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第579話


 「ファルグが………天人………!?」



 信頼する人物から突如明かされた驚愕の事実。

 ラクレーは予想だにしていなかったことだろう。

 だが、



 「あたしとどっこいくらいの強さなのに………」


 「そっ、そんな事ないぞ!! ………って、そこ!?そこで驚くか!?」



 ラクレーはすぐさまシラーっとした顔をしていた。



 「だって、天人って凄く強い種族かと思ってた。なのにこれじゃ………………はんッ」


 「あ!! ちくしょうこいつ鼻で笑いやがった!! しばく!! 絶対しばく!!」



 あんな事実が明かされた後にも関わらずあまりにもいつも通りだった2人を見て、ファリスとギルファルドは唖然としていた。



 「お前ら………それでいいのか?」


 「………驚かないのかね?」



 ファリスたちの質問に目をパチクリとさせるラクレー。

 そして、何一つ混じり気のない本心で、ラクレーはこう言った。



 「なんで? 凄くどうでもいいことじゃないの?」



 「「なっ………………!?」」


 「そうだ、こんな奴だった………」



 そう。

 ラクレーはこんな人物だった。

 ただひたすらに純粋。

 ダグラスの弟………ラクレーにてんちょーと呼ばれ親しまれているサクラスや、弟子である蓮は苦労するが、この純粋さは当然、人の救いとなる時もある。



 「ただ、天人っていうのは気になる。教えてほしい」


 「さっきあんだけ無視しといてか」


 「うん。ごめん」


 「う………素直に謝んないで下さいよ」



 ラクレーはわがままだが素直なのだ。

 だから、謝る時はちゃんと謝る。

 

 こんなだから、怒るのがバカらしくなって、基本的にみんな何も言わないのだ。


 ファリスはバツが悪そうに頭をかくと、少し間を置いて話し始めた。



 「天人………それは、とある目的の為に作られた一つの“種族”だ」


 「それは我々も調べたよ。あらゆる種族より優れた人間を作り出すことが目的に作られた人工の種族。それが天人だろう?」



 ヒューっ、とファルグは口笛を吹いた。



 「よくご存じで」


 「これくらいの情報なら持っているさ。………そして、その為に優れた両親を持った子供がここに集められているという事もね」



 少しトーンを落とした声でギルファルドはそう言った。

 何やら穏やかな様子ではない。



 「その様子だと、あの事も知ってるって判断しても?」


 「実験のことかね?」


 「! なるほど………ついに漏れたか」



 ホッとした様な、寂しい様な表情を浮かべるファルグ。

 そうか、そうか と呟くと、続きを語り始めた。



 「何分未知の事だらけの計画。当然人体実験も行われた。子供を犠牲にしつつえた実験結果をまた別の子供に施し、成否を確かめる。失敗すれば次へ、その後も次へと、実験は繰り返された。俺のいた時に成功したのはたった1人だ」


 「それがお前か」



 ファリスは納得した様子でファルグを見た。

 しかし、



 「いや、違う」



 なんと、その1人はファルグではなかった。



 「は?」


 「それは後で説明するが、とにかくそれは俺ではなかった。そして、その後一度実験は停止する」


 「ミラトニアの政権交代だね」



 ギルファルドの言葉を肯定する様に、ファルグは頷いた。



 「そう。アルスバング・ミラトニアからアルスカーク・ミラトニアへ。そして、アルスカークはこの実験支援を止めた。理由は知らん。だが、これがデカかった。ミラトニアは人間界で最も規模の大きな国で資金力があったからな。抜けた穴は塞ぎきれなかったわけさ」


 「その様子だと、実験は続いた様だね」


 「ああ。しかも、これまで以上に尸を増やして、な」


 「っ………………」



 ラクレーの表情が歪み始める。

 流石に酷い話だ。



 「さて問題だ。死んだガキがどこに行くと思います?」


 「………どう、してるの?」



 ラクレーがそう尋ねると、ファルグはゆっくりと口を開いた。



 「この泉。ここに生息するモンスターに食わせる。失敗作が唯一世界を見る瞬間は、この世界を去る直前っつー最高にクソな話だ」


 「ファルグは失敗作だったの………?」



 「表では。だが、俺の場合外に出て死の危機に瀕した瞬間呪印が発動したのさ。それがきっかけで、呪印所持者の戦闘力強化と地下で散々やらされた強化魔法での相乗効果で大人顔負けの力を得た俺はモンスターを瞬殺した。これも天人の強みだ」


 「………じゃあ………レイとルイも………いやでも、あの2人は………」



 そう。

 当時2人はまだ物心も付いていない赤子。

 いくらなんでも無理だ。



 「そこは俺も知りませんよ。多分、誰かが助けたんでしょう。というか、同族だってことは最近まで俺も知らなかったですよ」


 「そう………」


 「この後は………まぁ初めて出た外だから色々苦労したな。後はラクレー王女も知ってるでしょ。7年前、俺が12歳だった頃だ」


 「うん。最年少で最強の騎士だってメイド達に自慢して回ってた時期でしょ」


 「止めて死にたくなる」



 あの頃は若かったんだ、と頭を抱えて唸っていた。



 「ともかく、そこから俺は一切連中と関わりはない。死んだと思われているだろうからな。だが、俺はずっとここを気にかけていた。あのガキどもが天人というのは、陛下から聞いていたし、城内で可能な限り情報収集はしていた。そして喜べ、陛下は外道どもとは関わりがない!」


 「!」



 わずかに力ませていた拳が緩んでいく。

 ラクレーはそれはもう安堵した。

 なんだかんだ父が悪人でないと知れて良かったと思っているのだ。



 「じゃあ、誰が関わっていたかというと、その下の大臣やら騎士やらだ。そして、実験場はここにあるものの、一番力を入れているのはルナラージャだ」


 

 そこまで言い切ると、ファルグはパンッ! と手を叩いて話を終わらせた。



 「とりあえずはここまで。それじゃあ入るとするか」


 「入る? 入り口らしきものも魔法具も見当たらないが………」



 ファリスは魔力感知力が相当高い。

 しかし、それでも近くにそれらしい物は見当たらなかったのだ。

 だが、それも当然のこと。



 「そりゃそうさ。だってな………」

 

 

 ファルグは手を強化し、地面をくり抜く。

 すると、小さな摘みが出てきた。

 それを引っ張ると、




 「「!?」」



 地面に人が2人程入る穴が出てきた。

 そして、壁から梯子が出てきて、薄ら明かりも付いた。




 「なっ………なんだこれは………」


 「魔法文化ばっか発達してっからこんな簡単なことにも気づかないんだよ。簡単な装置だ。この摘みを引くことで、地下にある装置が動いてここが開く。魔力は一切使われてないから、知っている奴にしか絶対にわからない」



 暗い穴だ。

 ここで、今聞いた様な非人道的な実験が行なわれている。

 正直、父が関わっていないと知った今、入る理由もないラクレーだが、それでもレイ達やファルグがそんな実験の被害に遭っていたという事なら見過ごすわけにはいかなかった。

 何より、何も悪くない子供がそんな事になっている事を許してはいけないと思っているのだ。



 「………よし、行こう」



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