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第575話


 「拭き掃除………めんどくさい………」



 レイはぶつぶつ言いながらベラクレール………ラクレーの部屋を掃除していた。



 「レイ」



 ラクレーはパタンと手に持っていた本を閉じた。

 間違いなく聞かれたと思ったレイは慌てて言い訳を考え始めた。



 「あ、いやっ! これは違くて………」



 しかし、ラクレーは、小さく笑みを浮かべてこう言った。



 「退屈だから、外行ってみる?」



 ラクレーも、5歳児相手に怒る気はなかった。

 そしてそれを聞いたレイは見る見るうちに目を輝かせて、



 「はいっ!!」



 元気よく返事をした。











———————————————————————————











 「おいしい?」


 「はい、美味しいです!」



 ラクレーは微妙な顔で、『そう………』と返事をした。

 知っての通り、この世界は食文化が未発達で、基本的に食べ物はマズい。

 ただ、この世界の人間はこれを常識として暮らしているため、あまり違和感を感じることはない。

 つまり、この頃からラクレーは食に対するこだわりが強かったのだ。



 「王女様」


 「ここではお姉ちゃん。敬語もなし」


 「あ………えーと、お姉ちゃんはなんでそんなに強いのに戦いが嫌いなの?」


 「え………あ、あー………」



 ついさっき城を出る時、ラクレーはおよそ常人とは思えない訓練された動きで一気に城下町まで降りていた。

 それはもうスルスルと一切の淀みなくスムーズに。



 「…………身体を動かすのは嫌いじゃない。でも、訓練はつまらない。今まで隠れてずっとやってたけど、ある程度やるとどうしても実践が必要になる。けど、王族の女と言う理由で戦いに出れず、モンスター討伐もできないから………だから、いつの間にかあたしは、面倒に感じるようになったんだ」


 「そっかぁ………?」



 5歳児のレイには少し難しかったらしい。

 ラクレーもポケーっとしているレイの頭に手を置いて、難しかったか、と言っていた。



 「この先に広場があるけどっ!?………っと」



 よそ見をしていると肩がぶつかってしまった。

 


 「っと、すまない。ぶつかって——————」


 「いや、こっちこそ不注意だっ——————」







——————







 不意に目があった。

 どうやら旅人らしいが、そんな事はどうでもよかった。

 この女から微かに漂う強者の匂い。

 それを感じ取ったラクレーは思わず言葉をつまらせた。

 しかも、どうやら向こうも同じらしい。



 なんだか視線が痛い。

 面倒な予感がしてきた。



 「じゃっ、じゃあ」

 

 

 ラクレーはレイの手を掴んでその場を後にしようとした。

 すると、



 「待て」


 「!!」



 女に肩を掴まれた。

 ここで王女とバラして騒ぐのも手だが、それだと国王にバレた時の反動がキツ過ぎると呑気に考えていた。

 楽観的な考えである。


 一瞬悩み、何かあればそうしようと考えたラクレーは仕方なく振り向いた。



 「………なに?」


 「スーランに向かうにはどこへ行けばいいかわかるか? もしわかるのなら教えてもらいたいのだが」


 「え…………………あ、スーランね」



 覚悟して振り向いたのだが、どうやら杞憂に終わりそうだった。

 そう思って油断していると、



 「道を聞かれると思わなかったか?」


 「まぁ………何かに巻き込まれるなと………………あ」


 「ほう? お嬢さんにはそう見えるか」


 「う………」



 やぶへびだったかと後悔するラクレー。

 すると、



 「お姉ちゃんを困らせないで!!」



 と、怒ったレイが女の前に出てきた。



 「む、違うぞちびっ子。私は別に困らせようとしたわけではない」


 「じゃあなんなのさ!」


 「私はただ、王女殿下であれば場所を知っているかと思って—————————」



 その瞬間だった。



 「怪しい奴め」



 突然沸いた殺気。

 5歳児とは思えないほどの鋭さだ。

 レイは、一直線に女の方へ向かい腰に隠したナイフを振ろうっとしていた。

 だが、所詮は5歳児。

 避けようと思えば簡単に避けられた。



 そう思っていると、



 「待って、レイ」



 レイが飛び出す前に、ラクレーが止めた。

 そして、女に尋ねるのだった。



 「なんで、あたしを知ってる?」


 「腕利きの情報屋が仲間だからな」


 「適当な嘘を吹き込まないで貰いたい」



 後ろの男がやれやれとそう訂正する。

 やっと喋ったかとラクレーは男の方を睨む。

 こちらはどうやら女ほど強くはないが、腕は立つらしく、加えて不思議な雰囲気を纏っている。

 何にせよ油断できない。


 ラクレーはレイを後ろにやりつつ、仕方なくこういうのだった。



 「………そこに広場がある。話ならそこで聞く」


 












———————————————————————————














 「すまんな。付き合わせて」


 「思ってないくせに」


 「ははっ、バレたか」



 愉快そうに笑うこの女の名はファリス。

 どうやらこの国を旅して回っているらしい。

 まぁそらそうだ。

 いかにも旅人な格好だが、外国の者のわけがないとラクレーは思っていた。

 何故なら、当時のルーテンブルクは完全に国交を絶った鎖国状態の国だったからだ。

 しかし、



 「まぁ、そういうな。こっちも遠いところから来てるんだ。わざわざミラトニアからな?」


 「!?」



 彼女は知っての通り、ミラトニア人であった。



 「え………は?」


 「はぁ………ファリス。君は本当にせっかちだな。少しは考えたまえよ。人に知られれば事だぞ」



 男の名は、もちろんギルファルド。

 13歳若いギルファルドだった。



 「うるさい。今から聞く情報はこんくらいの誠意がないと話してはくれんだろう。それに、面倒事は嫌っていそうだしな」



 ファリスはドンっとテーブルを叩いて身を乗り出した。

 そして、こんな事を尋ねた。




 「頼む。教えてくれ………………スーランで行われているという、天人(アマビト)計画の事を!!」



 

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