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第583話



 「くそッ………………目覚めやがったのか………」



 ファルグは悔しそうにそう呟いた。

 目覚めた、というのはラクレーの力のことだろう。

 呪印の強化力は、強化二級魔法のカルテット・ブーストにも及ぶ。

 そして、そこにトリオブーストを加えたことにより、ラクレーの今の力は————————




 「………………ふッ………!!」


 「!!」




 強化一級魔法・【クインテットブースト】をはるかに超えている。



 「チィッッ………………!!」



 ラクレーは凄まじいスピードでファルグに迫り、手始めに直突きを見舞った。

 まるで消えたかの如く錯覚するスピード。

 そしてそのパワーは、



 「ぐ………ぅおッッ………!?」



 ファルグが後方に流した力だけで、壁に巨大なヒビが入るほどだった。


 地下だからというのもあるが、たった一撃だけで凄まじい衝撃を起こし、大地を揺るがしたのだ。



 「これじゃ戦えない………」



 ラクレーは視線をファリス達の方へ向ける。

 そして、ファリス達を連れて来たローブの男の背後に立ち、首を抱える。



 「借りるよ」


 「ッ!? が………ァ………………」



 高速で顎に一撃を入れつつ、脳を揺さぶらせ、気を失わせた。

 そして、そこから剣を引き抜く。



 「………うん」



 一薙すると地面にスゥッとか細く深い線が入った。

 衝撃は斬撃に。

 攻撃の重さを全て鋭さに変える剣撃は、たとえ天人だろうが簡単に切り捨てるだろう。


 だが、忘れてはいけない。

 彼も天人だという事を。




 ファルグは腰に下げた剣を抜き、構えた。

 そして、



 「…………【炎龍】」


 「!!」



 龍のように蠢き、燃え盛る炎をその剣に纏わせた。



 呪印。

 それは魔法とは違い、1人一つしか使えない限定的な力。

 しかし、魔法とは比べ物にならない程強大な力だ。

 属性相性を無視するほどである。

 七属性のいずれかを1人一つだけ所有者し、形や副次的な効果さえも自在に操る。

 例えば、呪印・炎紋を持つ者なら、炎の他に熱や溶解、陽炎を用いた幻覚などの派生も可能。

 更にMPが減らない。


 そして、前にもあった通り、呪印の所有者は肉体が頑強になり、自然治癒力も生まれ、肉体強化や防御結界も作り出せる。

 肉体強化や防御結界はMPの消費を伴うが、何度も使うわけではないので、やはりその辺りのリスクは小さい。

 



 これが呪印だ。




 「殺しはしません。動けないように手足をもぐ、なんて真似もしません……………もう一度寝ていて貰うぞ、ラクレー王女」


 「………!」



 ファルグの呪印も、ラクレー同様に黄金に光る。

 天人のみに許された、魔法と呪印が入り混じった事で生まれる光だ。


 そして、



 「「ハァァアアアアアアァァァッッッッ!!!」」



 光は交差し、鈍く高い、刃の音を響かせた。



 「くッ………………ぅ、ァアアアアァァッッ!!」


 「ぐッ………………ガァアアアァァァッッ!!」



 とてつもない速さで繰り広げられる剣戟。

 刃を服を掠め、時に肉に触れ、火花を散らしながらぶつかり合う。


 死を感じる。

 鋭く肌を締め付け、心臓を撫で回すような緊張感を、初めて知ったラクレー。

 これが実戦。



 恐怖は当然ある。

 比喩ではなく、お互いがお互いの命に手をかけているこの状況が、いかに恐ろしいか強く実感している。


 その上で、ラクレーは感じていた。


 今まで知り得なかった、全身を打ち震えさせ、脳髄まで染み渡るような、溢れんばかりの歓喜を。




 「チッ………嫌だねぇ天才ってのは………こうもあっさり実戦の勘を掴むのかイ………」



 初の実戦にも関わらず、巧みに体を運び、臆する事なくラクレーは戦っていた。

 どちらかというと、防御を捨てているような戦いだ。


 戦いを心の奥底で楽しんではいるものの、やはり表に出ている怒りが、緊張やら何やらを全て消し去っているのだろう。

 

