第578話
「あー………バレたらクビだなこりゃ」
ファルグは馬車でそう溢した。
「別にいいと思う。養う家族もいないし、どうせ一生独り身」
「おっと、人の心を城に置いてきたんですかイ? 直ちに真人間に戻るべく城に帰るのをお勧めしますよ」
「戻ってもいいけどクビだよ?」
「誠心誠意働かせて頂きます………っと! うーわ、モンスターが湧きやがった」
ファルグは鞭を打って馬車を加速させた。
あまり余計に人を連れたくないと言う理由で、馬車は自分たちで動かそうと言うことになったのだ。
「防護系の魔法を馬車にかけてるから、無視して突っ切ってくれ。正面だけは倒しつつな」
「ん、了解」
ファリスの指示通り、ファルグは正面の敵だけを相手取りながら馬車を進ませた。
そんなその状況は一切気にせず、3人は中で雑談をしていた。
「へぇ、お前達仲がいいんだな」
ファリスは意外そうにそう言った。
確かに、ミラトニアでは見ない光景だ。
「従者相手だったら普通だと思う」
「そうか? 私の国の王族なら考えられんがな。ルナラージャなら即刻死刑だぞ」
「ふぅん………結構窮屈だ」
ラクレーは興味なさげにそう言うのであった。
「ま、違いはあるよな。あ、そういえば湖に向かってるんだったよな。なんで湖なんだ?」
そういえば、とラクレーはまだ詳細をファリス達に伝えていないことを思い出した。
やはり、この頃もラクレーらしいマイペースな性格をしていたらしい。
「うちの従者………と言ってもまだ子供だけど、その子達から聞いたはなし。もしかしたらその計画とやらに直接関わってたかもしれない」
「子供………ッ!?」
ファリスは突然顔色を変え、その話題に食いついた。
ギルファルドからの視線も強まる。
「くっ、詳しく教えてくれ!!」
「わかった」
——————
ラクレーは、レイ達から聞いたはなしをファリス達に伝えた。
「………という感じ」
「間違いないな………やはりまだあそこには子供がいる様だな………クソッ」
ファリスはドンッ、と床板を叩いた。
「ベラクレール………だったか」
「ラクレーでいい」
「ラクレー。お前、天人計画というものがどう言うものか知っているか?」
「知らない。城で調べても何もわからなかった」
「やはりそうか。王城ですらわからないと言うことは、やはりごく一部の人間しか関わっていないという事だ。あの禁じられた……………」
ファリスが続きを言おうとしたら、馬車が停車した。
山奥の広い湖の辺りだ。
目的地に着いたらしい。
「ふむ、着いた様だ。ファリス、ラクレー。話は後にしよう」
——————
4人は馬車を降りると、辺りを散策し始めた。
「田舎だ」
ラクレーの第一声はそれだった。
確かに、人っ子一人いない田舎だ。
「よくここまで道がわかったね」
「ここ、来たことあるんでね。いつだったかな…………」
「ふぅん」
「あ、おいオメー、もうちょい興味持てよ。ふぅんって言いながら向こう向く時どうでもいいって思ってるの知ってんですよ。おーい!」
聞いていない。
そのままフラーっとファリスの方へ行った。
やはり、どこまでもマイペースである。
「で、どうする?」
「湖、それに窓のない部屋。多分この辺りの地下への隠し通路がある」
やはり、と思いつつ辺りを見渡す。
ただ、見ての通り、湖周辺だけでもかなりの範囲。
しかも、それらしい隠し場所もない。
これは苦労しそうだ。
「おーいラクレー王女」
「どうやって探す?」
「魔力波を感知しようと思ったが、その辺りも対策をされてるだろうからな。地道に流すしかない」
「そう………」
「ちょーい。話を聞けよ」
「うるさいファルグ」
「え、酷い」
「落ち着きたまえよお嬢さん。少しくらい聞いてあげてもいいのではないかね?」
「いや。どうせ適当なことを言う」
「おいマジか。ちょっとは信用しろよ」
「それはいいんだが、早く探さないか?」
「わかった」
「やれやれ………すまないね、青年」
「はぁ………いいよ別に。あとで落ち着いた頃にこの下の研究所の事を話すよ」
「ふむ、その方が……………」
「「「は?」」」
3人は口を揃えて声を上げた。
視線はファルグへと集まっていく。
ようやく注目したか、とでも言いたげな顔で嘆息するファルグ。
そして、
「天人の研究所を探してるんだろ? それならここの下だ」
と、何事もない様な風にファルグは言った。
みんながみんな驚いているが、一番驚いているのは言うまでもなくラクレーだ。
「なんでそんな事知って………」
「今さっき言っただろ。来たことあるって」
確かにファルグは言っている。
だが、どうせ適当な話だと思ってラクレーは聞き流していたのだ。
「でもどうせ故郷だったり任務だったりだと…………」
「任務? ずっとお前の直属なのにか? 違う違う。んで故郷か………んー、まぁ………………」
ファルグは手の甲をラクレー達に見せた。
ルーテンブルク人の象徴である呪印。
それがどうした、と思っていると、
「………………!! おい、まさか………」
ファリスが信じられなさそうな顔をしながらそう言った。
訳がわからないままファルグを見ているラクレー。
すると、何やら腕の周りになにかを纏わせた。
わずかに圧迫感を感じる。
だが、呪印ではない。
それはわかった。
紋章が光っていないのだ。
一体ファルグ何をしようとしているのか。
しかし、問題はそこではない。
紋章が光っていないにも関わらず、不思議な力を扱っている事が問題だったのだ。
「ラクレー王女。覚えといて下さい。これは魔力です」
「魔力………?」
「そうです。そしてこれが………」
ファルグは掌に小さな炎の出現させた。
「魔法。この国の人間が扱えない超常の力だ。呪印の対極と言ってもいい」
「じゃあ、なんで使えてる?」
ファルグは、フッと小さく笑った。
何を持ってして笑ったのかは、今は誰にもわからなかった。
「よく聞いてください。俺が魔法と呪印の両方を扱える理由。それは—————————俺が “天人” だからです」




