第573話
「………お前がそこまで入り込んでくるって事は、お前ら神にとっても先代命の神はイレギュラーだって事だよな」
トモはコクリと頷いた。
トモ達神には暗黙のルールがある。
と言っても、破れば即死ぬみたいなものではない。
ただ、他の神達に危険因子とみなされるのだ。
それはもはや、死よりも重い。
元々ヒトだったといえども、神というのは地上の生物から見れば圧倒的に上位の存在。
神威を自在に操り、息をする様に国を滅ぼす事が出来る。
それどころか、生身で現界するだけで世界が崩壊する恐れもある。
ちなみに、チビ神が生身でいられるのは、その生身が力のほぼ全部を失った遺体がベースだからだ。
ともかく、そんな奴らが全員が敵に回る。
例えトモでも、それはどうにも出来ないだろう。
故に最低限の接触以外は雑談くらいしかしなかったが、今回はそれを破っている。
だが、何ともないという事は、チビ神の方がなんらかのルールに抵触し、吊るされようとしているのだろう。
「といっても、あれはもう堕ちた神だ。僕ら神はプライドの高い馬鹿が多いからね。本気は出せないのさ。それどころか直接始末も出来ない。やれやれだ」
人間臭い神達を、トモはどうしようもなく愚かだと嘆息した。
確かに、こいつはそんな人間臭さをあまり感じない。
それこそ、本当の神のように。
「とはいえ、君らも裏切ったやつにただ従うのは気分が悪いだろう?」
みんなの顔が曇る。
トモの言う通り、気分は良くないだろう。
こいつがやった事は、俺たちの信頼をゼロにするのに十分過ぎるものだったのだから。
「では一つ聞いてみよう。僕はこう言っているけど、僕が君たちを嵌めようと思っている、って考えている人はいるかい?」
しーんとした。
誰もそこに関しては疑っていないようだ。
まぁ確かに、こいつが手を出せるのは命の神の問題だけだし。
「うん、一応信用はしてもえてるのかな。それじゃあ………………一つ、お話を聞かせてあげよう」
「「「?」」」
完全にみんな置いてかれてるな。
これは俺もなんの話をするのか分からない。
一体何を話すつもりなのだろうか。
「昔、とある神様がいました。その神様は、この世界にいる力ある者を集め、自分の後継者を決定しようとした」
「………これって」
ミレアはボソッとそう呟いた。
何やら聞いた事のある話の様だ。
「お、聞いたことのある子がいるみたいだね。ミレアちゃんはミラトニア出身だし、知っていてもおかしくはないね」
「知ってんのか? ミレア」
俺がそう尋ねると、トモに緊張しているのか、ミレアは恐る恐ると言った様子でこう答えた。
「“シューメイの奇跡” ………という昔話だと思います。今の神様達が存在するまでの出来事を書いたという作者不明の童話だったと思います」
シューメイ。
ここでもシューメイか。
実在する人物なのか?
「続けよう」
オホン、と咳払いするトモ。
そして童話を再開した。
「しかし、後継者は生まれませんでした。何故なら、ここにいる人は、誰一人神様と同じ程凄い人がいなかったからです。そして、後継者が最後まで決まることなく、神様は死んでしまったのです」
「あーなるほど。その残った連中がそれぞれ別の神になったって話か」
「やれやれ、無粋だなぁケンくんは。まぁそうなんだけど」
ありがちな話しだ。
これがどうしたのだろうか。
「興味なさげだね」
「興味はねーよ。どうせこれって事実なんだろ」
「うん」
俺以外の連中が全員ざわついた。
こんな何となく世界の謎が明かされていいのだろうか。
「だからこれは何なんだよ」
「この続きが予言だって言ったら、それでも興味ない?」
「っ………………………」
俺は思わず顔を顰めた。
あのクソ親父絡みだと、つい顔に出てしまう。
予言というのは、実は異世界にいたという俺の親父が残した石版に記されたものだ。
簡単に言うと、人間界を統合しろと言うものだ。
「いい機会だ。これについて君も色々と僕に聞きたかっただろう?」
「………………当たり前だろ。何であの野郎が絡んでくンだよ」
リンフィア達が不安そうに俺の顔を見ている。
………やばい。
動揺がやっぱり隠せてないみたいだ。
「何故人間界を統合しなければならないのか。それについて教えてあげよう………っとその前に」
トモはみんなの方を向いた。
すると、一瞬神威を操り、それを発した。
何をしたんだろうか。
そう思っていると、
「「「!?」」」
みんなが頭に手を持っていき、ひどく驚いた様な顔をしていた。
まさか、記憶を共有したのか?
トモの方を向くと、何も言わずに頷いていたのでそうなのだろう。
「さて、混乱しているとこ悪いけど、どんどん続けるよ。人間界を統合する理由。それは、人間界を守護している神の中で、最も優れた者を決めるためだ」
「!!」
「言っておくが、他の国はとっくに統合している。例えば、魔界はエヴィリアルが統合しているのさ」
リンフィアとニールは顔を見合わせた。
どうやらあいつらも知らなかったようだ。
「人間界だけだったんだよ。統合できていなかったのは。そして、その均衡がつい破られようとしている。予言は、そうなったときにミラトニアが生き残るために残されたものなんだよ」
ということは、奴は恐らくミラトニア側のものだったというわけだ。
癪な話だが、今はそれに頼る他ない。
モヤモヤとしながらも続きを聞こうとすると、ふと、トモの視線がレイ達の方に向いた。
そして、こう言った。
「そして、その原因となったのは、10数年前にルーテンブルクで起こったとある事件さ」
「「「!!」」」
今度は、レイ達ルーテンブルクのメンバーが反応した。
ややこしい話だ。
何から何まで絡んでくる
しかし、
「「「………………」」」
レイ達の反応はあまりに変だった。
国の名前が出たから、というよりは、その事件を知っているような反応だ。
「さァ、ルーテンブルク人の姉妹。それとも先生かな。君らの番だ」
「………レイ?」
ミレアがレイの顔を覗き込むと、明らかに様子がおかしいことに気がついた。
すると、
「ここは俺が話そう」
ファルグが一歩前に出てそう言った。
「もう話すぞ、お前ら」
「しかし……………………いや、言うならせっかく機会を得た今だな。いずれは知っておいて貰わねばならん事だ」
そういうルイの表情から、それはあまり人に知られたくない事だろ察した。
「レイ、いいな」
「兄さん……………………はい」
レイも覚悟を決めたらしい。
よくわからないが、重要な話みたいだ。
神妙な空気が流れる。
俺たちはファルグを囲んで話を聞き始めた。
「これは、ルーテンブルクで起きたとある事件の話だ。レイ達はもちろん、この話にとって欠かせない存在はもう3人いる………それが三帝。特にラクレーは重要人物だ。理由は何故なら………」
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これは奇しくも、蓮達が三帝から聞いた物語である。
悲劇。
まさにそういうにふさわしい血を伴った紅い記憶。
三帝を三帝たらしめた理由、レイ達が国を出た理由が今、明らかになる。




