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第586話


 あれから数日。

 ラクレーはファリスからその話を聞いて、とりあえず、脱出する算段がつくまでこの子供たちも面倒を見る事にした。


 脱出は5日後。

 その日、ファリス達が保護できるよう手配した馬車がスーランに来る手筈となっている。

 だが、逆を言えばそれまで動けないのだ。

 国王が来るのも5日後。

 どうにか先に来てくれればいいが、気を揉んでも仕方がない。

 とりあえず、今は子供達と過ごすほか無いだろう。

 ラクレー達は一抹の不安を胸に押し込み、5日間を過ごすのだった。





——————





 子供たちは、やはり普通の子供となんら変わらなかった。

 身体能力、性格、思想。

 普通に育ち、普通に過ごしていた。


 もちろん夢も持っている。

 ある子は冒険者になる夢をもち、また別の子は立派な学者になる夢を。

 そしてある子は、外の世界に出る夢を持っていた。

 大小あれど、多種多様。

 自由で正直な子供らしい夢だ。

 

 この子らは、自分達のことと外の世界を知らないだけの普通の子供だ。


 外の世界を知らないというのは、ラクレー達にとっては大した事だが、ここの子供達にとっては何でもない。


 だからこそ、何も知らないまま、ちゃんと外に出してやらなければならないのだ。





 「ねえねえおねえちゃん!」


 「うん?」



 ラクレーも、そこそこ慣れてきていた。

 レイ達とそう変わらないのが幸運だった。



 「おねえちゃんはおひめさまなんでしょ?」


 「うん。そう」


 「じゃあ、ドレスとかもってたのっ?」


 「クローゼットじゃ収まらないくらいあった」



 まぁ、着ないけど、とは流石のラクレーも言わなかった。



 「わぁ! すごい!! ラルも、大きくなったらおひめさまみたいなきれいなドレス着るの!!」


 「うん。いいと思う。きっと似合う」

 


 少女は嬉しそうにニッと笑った。

 少女の名はラル。

 ここにいるたくさんの子供の中で、特にラクレーになついていた。

 本人は知らないが、実験直前の実験体だった。

 実験が終了したことで、ギリギリ犠牲になるのを免れたのだ。


 性格は、このように明るい。

 ただ、人の輪に入るのは少し苦手らしい。

 まぁ、個人個人とは仲はいいので問題はないが。

 絵が描くことが好きで、さっきも絵を描いていた。




 「ラルは、絵が好きなの?」


 「うん! ラルはね、おそとにでたらいろんな絵をかきたいの!」


 「したい事がいっぱいある?」


 「いっぱいあるよ!! えっとねえっとね………」



 

 子供というのは、意外と表面的な性格ではなく、本質的な性格を見抜いたりする。

 特に、ラルのように人が苦手だとそうだ。

 それ故、結構無愛想なラクレーでも十分好かれていた。




 「………じゃあ、よかったね」


 「うん?」


 「5日後、みんな一緒に外に出られるよ」


 「ほんとに!?」



 ラルは目を輝かせた。

 どうせ後で知られる事だ。

 言っても問題ないだろう。



 「うん。本当」


 「じゃあ、おそとでお絵かきできるかなっ」


 「他のしたい事だって出来る。外は広いし、色んなものがあるから。全部出来るかもしれない」


 「ぜんぶ!? やったぁ!!」



 無邪気にはしゃぐラルを見て、思わず顔が綻ぶ。

 なんだかレイを見ているような感じだった。

 そうだ。

 この笑顔を絶やさないためにも、天人としての力をうまく使えるようにならなければ。

 何が何でも全員外に連れ出す。

 そして、レイやルイも取り返す。



 「………………………頑張らないと」



 ラクレーは人知れず強く決心していた。








———————————————————————————







 それから2日。

 ラクレーは、ラルと話したり他の子供と遊んだりして過ごしていた。

 ファリス達もだいぶ子供達と打ち解け、もうすっかり人気者である。

 

 ファルグは、何故か逆らうそぶりを一切見せる事なく不自然なまでに大人しかった。

 かえってそれが不気味だったが、逆らわないに越したことはないので、気にしないことにした。







 そして、子供たちの相手をしていると、突然ルアナがやって来た。



 『求。ラクレー。同行ヲ願ウ』


 「? わかった」



 ルアナはラクレーをそのまま部屋を出ると、廊下の奥へ進むよう促した。



 『コチラダ』



 2人はそのまま、馬鹿みたいに長い廊下を歩き始めた。

 元々口数の多い方ではない2人は、特に会話もなくずっと歩いていた。



 「………」


 「………」



 不思議な事に、気まずいとは感じないラクレー。

 何故だろうか。


 そう思っていると、


 

 『問』


 「?」


 『何故戻ッテ来タ。ベラクレール』


 「!!」



 ルアナは、教えていないはずのラクレーの本名を入れつつそう言った。

 どうやらラクレーのことも知っているらしい。



 「何でそれを………」


 『然。ココニイタ子供ハ全員知ッテイル。オ前達ガ拘束シテイルファルグモダ。ソシテ、ルイ達兄弟モ』


 「そう………じゃあ、ずっとここで子供を育てていたの?」


 『答。肯定。私ハズット、ココデ子供達ヲ育テテイタ。ソノ犠牲者モ………』


 「………」



 確かに。

 まともな人間では気が触れるだろう。

 普通では務まらないし、普通でない悪人はそんな役目は果たせられないのだ。

 それ故のゴーレム。

 永久に何も悔やむことなく、務めを果たすことができるのだ。



 そのはずなのに、ルアナの声には、何処か後悔のようなものを感じたのだ。




 『今言ウコトデモナイダロウガ、ルイ達ヲ脱出サセタノハ私ダ』


 「お前が………!?」


 『アノ2人ハマダ幼カッタ。外ニ出テモ、ファルグノ様ニ上手ク覚醒出来ナイダロウ。ダカラ、協力者ニ頼ンダノダ。度々ヤッテクル、城カラノ使者ダ』



 あの2人が城に来るまでに誰かの助けがあったと言う事は、ファルグも予想していた。

 ルアナだったのだ。


 そうやってラクレーが納得していると、ルアナは立ち止まった。



 『ラクレー。ソノ協力者カラ連絡ガ来タ』


 

 そして、物語の終わりは、徐々にラクレー達に近づいて行くのだった。



 『王ガ予定ヲ早メタ。王ハ、間モ無クココヘ到着スル』



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