第59話
「じゃあ早速こいつらに指示を出してみろ。無強化で片手で逆立ちして相手してやるから、一撃でも俺に喰らわせられたらお前らの勝ちだ。ちなみに俺からの攻撃はないし、スキルも使わねーから安心しろヘビ公」
「シャーッ! バカにしやがって〜〜!」
と、勇んでいるが俺と目を合わそうとしてないのでかなりビビってはいる。
「舐めてくれまするね」
かなりのハンデだが、指示次第では達成できなくはない。
「みんなーこっちきてくれ」
ラビはモンスターたちを集めて作戦を練り始めた。
俺はうっかり聞いてしまわないように少し下がる。
まずはゼロの状態でどこまで出来るか知りたい。
もしかしたら才能があるかもしれないし。
「………で………だ。」
結構しっかり作戦を練ってる。
聞こえないが、ほかの2匹もマジメに聞いているのでそれなりにちゃんとしてはくれそうだ。
「ん、終わったか?」
どうやら終わったらしい。
「うん。じゃあいくぞ、ししょう」
すると、ラビの雰囲気が少し変わった。
凄まじい集中力だ。
「へぇ?」
これは思った以上に期待できそうだ。
「ちれ!」
掛け声と共にスラ左衛門とヘビ右衛門は物陰に潜んだ。
悪くない。
突っ込ませるのは完全にアウト。
まずは隠れさせるのが正解だ。
「さて、お次はどう出る?」
物音はする。
位置もそろそろ掴みきれる。
これでは隠した意味はない。
ま、この程度か。
と思った瞬間。
「いち!」
「?」
いち、1か? 何かの暗号であるのは間違いない。
「………もう少し様子を見るか」
まだ何か策があるのかもしれない。
そして、俺はその暗号の意味を理解した。
「………音が、増えてる?」
音が増えている。
二箇所からの物音が三、四、と増えているのだ。
つまりこれは、
「ははぁ、スライムを分離させたな?」
スライムは分離ができる。
それはスライム族特有の能力であり、弱小モンスターであるスライムの数少ない強みだ。
分離で、本体を逃がすことも可能。
単純に攻撃の手数を増やすことも可能。
割と便利である。
それをここでこんな風に利用するとは、
「いいねぇ、頭のいいやつは嫌いじゃないぜ」
スキルが使えない以上、本体の特定はできない。
しかし、場所の把握はできる。
後はその方面からの攻撃を警戒すればいいだけだ。
「に!」
ラビは次の指令を出す。
“に”は2のことだろう。
今度はなんの指令か………
背後から影が飛び出して来た。
それは俺へまっすぐ突っ込んで来た。
「まあ、攻撃だよな」
俺は腕を曲げてヒョイっとかわした。
飛んで来たのはスライムの一部だった。
スライム片はそのまま草むらに入っていって、再び紛れる。
「ラビ、単調な攻撃じゃ当てらんねーぞ」
「………………」
聞いていない。
それだけ集中しているのだろう。
「ダメ………ししょうは………うん、そうだ………いや………」
何か思いついたらしい。
それにしてもあの騒がしいガキがここまで真剣に来るとは思わなかった。
余程強くなりたいらしい。
それもそうか、これは母親との約束だ。
「さん!よん! さん! に! さん! に!」
「多いな」
すると、草むらからの音が徐々に大きくなっていく。
更にわからなくするつもりだ。
4は撹乱か。
ガサガサという音が、周りのいたるところから鳴っている。
「いくぞ、ししょう」
「ああ、見せてみろ」
ビュンッ
スライムだ。
また背後から突っ込んで来る。
しかし、先ほどよりスピードが遅い
これはフェイントか?
いや、まだ結果を出すのは早い。
俺はじっくり観察した。
そして、それに気がついた。
「ハハッ、ブラインドか!」
スライムの後ろに、それより一回り小さなスライム。
それは空中で2段階移動する。
「いいぞ! なかなかだ!」
俺は一体目を普通に躱しつつ、2体目を腕の間を潜らせて避けた。
実はこの時既に別の動きがあった。
ヘビだ。
俺の死角を狙って素早く突っ込む。
だが、俺もそこまで簡単にやられる訳はない。
「死角を狙うのはいいが、俺も注意を払ってないわけじゃないんだぜ?」
「!」
俺はサーペントの首根っこを掴む。
逆立ちしてるので、体勢がきつい。
「ぎゃーーー!! 斬られるううううう!!!!」
「お前よっぽどトラウマだったんだな………っと」
ヘビを足に絡ませてホールドし、今度は地面を這って来ていたスライムを捕獲する。
「全く油断ならねぇな」
「ふ、不覚にございまする」
2体とも捕獲。
逃げられないようにしっかり捕まえている。
だからこれで終了………ではなかった。
「ラビ」
俺は頭上から落ちて来る石を蹴って弾いた。
「うわーっ! きづかれてた!」
「惜しかったな」
確かに俺はラビの攻撃は禁止だとは言ってない。
無いと思っていたが念のため警戒していてよかった。
「あーあ、あてられなかった」
「いや、上出来だ。まさかここまで考えてるとは思って無かった。日頃何かやってたのか?」
「ははうえとしょうぐんごっこしてた」
「将軍ごっこ?」
「うん。きめられたすうちないで、こうげきとか、ぼうぎょとかのせんりょくと、ワナとか、たてものとかをきめてしょうぶするゲームだ」
あの人子供相手にえらい小難しいゲーム教えてんな。
「さいしょはボッコボコだったんだ」
そして容赦ない。
ボッコボコって。
「でもだんだんていこうできるようになってったんだ」
「へぇ、だからここまでの策が練られたのか」
琴葉とは大違いだ。
あいつは一度、俺ン家の信長の◯望貸したら開始数分で死んでたからな。
世界記録かもって早さだった。
「ラビ、お前には知略を練る才能がある。多分並みの才能と比べ物にならない才能だ」
「うはははは! そうだろ! 負けちゃったけど!」
「そこを認められんならお前は伸びる。素直な奴はすぐに色々吸収するからな。忘れんなよ」
「うん!…………にひっ」
ラビはニヤリと笑った。
何かいいことでもあったのだろうか。
しかし、残念だがラビよ。
そうはいかない。
俺は手を上にやってそれをキャッチした。
「え゛」
鳩が豆鉄砲喰らったような顔だ。
「………お前、本当伸びると思うぞ………はっ」
今度は俺が笑った。
ラビはものすごい顔になって悔しがっていた。