナラージャと統合される前にルーテンブルクを滅亡させる事が目的だった。
そのため——————警戒されないために俺たちの素性を隠しつつではあるが——————俺たちはまず元奴隷で構成された【反乱軍】に陽動をしてもらうべく、奴隷を解放して軍を拡張していった。
そして陽動中に、つまりルナラージャがこちらに集中している間にルーテンブルクに攻め入ろうという計画だった。
これが最初の作戦。
流石に両国の特異点と転移者を相手取るのはきついと思ったが故の作戦だった。
だが、その途中でウルクが離脱。
俺たちが滅ぼす前にルーテンブルクを攻めるつもりだと判明。
しかし、今度はその場合ルーテンブルクの特異点を取り込んだウルク、もといルナラージャが強くなりすぎてルナラージャの一人勝ちとなってしまう。
ただ、ウルクの件は神が行った、いわば反則のような手段だ。
公正を期すためか、神によって俺たちは何らかの補助を受けることが決定した。
——————
「こんな感じか」
あらすじは説明できた。
やはり、改めて思い知らされる。
この作戦は、既に破綻している、と。
「どうするケン。計画の続行は難しいだろ?」
ファルグはドンピシャでそこを尋ねてきた。
やはりこいつも無理だと思ったのだろう。
「そうだな。だからまぁ、こいつらに聞いてみればいい」
トモがそこまでいうという事は、チビ神に従えば、確実にミラトニアには益がある。
ならば、所々判断しつつ、従ってやろうじゃないか。
俺はチビ神に視線を向けた。
「策があるんだろ? 物は試し、とはちょっと違うが、聞くだけ聞いてみてやる」
チビ神はコクリと頷きこう言った。
『こうなった以上、できる事といえば奇襲くらいと思う。だから、こちらから仕掛ける』
——————やっぱりか。
俺はスッと目を伏せた。
するつもりはなかった。
だが、こうなった以上、リスクが少ないのはこれだ。
『やるしかない。戦争だ』
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時を同じくして、ラクレー達も過去の話を終えて、そこで出た最終的な決断を下しているところだった。
「今日ここに集った理由。それは、再び三帝となった意味を確認する事。そして、磨いてきた剣を抜く準備をする事」
目を閉じ、ラクレーは思い出す。
あの日、自分が知った悲しみを。
怒りを。
そして、誓いを。
「ファルグもレイもルイも、きっと動いてくれる。
あの時宣言したように、あたしが先陣を切る。だから、よろしく頼む」
ラクレーは、今まで封じてきた呪印を解放する。
そして目標を掲げ、己を鼓舞させた。
「狙う首はひとつじゃない。我らが望むは王室の滅亡。さぁ、戦争だ」




