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第574話


 13年前。

 ルーテンブルク。



 この国には魔法文化がない。

 故に、魔法具や魔法武具は存在せず、人間の知恵や経験から培った“手作り”な技術を用いて生活を営んでいる。


 発展度合いで言えば、地球の中世頃の文明に近いだろうか。

 

 他国と比べ、ずっと素朴な文明だった。





 しかし、強みもある。

 それは、個体毎の人間の強さだ。

 ルーテンブルク人は、他国の人間より遥かに丈夫で、寿命も多少長い。


 そして何より、“呪印” と呼ばれる特殊な能力を、誰しもが保持していた。

 


 呪印は手の甲にある紋様のことだ。

 ルーテンブルク人は生まれつき持っており、使うと紋様が赤く光る。

 子供なんかは初めて使えるようになると、よくそれを眺めてはしゃいでいたりする。





 そんなありふれた子供のように、手の甲を眺めている子供が1人。

 片手には剣を持ち、上にかざしたりしてそれを嬉しそうにずっと見ていた。



 「おとうさん! 見て見て! 呪印が使えるようになったよ!」



 レイ・ウェルザーグ。

 当時5歳。

 城の前に捨てられていたところを、国王が拾い、使用人として教育させている。



 「ふむ。なかなか筋は良いな」



 レイの頭を撫でた老夫は、セスバー・ウェルザーグ。

 レイ達の養父であり、宮仕えの執事だ。



 「しかし、ルイはとっくに自在に操っておるぞ」


 「なに!!」



 レイはグルンと首を回し、反対側で剣を振っていたルイを見た。

 丁度ひと段落着いたのか、剣を納め調息していた。

 周囲に漂う赤い光が、力を使った名残となっている。



 「フッ、やはりこっちはわたしの方が上みたいだな」



 ルイ・ウェルザーグ。

 レイの双子の兄で、同じく使用人となるべく指導を受けている。

 そして、この頃から女装をしているという筋金入りの男………いや、男の娘(おとこのこ)であった。

 なにが彼をこうしてしまったのかは謎である。



 ルイはニヤニヤと得意げな顔でレイを見ていた。

 当時からも負けず嫌いなレイは、キーキー言いながら修行に励んでいた。



 こんな風にしばらく修行をしていると、決まってある男がやってくる。



 「調子はどうだ、セスバー」



 燃えるような赤髪をした、熊のように巨大な男。

 背中には2m近くあるであろう巨大なウォーハンマーを背負っている。

 一見すると、屈強な戦士にも見えるこの男、実はなんと、



 「これは陛下。ご機嫌うるわしゅう御座います。2人ならば順調に育っておりますぞ」



 ルーテンブルク国王、ガルバーキン・ルーテンブルクその人であった。



 「ふはははは!! そうかそうか」



 国王の豪快な笑い声は、よく響いた。

 人当たりがよく、誰よりも優しい屈強な王は、こうしてよく兵士や使用人の訓練に混ざって体を動かしている。

 


 「レイ! 陛下が来たぞ!」


 「あ、本当だ!」

 


 大声に気付いたのか、レイとルイは国王の前まで急いで駆けつけて、挨拶をした。



 「「国王陛下! ご機嫌うるわしゅうございます!」」


 「おお! ルイ、レイ。頑張っているみたいだな。俺は嬉しいぞ!」



 国王は2人の頭を雑にわしゃわしゃと撫でた。

 他国の王と違い、この国の王族は“国民と近い”存在だった。



 「して、セスバー。まだしばらく訓練か?」


 「はい。後1時間ほどは」


 「ふむ、それならその間だけでも娘を鍛えてやってはくれんか?」



 国王がそういうと、後ろでビクッと何かが動いた。

 何かが慌てた様子でこの巨体に隠れている。



 「ベラクレール様ですか」


 「そうだ………って、娘よどこへ行く!?」



 ベラクレールと呼ばれた子供は瞬時にレイとルイの背後に隠れた。



 「我が可愛い娘といえど、それはないんじゃないか? いくらなんでも自分よりも小さな子供の後ろに隠れるなど………」



 説教を始めようとする国王。

 すると、空かさずベラクレール反撃する。



 「メイドに手を出して鞭でお母様に叩かれて喜んでるお父様よりマシ」


 「な、何故それを!?」



 そして更に追い討ちがかかる。



 「「へんたいおやじだ」」


 「飛んだ駄目野郎でございますなぁ」


 「俺王様なんだけど!?」



 たまに残念なところがある国王であった。



 「それに2人はもうよっぽど強い。その辺のチンピラには負けない」


 「チ!? ン、ピ………ラとか、言うんじゃありませんッ! 御行儀悪くなっちゃうでしょ!!」


 「相変わらずお嬢様には甘々にございますな、親バカ殿下は」


 「やかましいっっ!! てかもうちょい言葉をオブラートに包もうか!!」



 ほっほっほとセスバーが笑って国王をからかっていると、ベラクレールは急に目つきを変え、レイとルイを眺めた。

 すると、



 「私が見る限りたまに城に来る南区の赤い服の嫌な冒険者と同等くらい」


 「「!?」」


 「それじゃああたしは部屋に戻らせてもらう」



 ベラクレールは2人が驚いている間に素早く中庭から宮廷内に戻っていった。



 「あっ、コラ!! 戻りなさい」


 「ほっほっほ、いつの間にか素速く動けるようになっておられますな」


 「はぁ………才能はあると思うんだがなぁ。お前もそう思うだろう?」


 「それはもう………あの年であそこまで力量を正確に測りとる実力は天才としか呼びようがございません」



 赤い服の嫌な冒険者というのに、2人は一応覚えはある。

 あるにはあるが、その冒険者が本当に稀にしかこないのだ。

 しかも、戦闘を行なっているところは見たことがない筈だ。

 にも関わらず、ベラクレールは実力を正確に測りとったのだ。



 「全く、本当に困らせられるな………()()()()には」




 ベラクレール・ルーテンブルク。

 戦いを好まず、人付き合いが苦手な王女。

 愛称は、“ラクレー”



 そう、後々三帝・剣天の事である。











———————————————————————————










 そして同日、とあるミラトニア人がルーテンブルクにやって来ていた。





 「ここで合ってるんだよな」


 「無論だとも。私の情報力は君が一番知っているだろう」



 この物語の重要人物であり、ケン達もよく知る人物。

 男は今よりずっと若く、女は殆ど変わらない姿だった。

 



 「行くぞ、ギル」


 「せっかちだと老けるぞ、ファリス」


 「次言ったらケツに炎魔法ぶっ込む」


 「はははは、怖い怖い」



 ギルファルド、フィリア。

 今日は、この2人がルーテンブルクにやってきた日だった。



 少しづつ、運命の日は近付いていく。

 



 三帝が三帝となるまで後何日か、悲劇が起こるのは後どれくらいか。

 この時の2人は、まだその出来事ですら知らないのであった。

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