 しかし、




 「それがどうした」


 「!!」



 ラクレーは、瞬時に身を引いて、迫りくる炎を何とか躱した。

 だが、まだ妙な気配を感じる…………下だ。

 着地と同時に再び飛んで身体を浮かす。


 すると、地面がドロドロに溶けていた。

 これでもまだ、気配は消えない。


 いや、待て………………



 「くッ………やっぱり………………」




 辺りの空間が歪んで見える。

 所どころから感じる強い熱と、視覚撹乱のための陽炎を巧みに操り、一気に形成を逆転させる。

 模擬戦でも、何度も見せられたファルグのとっておきだ。

 それに、これはいつものものとは訳が違う。

 魔力が散りばめられれいるせいか、気配もまばらだ。



 それ以前に、この力の差では、いきなりの襲撃に対応出来るかわからない。



 どうするか………









———————







 「まずいな………」



 ギルファルドは2人の戦いを見てそう呟いた。

 恐ろしいまでに高レベルの戦いだが、2人もまた熟練の冒険者だ。

 内容はちゃんとわかっている。

 分かった上で、マズイと判断していた。

 


 「三級魔法では追いつかないか………!!」



 そう。

 前提として、2人には圧倒的な経験の差があった。

 しかし、ラクレーが持つ天性の勘の鋭さと、戦いのセンスによって、なんとかそこをカバーしていた。

 何とかカバーしていたが………今度は魔法で負けている。

 どうにか次の手を撃たなければ。



 「そう焦るな、ギル」



 ファリスは至って冷静にそう言った。



 「機を待て。私も今、それを探っている」


 「何だと………?」








———————







 視界は当てにできない…………


 ならば直感を信じろ。

 当てずっぽうではない。

 気配ではなく、感情を………殺気を感じ取れ。


 どこだ。

 どこにいる。

 ………まぁ、わからないだろう。

 だが、それで構わない。


 今捉えることが重要ではない。

 

 捉えるべきは………





 (直前で膨れ上がる殺気と、斬撃の位置!!)




 「!!」



 見えた、頭上…………いや、




 「背後ッッ!!」



 完璧に反応を合わせるラクレー。

 これを防ぎ、一刻も早く体勢を立て直す。

 それがセオリーであり、唯一取れる行動だ。



 ならば当然、敵はそこを潰してくる。

 ファルグが狙ったのはラクレーではない。

 狙ったのは、




 「惜しかったな、王女」


 


 その瞬間、ラクレーの剣が頭上からカモフラージュのため設置されていた炎の龍に跳ね飛ばされた。

 二重トラップだ。




 「今度こそ、眠ってて貰うぞ………王女」


 「………ふふ、お前の負けだよ。ファルグ」


 「は………? 何を言って………………」


 


 ファルグはここでようやく、視野が少し広がった。

 視線の先にいる女に、何故気付かなかった?

 答えは簡単だ。

 この拘束具を、よもやこれほどまでに堂々と無視しているなんて思ってもいなかったのだ。



 詠唱完了。

 対象は既に定められ、後はこのように口に出すだけ。



 「この————————」



 「———————クインテットブースト」







 真っ白いオーラは、その黄金の光と混ざり合い、ラクレーを包む。

 肌をひりつかせる様な圧は、まるで巨大な化け物に変わったかの如く、周囲の人間を誰彼構わず押しつぶした。

 まるで災害だ。


 周囲にいた3人は、その瞬間に感じた事だろう。



 圧倒的、そういうものの権化を。




 ラクレーに向かった武器を、彼女は難なく躱し、剣の間合いよりうちに入り込み、手首に可能な限りの打撃を加えた。



 「ぐッッ!?」



 緩んだ瞬間に燃え盛る頭身を弾いて剣を横に飛ばし、柄を握る。


 この間、1秒にも満たない。

 たった一つの魔法で、形勢は逆転し、そして、




 「油断なんてすると思うな」




 呪印の光が一気に強まる。



 この状況………


 かたやファルグは大技の直後で武器を無くし、かたやラクレーは最大まで身体強化をし、温存していた力を全てここで使うつもりだ。



 この瞬間、ファルグは悟った。


 そうか。

 俺はいつの間にか、こいつのシナリオ通り動いていたのだ、と。




 「………………はッ………負け、か」




 ラクレーは剣を強く握りそして—————————

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